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第十九話

4月3日

昨日は生徒会メンバーで食堂で食事を楽しんだ。

初めは俺が男だというところに警戒していたのかもしれないが、途中からはもう普通の先輩と後輩と言った感じだった。


それに昨日食事をした全員陰陽寮うらのつかさというこの国の中でも最上位のお嬢様方だというのに気取った感じが全くなく話しやすい人達ばかりだ。


あれなら女子しかいない生徒会だが俺も一員としてやっていける気がする。


さて、そろそろ起きて学校行く用意するか。

ベッドから起き上がり、リビングに向かう。


「あっ、司君おはよー。よく眠れたー?」


「はい、流石日本一の学校の寮ですよね。ベッド柔らかくてめちゃくちゃ良い目覚めですよ。てか薊先輩。朝早いっすねぇ」

食堂に行くための用意をしながら、ナチュラルに答える。


「えー?そうかなー?いつもと同じ時間に起きたけど」


「ははは、薊先輩元々早起きなんすね」

なんて笑いながら用意していたが、違和感を覚える。


ん?

違和感を感じて視線を薊の方に移す。

視線の先には畳の部屋で正座をして温かいお茶を飲む、薊の姿が見える。

パチクリと瞬きしてから目を擦ってもう一度畳の部屋を見るが今度は司の方へ手を振る薊の姿が見える。


「なんでぇ?なんで、薊先輩まで当たり前のように俺の部屋にいるの?」

司は膝から崩れ落ちる。


「えー?今?普通に会話してくれたから受け入れてくれたんだと思ってたー」


「いや、なんか普通に生徒会のみんな優しいし、俺も一員としていけそうだなって思ってたところだったんで、なんか流れでと言いますか」


「おーっ!生徒会仲良くできそー?それは良かったー!」


「司様!あなたの桜が参りましたわ!着替えも終わってるでしょうから食堂に一緒に行きましょう!」

扉がバンッと開き、桜が現れる。


「あっ、桜ちゃん。おはよー」


「えっ?薊お姉様!?」

薊の存在に気付いた桜はアワアワと慌て始める。


「俺、寝る前鍵閉めてたよな・・・?なんで当たり前に扉開くんだ?あぁ、分かった薊先輩が入ってきた時に鍵開けっぱなしだったんだ。あははー」

目は虚ろ、思考はヤケクソである


「えぇい!もういい!とりあえずせっかくなんで食堂行きましょ!」

薊と桜を強引に部屋から引き連れて、食堂に向かう。


「あの!」

食堂までの所要時間寮から5分の距離なのだが、向かっている最中に後ろから声を掛けられて3人とも振り向く。


「やっぱりそうだ!」

振り向くと以前から百合成分を補給する為にお世話になっていたアイカとマリナの百合カッポォが不安げな顔で司に視線を送っていた。


「あっ、えと・・・。どちら様でしょうか」

司はいつもお世話になっておりますとは言えず、知らぬふりをする。


「覚えて無いかもしれませんが、私達先日貴方に清水寺で助けて頂きました。まさかこんなところでお会いできるなんて!あの時は本当にありがとうございました」

先輩のアイカが上品の口調と司に向けて丁寧な一礼をする。

それに続いてマリナも丁寧な礼をする。


「あぁ、えっと、そんなことも有ったような無かったような。俺も必死だったからな。ちょっと覚えてないな。ハハハ」

百合カップルに認知されるなど有ってはならぬ。

そんな醜態を晒してしまうなんて我が百合道に反し、切腹ものである。


「貴方が覚えていなくても私達には決して忘れぬことが出来ません!」


「いや!もうそんなの忘れちゃって、記憶の無駄遣いだから!俺なんてそこらへんの石ころと一緒だし!もうほんと気にしないで全然いいから!」

司はそそくさと去ろうとする。


「本当にありがとうございます!光月 司様!」

マリナが大きな声で礼を述べる。

しっかりと名前まで認知されてる・・・。

なんでぇ?なんでいつの間にかみんな俺の名前知ってるの?

もしかしてどっかに貼り出されてたりする?


