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第14話 月の底

                *** 

 庭で落ち葉を掃き集めていると影がさした。 

 烏たちがじっと僕の仕事を見つめているのが気配でわかる。

 ──カァカァ。

 ──カァカァ。

 やつらは光るモノが好きだから、僕が手伝いをして貰った駄賃で集めた大事な宝物たち、ビー玉、ピン止め、ジュースの王冠などをかすめ取ろうとして居るのに違いない。

 本当に烏たちときたら、気ままに空を飛び回りたわわに実った庭の柿の実なんかも勝手に食べて、ただ僕を見物していて、ずるい。

 こんな寒い日は僕だって手伝いなんかしたくない。

 重い斧を振り上げてマキを作り血豆が潰れたり、冷たい川の水で洗濯をして手がひび割れたりするのは嫌だ。

 ずっと遊んでいたい。

 烏は飛べるし、体もでかいから、他の小鳥に馬鹿にされたり餌を取られることもなさそうだ。ため息と共に思った事が口に出た。

「鳥は自由でいいなぁ」 

 木がガサガサと鳴り、影が揺れた。

 ──キキズテナラナイ。

 ──聞き捨てならない。

 奇妙な声が谺した。

 ぎょっとして見上げると柿の木の上に天狗さまが胡座をかいて、僕を睨んでいた。

 さっきまで烏だと思っていた気配は天狗さまだったのだろうか。それとも天狗さまが烏に化けていたのだろうか?

 僕は不思議と恐れること無く天狗さまに訊いた。

「天狗さま。天狗さまは人間なの? 鳥なの? それとも神様なの?」

 ──……。

 こたえない。

 ただ黒々とした眼で僕を見つめている。

「ねぇ。天狗さま。僕を弟子にしておくれよ」

 ──なぜ弟子になろうとする?  

 こんどはこたえてくれた。

「だって楽しそうだもの」

 天狗さまは呵呵と笑った。そして懐手から顎をひねり、少し考えてから言った。

 ──弟子にしても良いが、途中で逃げ出されても適わない。何か相応の品と引き換えだ。


 捧げ物……。僕には底に穴のあいたバケツしかなかったが、天狗さまが鳥や烏に近い、もしくは烏が化けた姿なのであれば、烏同様光り物が好きなのではなかろうか?

 僕は急いで家の中へ戻り、洋行帰りのおじさんがくれたおもちゃの銀バケツを持って来た。貰った時は赤と金のリボンがかけられて、中に人形やおもちゃ、それにお菓子が入っていて本当に宝物のようだった。

 太鼓のように叩いたりして遊んでいたら底に穴があいてしまったけれども。

「天狗さま。どうぞ、これ──」

 バケツを受け取った天狗さまの嘴が少し開いて、笑ったように見えた。

 ──カァ。

 ──カァ。

 ──呵呵。

 やはり天狗さまでも光り物が好きなんだと僕は思った。

 ──小僧。お前が思っているよりも楽しくも、楽でもないぞ。


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