パンダ頭の男が、
裏通りを歩いている。
通称店長と呼ばれる、
パンダ頭のやや目立つ男だ。
店長は伝説の男の末裔を探している。
ネットワークを駆使できる店長にとってですら、
その末裔を探すことは困難だった。
それだけ、最低限の電脳や、
ネットに触れないで生きているのだろう。
痕跡を残さないように。
店長にはそう思われた。
店長は情報を得ている。
とても悪い情報だ。
悪い情報を回避するには、
伝説の男の末裔がどうしても必要だ。
手を借りたい。どうしても。
ひとつの島の行方が左右されるような情報なのだ。
裏通りのごみごみした廃墟。
ようやくネットの痕跡で接触できた、
伝説の男の末裔は、
その廃墟を会う場所に指定してきた。
店長の情報が確かならば、
そこは動物園みたいなところがあったはずだ。
店長は廃墟を見る。
「ここです」
やわらかい女性の声がする。
「あなたが…」
店長は言葉を選ぶ。
何といったらいいのだろう。
伝説の男の末裔は、
確かにここにいるのに、もろくはかなげだ。
パンダに会ったら一撃でやられてしまうに違いない。
本当に彼女が末裔なのだろうか。
店長は無表情のまま悩む。
彼女が話し出す。
「私が伝説の男、ムツゴロウの末裔です」
すべての動物を手なずけた男。
ムツゴロウ。
動物という動物が、彼に心を開いたと伝説になっている。
その末裔である、この女性の力を借りれば、
あるいは、あの島の危機も…
店長はそう思った。
「力を貸してもらいたい」
店長は率直に切り出す。
女性は首を横に振った。
「私は末裔であるだけで、ムツゴロウの能力は持っていません」
「そんな…」
「ムツゴロウの能力を解明するために、血筋のものはあちこちにさらわれました」
女性は唇をかむ。
「私はムツゴロウの能力を持っていません」
女性は繰り返す。
「ひとつの島の命運がかかっているんだ」
「私には関係のないことです」
女性は言い放ったが、声が震えている。
こんなことがあるから、彼女は隠れていたのだろう。
助けにならない、表に出たくない。
担ぎ出されても、いいことは何一つない。
店長はそこまで悟った。
「わかった」
店長は引き下がる。
「末裔というだけで、命運を抱えるのは、昔の勇者の仕事だ」
店長は女性に背を向ける。
「か弱い女性の仕事じゃない、すまない」
店長はそのまま去ろうとする。
「あなたは」
女性が問いかける。
「パンダと人間のハーフ?」
店長は立ち止まり、ポーカーフェイスのパンダ頭で振り返る。
「私はパンダ屋の店長ですよ」