ネネは走る。
見つかったら撃たれるかもしれないと、走る。
ここは戦闘区域。
とにかく走っていかなくちゃと思う。
学校の建物が見える。
線はそこへと続いている。
ネネは気分だけ加速する。
実際速くなっているかは別にして、
ネネは速くなった気分になる。
かんかんかん!
渡り靴は警報を出しっぱなしだ。
ネネは無視して走る。
不意に何かの気配。
ネネはちらと横を見る。
気配がある。
ネネは、ややあって立ち止まる。
静かな空間。
遠くで銃声が聞こえる。
「誰?」
呼びかけてみる。
攻撃されたら逃げればいい。
逃げられたら、だけど。
「久しぶりです」
物陰から声がする。よく通る声だ。
「器屋です。その節はどうも」
物陰から現れた白装束は、確かに器屋だ。
「ここは戦闘区域だよ」
「知っていますよ」
器屋は静かに言う。
「もう、朝凪の町のほとんどが、戦闘区域です」
「そうなんだ」
「そうなのです」
器屋はうなずく。
「この先の建物を中心に、戦闘区域は広がってきました」
「建物、学校じゃないの?」
ネネは先にある建物を示す。
「もとは学校だったようですが、今では教団が本拠地にしているようです」
「教団って?」
「教団としか伝わっていません。未来を見ると聞きます」
「そうなんだ」
ネネは納得する。
そしてまた、ネネに疑問がわく。
「器屋さんはどうしてここに?」
「情報を得たのです」
「情報?」
「理の器を、教団が握っている可能性です」
「理の器」
「その器を使えば、理が自在に動かせます」
「未来を変えることも?」
「そう思い、ここまできました」
ネネはうなずく。
器屋は理の器を求めている。
何かを変えたいというのではなく、器屋として。
「教団はどんどん過激化していると聞きます」
よく通る声で器屋が言う。
「逆らうものを殺し、力で抑えていると聞きます」
ネネは殺された人を思い出す。
悲鳴を上げていた人。
勇者に頼るしかないといっていた。
「この近くで結界が張られています」
「結界」
「光を吹き付けて飛ばす類のものです」
器屋が冷静に言う。ネネはそれで飛ばされたらしい。
「少し行ったところで鋏師と合流します」
「鋏師は何で?」
「レッドラムの線が集中しているらしいのです。それを断ちに」
「なるほど」
ネネは納得する。
そして、ネネは続ける。
「一緒に行っていいかな」
「構いませんよ。狙われる覚悟があるなら」
器屋はさらりと言う。
ネネはうなずいた。
そのくらいなら覚悟できている。
「拒絶してくる光には、占いで得たものが必要だってね」
ネネは電話でハヤトから聞いたことを復唱する。
器屋の薄い眼が開かれる。
「向こうの世界から持ち込んできたよ。コピーだけど」
「ほう」
器屋が感嘆の声を漏らした。
「向こうの世界にも、占い師が?」
ネネは少し考える。
「代価を得ている占い師だよ」
「代価を」
「家族を一つ殺したりしてる。代価として」
「ふむ」
「性質は似ていると思うんだ」
「なるほど」
器屋はうなずく。
ネネも言ってから気がつく。
人を殺したり、教団としたり、未来を捻じ曲げたり、
タミの怖い側面を引き伸ばしたみたいに感じる。
「行きますか?」
器屋が尋ねる。
「行くよ」
ネネは短く答える。
器屋は満足したようにうなずく。
ネネは走り出す。
器屋も走り出す。
かんかんかん!
渡り靴がなる。
走る気配に一つ加わる感じがする。
「遅いですよ」
走っている二人に、鋏師が加わっている。
「しばらく行ったところで結界があるよ」
「彼女が結界破りを持っている」
「よく手に入ったなぁ」
「つべこべ言わずに、彼女を先頭にして突破します」
「了解」
ネネもうなずく。
ネネは加速する気分になる。
かんかんかん!
ネネは学校に向かって突入した感じを持った。