「この部屋よ」
霜月先輩に言われた部屋の扉を司が開ける
ガチャリと扉が開いた音で生徒会室にいた全員が一斉に扉の方に視線を移す。
「あー!やっときたー。司君遅かったねー」
「司様!お待ちしておりました!」
司の姿を見て駆け寄ってきて声を掛けてきたのは薊先輩と桜である。
「遅くなってすいません。ちょっと職員室に呼ばれてまして。おい、桜!お前のせいで初日からクラスメイトに白い目で見られるわ、先生からは嫌われるわでもう最悪なんだけど」
「初日から?司君、見た目によらずワルだねー」
ニヤニヤと嬉しそうに薊は話す。
「いや、俺は何もやって無いですよ。完全にとばっちりくらっただけなんです」
ジロリと桜を睨むが桜はニコニコと微笑みを崩さない。
職員室に司が呼ばれたのを1ミリも自分のせいだとは思っていないのだろう。
「そうなんだー。お疲れ様ー。途中で六花ちゃんと合流したんだねー。それにしても六花ちゃんが車椅子押してもらってるなんて珍しいねー。いつも一人でできるって言って聞かないのにー」
六花が車椅子を司に押させていることに薊は驚きを隠せないようだ。
「入り口で手伝ってもらってね。そのまま一緒に来たのよ。なんでかな司君なら良いかなって思って」
「ふーん。まぁ喧嘩とかされてるよりはいいかなー。これから司君も生徒会の一員になるわけだし」
「一員・・・?えっ?俺やらなきゃいけないことあるんで、生徒会はちょっと・・・」
「おい、薊。大丈夫か?本人は入る気なさそうだけど」
ソファに座っている金髪の女生徒が燃えるような赤い瞳で司を睨みつける。
霜月先輩とは真逆のタイプの女生徒で、荒々しい口調に寄せ付けまいと尖った視線に司は気圧される。
「アタシは良いと思うな!だって今人手足りてないってみんな言ってるしさ」
端っこの方で踊っていた黒髪で褐色の活発な女生徒は踊りを終えて汗を拭きながら近づいてくる。
「司君お願いだよー。生徒会入って!人手が足りないんだよー。もし入ってくれた特別に私が"お兄ちゃん"って呼んであげるからさー」
「いや、やめてくださいよ!俺そういう趣味ないですから。俺、妹萌えじゃないんすよ」
「えー、だめー?これお願い事する時結構成功率高いんだけどなー。司君には効果なしかー。残念」
「自分の強みを理解して完璧に使いこなしてる人初めて見ました。けど、俺生徒会ってガラじゃないですよ」
「そもそもあざみん先輩は生徒会で何してるか司っちに教えました?」
「司っち?」
初対面なのにこの奔放な褐色の女生徒は勝手にあだ名を作って呼ぶんだと司は驚きを隠せない。
「・・・。」
薊は腕を組み、頭を抑えて数秒考える。
「あー!言ってない!とりあえず来てって言っただけだー!」
「はぁ、薊も男が来て浮かれてたということか」
ソファーで座っている金髪の女生徒はやれやれと首を傾げる。
「私たち生徒会は学校をただ良くしようっていう集団じゃないんだよー」
薊は上目遣いで少し恥ずかしそう司に説明を始める。
「日本皇国は今未曾有の危機に瀕しているんだー。一つは他国との戦争。でもこれは大人達が私達にまで危害が来ないように戦ってくれてる。
ここまで一気に話して薊は机の上の湯呑みからお茶の飲む。
「実は司君もすでに知ってるんだよー?清水寺で見た"あれ"」
清水寺で見たあれとは薊先輩が
「
「そうそうー。あれが国内で起こってる問題なんだよね。大人の
街中に突然現れて街を破壊し、人を襲う。
極悪非道なあんな化け物ども放ってはおけないのは理解できる。
「あれを対処しているのが生徒会ってことですか?」
「そうー!司君の戦い方見させてもらったけど、能力の練度がすごかったしさ!ちょっとダリアちゃんに訓練つけて貰えばすぐに戦えると思うんだよね。国を守る為に司君の手を貸してくれない?」
元々
だから、いつ徴兵されたとしても良いように覚悟はすでに決まっていた。
「けど、念願の聖ジャンヌ白百合学園に入った今じゃなくていいじゃぁぁぁん!俺の夢がぁぁぁぁ」
司は膝から崩れ落ち地面をバンバンと叩く。
生徒会室に居た全員が司の奇行に戸惑いを隠せない。
