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第七話

「でっ、でたぁぁぁぁ!桃色縦ロール!」

司はサッと立ち上がり後退りし、臨戦体勢を取る。


「出たとはなんですか!まるで人をお化けみたいに言って!ワタクシ何度もあなたに声をかけていたんですよ?しかも変なあだ名まで付けて」

お嬢様は頬を膨らませる。


「あぁ・・・。いや、悪かった」

司は頬を掻きやりづらさを覚える。

なんたってこのお嬢様の付き人2人を用心棒ができない体にしてしまったのだから。

銃弾やら石つぶてが明らかに手を貫いていた。

銃を握ることを愚か、おそらく日常生活にすら支障をきたすレベルの怪我だ。


「んで、桃色お嬢様は一体俺に何の用が?」

司は恐る恐る用件を聞き出す。


「桃い・・・。コホン、先ほどから変なあだ名ばかりでワタクシを呼びますが、ワタクシには卯月 桜うづき さくらという名前が有りますのよ」

卯月桜は自分の名前を名乗る時、何故か誇らしげだった。


「あぁね」

司は適当に流す。

卯月桜と言う名前。

おそらくあの口ぶりからして名の知れた有名人なのかもしれないが、俺は生粋の田舎生まれ、田舎育ち。

二週間前まであの村から出たことがなかったのだ。

つまり、キョウトのことはこれっぽちも知らん。


「オホホホ!少しは驚きに・・・」

桜は冷や汗が滝のように流れ始め、とんでもなく焦り始めているのを感じる。


「なんですの!その反応は!全く心当たりありません見たいな顔までしてるじゃないですか!」

卯月桜の予想とは大きくこと異なった反応。


「すまん!本当にしらん!」

司は腰を九十度に曲げて、手を合わせ頭の上に突き出す。


「なんてことですの!本当に卯月家って聞いたこと有りませんか?日本皇国が誇る十二家有る名家のひとつですわよ!?その中で卯月家と言えば他の十一家よりも日本皇国の軍事力で貢献している家なんですが、本当にご存知ないのですか!?」

桜は捲し立てるように自分の家柄がどれだけすごいかを熱弁する。


「あぁ!!」

司は手のひらをポンと叩き、思い出したような声をあげる。

その動きに桜もようやくわかってもらえたかとホッと胸を撫で下ろそうとする。


「全くしらん!」

司の言葉に桜はズコーッと倒れ込む。


「さっきの動きはどう考えても知ってる人の動きだったじゃないですか!」

桜は起き上がり、司の首元を掴みブンブンと振り回す。


「や、やめろ!はしたないぞ!こんなことしてたら上級生に怒られるぞ!おい、聞いてんのか!」

司の言葉で冷静になった桜は司を離してから咳払いをする。


「学ランに皺が出来ていましたので伸ばして差し上げただけです」

誰がどう見ても振り回していたことは間違いないのだが、桜はこれで誤魔化し通すつもりのようだ。


「いや、新品の学ランよ!?皺一つなかったからね!?」

司が桜を咎めようとするが、桜は顔を背けて全く聞く耳を持たない。


「はぁ、わかった。皺直してくれてサンキューな。んじゃ俺もう行くから」

話が通じなさそうなので、司はその場を後にしようとする。


「お待ちになってください!まだ話は終わってませんのよ!」

桜は咄嗟に襟を掴む。


「ぐぇぇぇ!」

襟元を掴まれた司は首が閉まり変な声を上げる。


「あっ、失礼しました」

桜は襟を掴んだ手を離すと、司はバタンとうつ伏せに倒れ込む。


「なんなんだよ!俺になんか恨みでも・・・、あぁ、用心棒やっちまったから恨みは有るか」

立ち上がりながら、自分にツッコミを入れる。


「んで、用事ってなんだよ」

服装を正しながら、桜に質問を投げかける。


「あなた、ワタクシと婚約しなさい!」

桜の言葉が校内に響き渡り、そのまま空まで届きそうだった。


「はぁ?」

司はいきなりのことで言葉を失う。


「もちろん、了承ですわよ・・・。何が"はぁ?"ですか!ワタクシの話をちゃんと聞いてましたか!こんなこと何度も言わせないでください」

桜との婚約。

桜の予想では司は今頃泣いて喜んでいる筈だったのだが、全く意図していない返事だったので、話を聞いていなかっただけなのだと考えた。


「いや、話は聞いてたわ!なんで俺とお前が結婚せなならんのだ!俺にはこの世の百合ップルを陰ながら守るっていう崇高な使命があんだよ!付き合ってられっか」

司は桜に背を向け、今度こそ立ち去ろうとする。


「ですから!お待ちになって!」

桜は咄嗟に司の襟を掴む。


「ぐぇぇぇぇ!」

またもや首が締まり、司はベロを出しながら変な声を上げる。


「私と婚約すると言うまで絶対に返しませんから!」

先ほどは司の苦しむ声を聞いて咄嗟に離してしまった桜だが、今度は司の襟を絶対に離そうとしない。


あぁ、これはほんとにダメなやつだ。

首を絞められて、司の眼前にはお花畑まで見えてくる始末。

だが司には自分で言っていた通り、崇高な使命がある。

こんなところで死んでたまると最後の力を振り絞って司は自分の学ランのボタンを能力を使って外す。

ボタンが外れた学ランをサッと脱ぎ捨ててシャツのまま司は桜のもとから逃走する。


「はっはっはー!俺なんかと婚約するんじゃなくてお前も好きな娘作れよー!」

司史上最高速度で走って逃げていく。


「あぁ!そんな!待ってくださいましー!」

司の学ランが脱げた勢いで尻餅をついてしまった桜は逃げる司の背中をただ見つめることしかできなかった。


自分の部屋まで逃げた司はバタンと扉を閉めて、鍵をかける。


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