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第十五話

数分後


「お待たせしました!あら?もしかして待っていてくださったのですか!とっても嬉しいですわ!」

桜もオムライスを持って司の横に座る。


「まぁ、せっかく一緒に飯食うんだからな。待っとくは普通だろ」

本当に嬉しそうな様子に司も少し頬が緩む。

そんな司の顔を見ることもなく、桜は自分の持ってきたオムライスと司の持っているオムライスを交互に見比べる。


「なんだか司様のオムライスワタクシのオムライスと少し違いますわね」


「あぁ、俺のはちょっとアレンジして貰っててな。中はチキンライスじゃなくてバターライスにしてもらって上にはケチャップじゃなくてマヨネーズかけて貰ってんだよ」

手を合わせていただきますと呟き、マヨオムライスを食べ始める。


「一口いただきますね!」

桜は司から許可をもらうことなく、スプーンで司のマヨオムライスを掬い、口に運ぶ。


「おい!こら!勝手に食べんじゃねぇよ!あんま、そういうことやってっと先輩にはしたないって咎められるぞ」


「大丈夫ですわ!今はほとんど生徒もいませんから!」


「あー、桜ちゃん。見ーちゃった」

気の抜けた声が桜と咎める。


「うっ・・・」

声の主がすぐにわかったのだろう。

桜は姿勢を正し、上品にオムライスを食べ始める。


「薊先輩。おはようございます」

司はスプーンを置いて立ち上がり、礼をする。


「司君。おはよー。わざわざ立ち上がらなくていいよー。私そんなに体育会系とかじゃないからさー」

薊は手の持っていた白米、味噌汁、焼き魚、漬物の置いてあるお盆を桜の前の席に置いてから座る。

薊もすでにぴしっと制服を着ていて食堂でご飯を食べた後学校に行くのだろう。


「桜ちゃん。ダメだよ?人様が食べてるものを許可もなく取ったりしたら。はしたないぞー」

お箸を器用に使い、薊は焼き魚の骨をしっかりと取ってから食事を始める。


「はい、気をつけます・・・」

昨日もそうだったが桜はどうやら薊に弱いらしい。

さっきまでの調子はどこにいったのやら、今は完全に借りて来た猫である。


「おい、さくらぁ!」

司は両腕を胸の前から下ろす。

その様子は海外のコミカルなテレビ番組に出てきそうな動きである。


「昨日もそうだったけど、ほんと薊先輩の前だと大人しいよなぁ」

司はニヤニヤと笑いながら話す。


「ふふふ、桜ちゃんは本当に可愛いなー」

薊もニヤニヤと笑う。


「もう!薊お姉様はいけずです!」

頬を膨らませてオムライスを口に運ぶ。


「ふふふ、頬を膨らませてる桜ちゃんもかわいいなー」

ニコニコと笑いながら焼き魚と白米を口に運ぶ。


「あっ、そうだ!今日の放課後生徒会室に二人とも来てよー。2年と3年の陰陽寮うらのつかさのみんなもいるからさー」


「うらのつかさ・・・?」

司が首を傾げると薊はふふふと笑う。


「司君のことじゃないよー。ほら私達の苗字って和風月名を冠する苗字でしょ?日本皇国には睦月から師走まで十二家あるんだけどねー。その家全部をまとめた呼び方が陰陽寮うらのつかさだよー」

薊が懇切丁寧に説明をしてくれる。

清水寺でもそうだったが薊は誰かに物を教えるのが好きなのかもしれない。


「なるほどな。勉強になります!」

司は薊に頭を下げる。


「ワタクシはちょっと・・・」

桜はあまり乗り気ではないようだ。


「えー、桜ちゃん来てくれないのー?お姉さん寂しいよー」

薊はわざとらしく目元付近に手を持っていき泣き真似をする。


「あぁあ、薊先輩泣かしちゃった。桜が行くって言わないから」


「もう!わかりましたわ!行けばいいでしょ!その代わり司様も一緒に来てもらいますから!」


「えっ・・・。俺はちょっと新たな百合との出会いを探しに校内を・・・」


「来てもらいますから」

グイっと顔を近づけて司に圧をかける。


「はい・・・」

桜の圧に負けて司も渋々了承する。


「やったー!二人とも来てくれるんだね!ありがとうー!」

泣き真似をやめて薊はケロリといつもの表情に戻る。


「てか、俺全く場所わからないんですけど、生徒会室ってどこにあるんですか?」


「あっ、そうだね。今日からだもんねー。生徒会室は本校の横に有る小さな建物だよ」

薊は生徒手帳を取り出し、中に付録されている地図を開いて、生徒会室のあたりを指差す。


「部屋っていうか建物なんすね・・・。さすがお嬢様学校だ・・・」

部屋だと思っていたがまさかの建物だったことに司は驚きを隠せない。


「そうだよー!絶対来てよー!待ってるからねー!」

薊は食べ終わったお盆を手に持ち、返却口の方に向かっていった。


「生徒会だってさ。俺が居た村では学生も少なかったせいか、そういうのなかったからちょっと憧れあるんだよな。桜は?」

司が桜の方に視線を向けると、桜は俯いていて司の話を聞いてなさそうだった。


「大丈夫か?」

司が再度声を掛ける。


「え、あっ!えと、そうですわよね!」

桜は司の声に気付き要領の得ない返事をする。


「・・・。生徒会室に行くのやめとくか?あんまり乗り気じゃなさそうだけど」


「い、いえ、もう行くと薊お姉様にも伝えましたし。行きますわ」

桜の覚悟を決めた目を見て、それ以上は追求することをやめた。


「そういえばさ、クラス分けって聞いた?俺聞いた覚えないんだよな」


「クラスですか?今日の登校時に発表されるみたいですわ。まぁ、ワタクシと司様は同じクラスですけど」


「ふーん。そうなのか」


数秒の沈黙の後に司は違和感を覚える。

ん?今さらりとおかしなこと言わなかったか?

同じクラスですけど?

今日の登校時に発表されるのに何で知ってる?


「またまたー。今日の登校時に発表なのになんで桜が知ってんだよ」


「ワタクシから学園長にお願いしましたから」


「あの銭ゲバ古狸ぃぃぃぃぃぃ!汚い!大人は汚いよ!」

バンバンと机を叩きながら不条理な世界に嘆く。


「いいじゃ有りませんか!これから50年以上一緒に居るんですから学生時代の3年なんてあっという間ですわ!」


「いや、本当どんなタイミングでもねじ込んでくるよな。ちょっとすげぇなって思い始めてるもん」

どこまで本気なのか知らんが桜の婚姻ネタを何かあるたびに入れ込んでくるのは才能だと思う。

その後食堂でいい感じの時間になるまで過ごし、クラス発表がある高等部正面玄関まで移動する。


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