「それじゃ、俺は仕事に戻るから」
解体屋のジョーが歩き出す。
「何かあったら作業場に来てくれ」
「うん」
ネネはうなずくと、部品の山を見た。
なんだか、うずうずする感じがする。
これで生けてと、花を目の前にする感覚に似ている。
作りたいなと思う。
何というわけではないが、
部品を組み合わせて、何かを作りたくなるような山だ。
こぉんこぉんと音がする。
ジョーが行った先だ。
多分解体をしているのだろうとネネは思う。
大きな音を立てて、解体しているのだ。
こぉんこぉん。
音が響いている。
楽器のようだなとふと思う。
壊す楽器というのも変だが、そんなことをネネは思った。
ネネは山を見上げる。
大きな部品の山だ。
なんとなくではあるが、解体する音にあわせて、
小さな音を響かせているような気がする。
さざなみのような、部品の響き。
解体屋は楽器なのだろうか。
ネネはそんなことを思った。
「あら」
ネネの後ろで女性の声がする。
振り返るとそこには、
能面のような顔をした、音編みの女性がいた。
戦闘区域の近くで、アコーディオンを奏でていた女性だ。
「父に何か用事?」
相変わらずの能面のような顔で、音編みの女性が問いかける。
「父?」
音編みの女性はうなずいた。
「解体屋のジョーは私の父です」
「そうなんだ」
ネネはなんとなく納得する。
だから部品が響いたりするんだろうなと勝手に納得する。
こぉんこぉんと音が聞こえる。
それに響いて部品がさざなみを立てる。
何かを作りたくなる解体。
破壊すると創造するが一体になっているような気がした。
「父は楽器職人だったのです」
音編みの女性が話し出す。
「でも、父は思うような楽器が作れなかったのです」
「それでどうしたの?」
「父は全てを壊してみました」
「壊したんだ」
「はい、それではじめて父は気がついたといいます」
「気がついた?」
「自分は、さばくほうが性に合っていると」
「それで解体屋?」
音編みの女性はうなずいた。
「父から聞いたことがあります。物には小さな部品にまで魂があると」
「ふむふむ」
「その小さな魂までちゃんと腑分けをしたいと」
「解体屋魂だね」
「そうです」
音編みの女性は、少し誇らしげに微笑んだ気がした。
「父は戦いを好みません」
「そうみたいだね」
「魂の宿った創造のかけらが、武器にされることを好みません」
ネネは思う。それはきっと音楽だからだ。
楽器を武器にされるように、
ジョーにとっては悲しい行為なのだろうと思う。
「私はアコーディオンを作って音を編みますけれど」
「けれど?」
「けれど、需要は圧倒的に武器なのです」
「断れないの?」
「断れません。身を守ってくれるのも、また、武器だからです」
「そうか」
こぉんこぉんと音がする。
それはきっとジョーの悲しい調べだ。
「音編みさんはどうしてここに?」
「アコーディオンの調整に。ここの魂の部品なら何でも出来ます」
「そうなんだ」
ネネは納得する。
解体屋魂は、音に通じていた。
音は編まれて人に聞かせる音楽になる。
音楽は心に残り、つながれていく。
それはネネの辿るのとは違う、一本の線のような気がした。
「では、これで」
音編みの女性が奥に引っ込む。
ネネはそれを見送った。
『音楽ですか』
ドライブが話しかけてくる。
「芸術と音楽がよく似ている気がするよ」
『そうですか』
「壊して創るような気がするね」
『神様みたいですね』
「だから音楽は伝えられていくんだと思うよ」
こぉんこぉんと音が響いている。
解体の音だとネネは思う。
破壊と創造の音だ。
かすかにアコーディオンの旋律が聞こえる。
ほんの、かすかだが、聞こえる。
音編みの女性が調律しているのかもしれない。
ネネは、なんだかこの場所が、特別な場所のような気がした。