政府の方針として、
パンダは殺せない。
ラブパンダのあり方こそ政府のあり方であり、
パンダは殺せない。
どんなことがあろうとも、
パンダは殺せない。
パンダを殺すのは違法だ。
白黒の敵も、人々もわかっている。
でも、命を守るために人はパンダと戦う。
あるいは、ラブパンダとも戦う。
世の中戦いばかりになって、
混沌としている。
野良パンダが人の家に入ること。
昔は不法侵入という言葉が使われていた。
数百年に及ぶパンダ保護政策の果て、
パンダはどこに行っても合法ということになった。
家に入ろうが、
冷蔵庫から何かをあさろうが、
人を殺そうが、
パンダの場合は合法ということになった。
だから人はパンダを憎む。
パンダよけのギミックを取り付けるだけでは飽き足らず、
明らかにパンダへの警告らしいものが、
描かれていたりする。
パンダに通じるかどうかはわからない。
進化したパンダなら、あるいは。
少女が一人、留守番をしている。
パンダの脅威と政府の方針を学校で教育されている、
ごく一般的な少女だ。
家のある住宅街は静かで、
たまに迷い込んだパンダは、
ラブパンダの手で保護されるか、
白黒の敵によって殺されるか。
それは、パンダにとっては運のよしあし程度。
殺される人がいないのがとりあえず幸いかもしれないと。
そんな普通の住宅街だ。
少女が転寝をしていると、
がさごそと音がする。
「パパ?」
少女は寝ぼけながら部屋を出る。
「パパ?もう帰ってきたの?」
返事はない。
ただ、がさごそと音がするばかり。
少女は音のするほうへと向かっていく。
危険だとは思わない。
あくびをしながら台所へ。
そこには、冷蔵庫をあさる三毛パンダが。
少女のあくびは引っ込んだ。
辺りを見回すと、玄関はすごい力で壊されている。
どうしようと少女は思う。
逃げて気がつかれたらどうしよう。
相手は獰猛なけだもの。
追いつかれて殺されるかもしれない。
パンダは一心不乱に何かを食べている。
少女はその場にへたり込む。
だめなんだ、
パンダを殺してはいけないんだ。
学校で教わった政府の方針。
少女が殺されても、
パンダは何の咎もうけないんだ。
パンダは何をしてもいいんだ。
少女は絶望する。
人はなんて非力なんだろうかと。
外から、大声を張り上げているのが聞こえる。
ラブパンダにパンダを引き渡してください、
三毛パンダは危険だ、早く射殺して、
パンダは保護すべき、
早く逃げるんだ、
などなど声が混じっている。
これは、学校では教えてくれない、いけないこと。
三毛パンダが少女に気がつく。
くるぅりとゆっくり振り返る。
外の言い争いはまだ続いている。