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第十六話

司と桜は発表時間ちょうどくらいに正面玄関に到着する。

新入生達はどんなクラスになるのか楽しみにしているようで、クラス発表に盛り上がっているようだ。


「そうそう!普通はあぁ何だよ!一緒だと良いねとか、どんなクラスになるのかなとか、そういうのを楽しみにするんだよ」

司が桜の方に視線を向けるが桜は自分のことを言われていると思っていないのか、全く意にも介していなかった。


「おい!桜のこと言ってんだぞ!」


「えっ?ワタクシですか?まぁ、いいじゃありませんか!ワタクシと司様が一緒なだけで、他はどうなってるか知りませんから!」


「別のクラスになることを期待してたんだけどな・・・」


「万が一、いえ億が一、違うクラスであったとしても、ワタクシ、司様の部屋に毎日顔を出しますから!ご安心を!」


「安心できねぇよ!てか今朝だってどうやって入ったかまだ聞いてないんだけど?」


桜は下手くそな口笛を吹き、どうやって入ったかを教えないつもりだ。


「口笛下手すぎてひょっとこみたいになってんじゃねぇか!」


「あっ、先生がクラス発表の紙を持ってきましたわ!ほら!見に行きましょ!」

桜は先生の姿を見つけて、司を引っ張ってクラス発表を見に行く。


掲示されているクラス発表の紙を確認すると、光月司は1組の5番に名前が会った。

光月司の上には卯月桜の名前も確認できた。


「マジで同じクラスじゃん・・・。大人は汚ねぇよ・・・」


「司様と一緒のクラスで嬉しいですわ!」


ため息をつきながら、俺は1年1組の教室に移動する。

桜は司の上機嫌で3歩後ろを追従する。


教室に着くと机と椅子が綺麗に並べられており、机の右端に名前が書いてある。

自分の名前の机に座れということなのだろう。


「光月司。光月司。有ったここか」

窓際の一番後ろ。

この教室の中でのVIP席と言っても過言ではないポジションだ。


「最高の席だな。前が桜じゃなければ」


「まぁ!司様がワタクシの後ろですか!嬉しいですわ!」


「どうせ席順もあの銭ゲバたぬきに頼んだんだろ」


「いえ、席順はたまたまですよ?」


「えぇ!?俺の運がないだけぇぇぇ!?」


司の声が反響した後、ガラガラと教室の扉が開き入学式の前に階段の上で話していた師走先生が入ってくる。


「早速騒いでいる生徒がいるみたいですね」

師走先生は教室を見渡す。


「はぁ、光月司君ですか。聖ジャンヌ白百合学園に入学したという自覚が足りないようですね」

師走先生は教壇まで移動してため息をつく。


「皆さんおはようございます。私がこのクラスの担任の師走椿です。昨日の入学式の時もお伝えしましたが、陰陽寮うらのつかさである師走家を出ておりますが、学園内では師走の名は関係ありません。皆さんとは信頼できる教員と生徒の関係をしっかりと紡いでいきたいと思っております。よろしくおねがいします」

教室にいる女生徒達は自然と拍手をしていた。


「ありがとうございます。それでは今日はまず皆さんもクラスメイトのことを知りたいと思いますので、自己紹介からしていきましょう。それでは出席番号1番の暁月さんからどうぞ」

師走先生は教壇から離れて端の方に移動する。

そして出席番号1番の女生徒が教壇に立ち自己紹介を始める。


なんとなくは想像していたが、本当にこんなイベントがあるとは思わなかった。

村で暮らしてた時は小学校も中学校も同じ奴らと繰り上がる。

小さい時から一緒に遊んでて見知った奴ばっかりだったし、なんなら小学校と中学校同じ校舎だったので、学校全体知った顔だった。


自己紹介。

絶対に外せないイベントだ。

悪印象なんて与えてみろ。

確実に三年間ボッチになっちまう。


司は何を話すか。

どういう流れで話を持っていくか入念に考え始める。


そして俺の前に座っている卯月桜が立ち上がり、教壇まで移動して自己紹介を始める。


「ワタクシ卯月桜と申します。聖ジャンヌ白百合学園には初等部から居ますので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。名前の通り陰陽寮うらのつかさである卯月家の出身です。好きなものは司様です!ワタクシ、司様とは婚約関係にあります!今後仲良くしていただけると嬉しいです!」


桜の言葉に場が凍りつく。

女生徒達は口々に「婚約・・・?」と呟いている。

そして、師走先生に至っては不純異性交友とか呟いてる。


バカバカバカ!今言うことじゃねぇよ!

そんなの仲良くなってから実はとか小声で話す内容だろうが!

何を大々的に宣言してんだよ!


桜は桜で鼻高々とドヤ顔で自分の席に戻ってきてるし。


「それでは次は光月司君どうぞ」

顔には出していないが明らかに師走先生の口調が荒くなっている気がする。


待て待て待て!

師走先生怒ってない?

えっ?ちょっと桜。

俺が自己紹介する前に爆弾落としてくのやめてもらえる?

もうこれ何言っても滑る未来しか見えないじゃん。


でもここまできたら自分だけ自己紹介しませんとは言えない。

司は仕方なく立ち上がり教壇の方へ移動する。


「えー。光月司です。見ての通り男です。はい」

教室を見渡すがもうどうしようもない雰囲気になっている。


「あー、先ほど卯月さんが婚約者とか言ってましたがあれは嘘です。俺は結婚するとか一言も言ってません」


「そんな!酷いですわ!ワタクシ、もう司様のことしか考えられないんですよ!今朝だって一緒に登校しましたし、ワタクシの制服姿を見て、似合ってるって言ってくださったじゃありませんか!」


「一緒に登校したけど、それはお前が俺の部屋に居たからだろ!」

教室を見渡すと女生徒達が司を見る目はもうゴミを見るような目であった。

口は災いの元と言うが、完全に墓穴を掘った。


「えっと好きな食べ物はマヨネーズを乗せたオムライスです。普通のオムライスはチキンライスだけど、バターライスにするのが良いです」

自己紹介の続きをするが、誰ももう司の話なんて聞いていない。


「あぁ・・・。以上です」

司はトボトボと自分の席に戻っていく。

桜が余計なことを言ったせいで俺はこのクラスのヒールだ。

誰も俺の話なんて聞いてなかったよ。


「はい、光月司君ありがとうございます。ホームルームが終わったら職員室に来るように」

師走先生はもう顔も笑ってない。

説教コースなのは間違い無いだろう


「はい・・・。わかりました」


その後もクラスメイトの自己紹介が続いていくが、司の心はもう完全に死んでいた。

どう足掻いてもクラスでハブられる未来が見えているからだ。


「うらやましいよ。俺の高校生活───、終わっちゃった」

司は本物の自分を見つけた時のように悲しげな表情で呟く。

悲しげなミュージックも流れている。

そんな気がした。


クラスメイト全員の自己紹介が終わり、師走先生が明日以降の注意事項を伝えているが、司の耳には全く入ってきていない。


「以上。今日はこれで終わりです。明日も元気よく登校してきてください。後、光月司君はこの後絶対に職員室まで来るように。起立、気をつけ、礼」


ありがとうございました。


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