ネネは目の前が陽炎のように揺らいでいるのを見る。
結界かもしれない。
ネネは走る。
タミの解答のコピーで破れるだろうか。
飛ばされたらそのときだ。構うものか。
ネネは走る。
ネネのポケットが熱くなる気がする。
折りたたんだコピーを入れたポケットだ。
ネネは陽炎に突っ込む。
陽炎は瞬間、光の道の様になる。
なんだか、作られたセットのようにネネは思った。
構わずネネは走りこむ。
後ろから器屋と鋏師もかけてくる。
ネネは学校に入ったことを感じると、
校舎の近くで息をついた。
結構ハイスピードで走っていた気がする。
「どうやら入れたようですね」
器屋がよく通る声で話しかける。
ネネはうなずいた。
「うーん?」
鋏師があたりを見回して首をかしげる。
「鋏師さん、何か気がついた?」
「見張りが一人もいない気がする」
「そう言われれば」
ネネも器屋もあたりを見る。
陽炎の中は、異様なほど静かだ。
「結界に囲まれてるから、じゃないよね」
ネネは思ったことを言ってみる。
器屋が難しい顔をした。
「結界に囲まれているとはいえ、コピーの一つで通れる結界です」
「だよねぇ」
「たとえばどこかに集まっていると考えるべきではないでしょうか」
「どこかに」
「侵入者を他に見つけたとか」
ばたばたと足音が聞こえる。
ネネたちはあわてて物陰に隠れた。
「いたかー?」
「こっちには何もいないぞ」
「勇者の仲間がいるかもしれない。しらみつぶしに探せ!」
「了解!」
見張りはこのあたりを巡回すると、どこかへまた行ってしまった。
ネネたちは誰もいなくなったことを確認すると、
物陰から身を出す。
「勇者の仲間」
ネネはポツリと言ってみる。
器屋がうなずく。
「先に勇者が入ってきていて、少なからず混乱しているようです」
ネネはうなずく。
「私としては、理の器を取るのに混乱していたほうがいいですね」
「うん」
「鋏師さんはどうですか?」
「レッドラムの線が、集中しているところがある」
鋏師は上を見上げている。
ネネも何かが見える。
陽炎を産み出している、ぼやけの中心のように見えた。
「とにかくあの線を断たないと」
ネネはうなずく。
ネネは自分の線を見る。
上へと向かっている。
「とりあえず一緒に上まで行ってみようか」
「ばらばらになっても、行き着くところは一緒ですしね」
ネネはうなずく。
鋏師と器屋もうなずく。
「通り魔が来るかもしれませんね」
「構わないよ」
ネネは自分に言い聞かせるように言ってみる。
構わない。
来たなら弾き飛ばしてやる。
ネネはそっとドライブをなでる。
『行きますか』
「行くよ。しっかりつかまってて」
『はいなのです』
ネネは走り出した。
かんかんかんと渡り靴がなる。
「しんにゅうしゃだぁ!」
誰かが騒いでいる。
ネネは走る。
勝手知った学校に構造が似ている。
階段の位置も把握している。
線は上へと向かっている。
鋏師の目が確かならば、
レッドラムの線も上に集中している。
上へ行くほど危険だ。
たたたんと音がする。
どこかで銃を放っているのかもしれない。
静かに混乱しているのかもしれない。
「しんにゅうしゃだぁ!」
遠くでまた声がする。
他の侵入者もいるのかもしれない。
混乱上等。
ネネは走る。
不意にネネの目の前で視界が悪くなる。
何が起きたのか、ネネはとっさに判断する。
きっと、通り魔の一種だ。
「うるさい!」
ネネは通り魔を一蹴する。
気配だけが漂っている。
隙あらば取り付いてやろうという気配。
負けるものか。
ネネは心に誓って走る。
階段を駆け上がる。
鋏師が鋏をふるう音がする。
レッドラムの線をいくつか断ったのかもしれない。
ネネは走る。
線を辿って屋上を目指して。