何もかもを包んでくれそうな霜月先輩ですら唖然としていた。
そんな中、桜だけがニコニコと司を見守る。
「おい、薊。この男、本当に大丈夫なのか?ちょっと変だぞ・・・?」
ソファに座っていた金髪の女子が薊の方へ視線を移す。
「んー、戦ってる時は本当にすごかったんだけどねー」
「司君は聖ジャンヌ白百合学園にどんな夢を叶えに来たのかな?」
霜月先輩が宥めながら司に優しく話しかける。
「俺は・・・。その・・・」
いつもなら堂々と言えるのだが、女子に囲まれているこの状況で言うのは気が引ける。
「いいのよ。恥ずかしがらないで誰も司君の夢をバカにしたりしないから」
霜月先輩は少しずつ司の心をほぐすように優しく促す。
「・・・守りにきました」
聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で呟く
「ん?良く聞こえないわ」
「俺は遠巻きから百合を見守る為に来たんです!それが俺の生き方なんで」
「えと?花を守る為に聖ジャンヌ白百合学園に来たってこと?」
霜月先輩はイマイチ意味がわかっていないようだった。
いや、霜月先輩だけではない。
皆がよく分からないという表情をしていた。
だが、一人だけ金髪の女子だけは頬を赤らめていた。
薊が桔梗だけ頬を赤らめていることに気づく。
「んー?桔梗ちゃんどうして頬を赤らめてるのー?」
「いや、違っ!」
先ほどまでの人を寄せ付けないキリッとした表情からは想像もつかないような照れ方である。
「きーちゃん先輩、何か知ってるってことですか?」
褐色女子も金髪女子に視線を向ける。
「はぁ?し、知るわけないだろ!花だ。そうきっと花に違いない!愛とか恋とか私には全くわからんからな!うん、本当に知らん。何も知らんぞー」
金髪女子の焦り方が尋常じゃない。
「俺は女の子と女の子で愛を育んでるのを見るのが好きなんです。そして、遠巻きからそれを見ていたい。それこそ壁にでも椅子にでもなって。ただ眺めていたいんです。だから聖ジャンヌ白百合学園に来たんです。ここならば俺のユートピアになり得ると思って」
金髪女子は司の言葉に吹き出してしまう。
「あぁ、そういうことなんだ!だからきーちゃん先輩照れてたんですね。きーちゃん先輩も男の人と男の人がそういうことしてるの本集めてますもんね!」
褐色女子突然の暴露で金髪女子は涙目になっている。
「やめろ!やめてくれダリア!望みはなんだ?私をどうしたいんだ!」
さっきまでのクールな金髪女子は何処に行ったのか。
もう、無茶苦茶である。
「なるほどねー。まぁ桔梗ちゃんの趣味も司君の趣味も別に咎める気は無いよー。趣味は人それぞれだからねー。けどそれなら余計生徒会に入った方がいいねー」
「薊!私をあの男と一括りにするのは辞めてくれ!私はフィクションと現実の区別はちゃんとついてる!」
桔梗を無視して薊は話を続ける。
「生徒会に入れば、どの建物にも入れるんだー。つまり、司君が見回りとかを頑張れば頑張るほどたくさんのシチュエーションが見れる可能性があるって事ー。人通りの少ない棟で芽吹いてる百合の花をコソッと見れるかもしれないねー」
「やります!いや、やらせてください!」
薊の話を聞き、司は即答する。
「いいよー!なら司君はこれで生徒会の一員だね!桜ちゃんはどうするー?」
「ワタクシは・・・」
桜は決めかねているようだ。
そりゃそうだ、
そう簡単には決められない。
「そういえば今、後方部隊員が足りないんだよねー。次入った後方部隊員の人が司君専属になるねー」
「入りますわ!」
薊の巧みな?誘導で桜もあっという間に生徒会に入ることになった。
「うわー!本当!嬉しいなー!桜ちゃんが入ってくれたら軍備品とか支援してもらえるかもだし、助かるー」
「そこはお父様に相談してみないとなんともですわ」
「可能性があるだけで嬉しいよー」
「んじゃ、これからよろしくねー!とりあえず、今日は来てるメンバーだけでご飯会しよー!食堂行こ!食堂!」
薊の誘いを断る理由もないので、金髪女子、褐色女子、薊先輩、霜月先輩、桜、司で食堂に行くことになった。