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第十七話

先生は教室からさっさと職員室まで戻っていく。


「はぁ、なんで俺がこんな目に」


「司様可哀想ですわ。ワタクシもついていきましょうか?」


「元はといえばお前が自己紹介で変なこというからこうなったんだろ!それに着いてこなくていいわ。先に生徒会室に行っててくれよ」


「わかりましたわ!」

桜は机の横に掛けている鞄を取って、一人で生徒会室に向かう。


「んじゃ、俺も職員室行きますか・・・」

気が乗らないのでトボトボとアンダンテなペースで職員室に向かう。


職員室の扉を3回ノックし、学年クラス氏名を述べる。


「ここまできてください」

声に気づいた師走先生が司を手招きする。


先生は司の方へ向き、脚を組んで司に話しかける。

「光月司君。私が教室にいく前から叫んでましたね。本学園は日本皇国の将来を担う若者の育成機関です。男子生徒は光月君一人ですが、浮かれないように注意してください」


「すいません。気をつけます」

すぐに頭を下げて謝罪する。


「よろしい。それでは本題です。あなたと卯月桜さんはどういった関係ですか?」


「一言で言うなら他人です」


「そうですか。ではなぜ卯月桜さんは貴方のことを婚約者だと言っていたのでしょう?婚約者なのですか?」

師走先生は脚を組み替える。


「違います」

脊髄反射並みの速さで即答。


「そうですか。ではなぜ卯月桜さんはわざわざ自己紹介であんなことを言ったのでしょう?」


「知りません」

これまた脊髄反射並みの速さで答える。


「こんなことあまり言いたくないですが、貴方はこのキョウトから遠く離れた山奥の村からここに入学してきたと聞きました。わざわざ聖ジャンヌ白百合学園を指定したそうですね。何故ですか?」


「それはその……。ゴニョゴニョ」

百合を眺めにきたなんて口が裂けても言えない。

理解してもらえないことが分かっている為、ゴニョゴニョと濁して話す。


「言い淀むと言うことは良からぬことを考えていると言うことですね。ここにきている女生徒はお金持ちの娘ばかりですからね。男が良からぬことを考えるのは至極当然のことですね。だから私は学園長にちゃんと言ったんです。男子生徒を入れるのは良くないと。どうやら私の考えが正しかったみたいですね。このことは学園長にも伝えておきます。もう良いです。帰りなさい」

先生は脚を組むのをやめて、椅子をクルリと回して自分の席に戻る。


「そんなつもりは」


「聞きたくありません」

司の言葉を遮り、師走先生はもう聞く耳も持ってくれなかった。


「失礼しました」

これ以上は何を言ってもダメだと理解し、司は生徒会室に向かうことにする。


「はぁ、俺絶対師走先生に嫌われたじゃん。クラスのみんなにも白い目で見られて、先生にも愛想尽かされる。もう明るい未来が全く見えないじゃん。こうなったら確実に便所飯筆頭部隊じゃん」

このまま生徒会室なんか行かずに部屋で拗ねておこうかとも考えたが、流石に約束を守らないのは良くないと考え直して、生徒会室もとい生徒会棟に向かう。


「ここだよな?」

自前の生徒手帳の付録地図を見ながら薊先輩が指していた場所を思い返して、地図と見比べる。

ちょうど中に入ろうとしている女生徒がいたので、声をかけることにする。


「手伝いましょうか?」

中に入ろうとしていた女生徒は車椅子に乗ったフワフワの水色の髪が綺麗な女生徒だった。

段差に手間取っていたので司が声をかける。


「あら、優しいのね。でも大丈夫よ。いつも一人でやってるから」

車椅子の女生徒は穏やかな声で何もかもを包んでくれそうなそんな錯覚に陥る。


「そうっすか?でも、なんか大変そうなんで手伝いますよ。車輪から手を離してくださいね」

司は能力を使って車椅子を浮かせて、段差の上に移動させる。


「ありがとう。いきなり浮いたからお姉さんびっくりしっちゃった。それよりも、もしかして光月司君?」

車椅子を操作して女生徒は司の方を向き、銀色の瞳で司を優しく見つめる

非常に穏やかで優しそうな見た目で、話し方も相まって何をしても許してもらえそうな雰囲気を醸し出している。


「そうです。光月司です。すいません。能力使うって初めに言えばよかったですね」


「やっぱりそうなのね。薊ちゃんから今日生徒会室に来るって聞いてたからもしかしてって思ったの!」

ニコニコと嬉しそうに女生徒は話す。


「あら!ごめんなさい。私一人で盛り上がっちゃって。私は霜月六花しもつき りっか3年生です。よろしくね。司君」

スカートの裾を持つような動作をして、六花が司にお辞儀をする。


「霜月六花先輩。俺なにがあっても先輩の名前忘れません」

クラスの女生徒一同と師走先生の悪意の目に晒された後で疲弊していた司の心は穏やか六花の口調に解かされていくような気がした。


「ふふふ、司君は面白い子ね。さて、みんな待ってるから中に入りましょうか。司君に優しくしてもらった話したことみんなに自慢しちゃおうかしら」

口元を抑え上品に笑うその仕草すらも司には癒しだった。


「そんな、先輩の為なら俺なんだって出来ますよ!車椅子押させてもらって良いですか!」

嫌なこと&嫌なことの後で来た霜月先輩の穏やかで優しい言葉。

司が霜月先輩のファンになるのにそう時間はかからなかった。


「もう上手なんだから。ならお願いしちゃおうかしら」


「はい!」

司は霜月先輩の車椅子を押して、生徒会棟に入る。

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