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第132話 勝負

晩御飯を食べる。

混ぜご飯をもくもく食べる。

ネネは正直何の味もわからない。

電波ジャック。

何を話していいかわからないし、

何が起きているかを伝えることも出来ない。

「一体どうなってるんだろうなぁ」

「さぁ、ねぇ」

「物騒なことがないと、いいけどなぁ」

「そうねぇ」

親もあまり立ち入ってこないのが救いだ。

ネネは混ぜご飯を食べきる。

「ごちそうさま」

ネネは言葉少なにそれだけ言うと、台所で食器を洗った。


風呂に入り、ネネは考える。

今度の朝が勝負だとネネは思う。

教主やタミが、何を望んでいるにしろ、

やりすぎなのだとネネは思い直す。

たとえば、彼女らが世界を完全にするためにしているのにしろ、

行き過ぎた代価を取って占っているのだと思う。

辻がいい例だ。

バーバのもとに引き取られていったけれど、

なくした家族が帰ってくるわけでない。

「千の線」

ネネは湯船でつぶやく。

昔、占い師が朝凪の町にいて、

勇敢なる者が占い師を倒し、

占い師は千の線になったといっていた。

千の線は教主に宿り、

教主は代価と力を得て、空に向かう。

操られているのかもしれない。

それこそ、千の線が絡まる人形。

千の線は、多分ばらばらに町に張り巡らされていたのだろう。

それが空に向かってまとまるのを狙う。

占い師のうらみも、レッドラムの線とともに断つ。

そうしないと、多分レッドラムの線がはらむ、通り魔にやられる。

通り魔は怖い。

容赦なく意識をかき乱したり、

または自然現象の大きなのを作ってえぐったりする。

勇者とともに突風で飛ぶ予定だが、

勇者が防いでくれるのも、限界があるだろう。

少ない手数でしとめないと。

突風の限界でみんなが落ちる。

ネネの手をすり抜けて落ちていくイメージ。

ネネは嫌だと思った。


ネネは風呂を上がり、

渡り靴を取りに玄関に行き、

台所で角砂糖を失敬する。

たんたんと階段を上がり、部屋に戻ってくる。

「ドライブ」

『ネネ』

ドライブはベッドで転がっていた。

「角砂糖持ってきたよ」

『ありがとうなのです』

ネネはドライブに角砂糖を押し付け、

ベッドのはしに腰掛けた。

「ドライブ」

『はい?』

「何であたしなのかな」

ネネはポツリと独り言のようにもらす。

『ネネがネネだからです』

「答えになってないよ」

『質問にもなっていません』

「そうだけどさぁ…」

『迷わないことですよ』

ドライブが頭の中で優しく語りかける。

『約束があるじゃないですか』

「約束?」

『久我川ハヤトに絵を描いてもらうでしょう』

「ああ、うん」

『約束があれば、その約束のために動けるのですよ』

「そうかな」

『ネネは約束を守る。生き残る。ネネの納得する形で終わらせる』

ドライブはネネにいいように組み立てていく。

『心によどみがないネネを、久我川ハヤトはわかるのですよ』

「そうかな」

『美しさを描く人間は、そういうのを見抜くと思うのです』

「少しわかる気がする」

真剣で澄んだハヤトの目を思い出す。

「ひたむき」

ネネは言葉にする。

ひたむきってやつなのだろうと思う。

それから、一途。

芸術家は変わった人が多いというけれど、

ハヤトは多分、ぼそぼそつぶやきながらも繊細なのだろうと思う。

『ネネは線を操る潜在能力があります』

「何度も言われたけど、線に引っ張りまわされてる気がするよ」

『それでも線は、ネネの心で変わっています』

「前にのびてるだけのような気がするけど」

『ネネが目指すべき方向にいつだって線はのびているのです』

「間違ったりしていないのかな」

『ネネの線は間違えていません』

ベッドの上でドライブが跳ねる。

『ネネは間違えていないと私が保証します』

ネネは笑った。

頭の中でドライブも笑っている。

『さぁ、明日の朝が勝負ですよ』

「うん、そうだね、寝ようか」

ネネは机の上にドライブの寝床を作る。

ドライブをそっと導くと、ネネもベッドに入って眠った。

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