あぁ、このミスは切腹物だ。

ガックシと肩を落として、マヨオムライス持ってトボトボと席に着く。


「どうしてそんなに落ち込んでるんですの?感謝されるってすごく良いことですわよ?」

桜が白いソースの掛かったパスタを持って司の隣に座る。


「ダメなんだ・・・。認知されたダメなんだよ。陰ながら見守るのが俺の信条なのに・・・。俺もうどうやって生きていけば」


「まぁまぁー。死ぬ訳じゃないしさー。ほら。ちょっとお魚あげるから元気出して」

綺麗に骨をとった焼き魚の一部を司のお皿に入れる。


「そういえば、桜ちゃん達は来週から学習合宿だよねー。ちゃんと準備してる?」

項垂れる司を放っておいて、薊は桜に話しかける。


「えぇ、勿論ですわ!既に荷物は宿泊先に届けてもらってますのよ!」


「おー!さすが桜ちゃん!出来る女子だねー」

薊はパチパチと手を叩き、桜を褒め称える。


「えっ?何その学習合宿って」

聞き覚えの無い言葉に司は頭を上げる。


「何って、来週から二泊三日で行くオリエンテーションだよー。入学のしおりに書いてなかったー?」


「確か愛宕山の方にある宿にクラス別で行くと書いてあったと思いますが」

桜はあざとく人差し指を立てて顎を触りながら首を傾げる。


司自身こっちに来てからかなり暇な時間があったので、しおりは全ページしっかりと目を通していた。

間違いなく自分にしおりにはそんなこと書いていなかった。

よくわからないまま食事を終えて薊と別れて、桜と教室に向かう。


教室の扉を開けると既に何人かは登校していて、桜の顔を見て「卯月さん、ご機嫌よう」と挨拶をする。

だが、その後ろにいた司に対しては一瞬チラッと顔を見てすぐに視線を戻す。


非常にやりにくい。

昨日の自己紹介の一件でおそらく今自分の評価は最悪だろう。

こんな状況で挨拶なんてしても無視されるに決まっている。

だが、問題ない。

俺はここに友達を作りに来たわけではないのだ。

そう、壁になって百合を眺めるその為にここにいるのだ。

だからむしろこれくらいで良いのだ。


机に突っ伏しながら、人知れず頬を伝う雫。

俺は強い男だ。

こんなことでへこたれたりしないもん。


授業開始の鐘が鳴り、師走先生が教室に入ってくる。


「皆さんおはようございます。皆さん揃っていますね」

教室内を見渡して、出席簿をつける。


「えー、それでは本日ですが、来週予定している学習合宿の部屋割を決めたいと思います」

先生の言葉の後にざわつき始めるクラス。


本当に学習合宿あったんだ!

司はワクワクしながら、顔を上げて話を聞く姿勢になるが、そんな楽しい気持ちはいとも容易くへし折られる。


「全員参加と言いたいところでしたが、光月司君。貴方は不参加です」


「なんでぇ!?なんで俺だけ不参加なの!?」

司はバッと立ち上がり、異議を唱えようとするが、次の先生の言葉に全て打ち消されてしまう。


「男子だからです。学校行事とはいえ一つ屋根の下、女子と寝れる訳ないでしょう。聖ジャンヌ白百合学園に入学している生徒は基本的にこの国の未来を背負う学生ばかりです。万が一、不貞行為などが起きてしまった場合。誰が責任を取るんですか」


「ですよねぇ!なんとなくそうだと思ってました!」


当たり前だ。

この学校にいる生徒は皆が有力者あるいは権力者の娘である。

万が一があれば、学園長の首が飛ぶだけで済むだろうか。

いや済むはずがない。


それなら危険を冒す必要はないだろう。

俺だけ留守番させればいい。

大丈夫。

学習合宿に行けなくてもへこたれないもん。


「はい、ご理解いただけて何よりです。それでは部屋割りを決めたいと思うのですが、それより先に教室での役割を決めたいと思います」

先生が言っているのはつまり先に委員を決めると言うわけだ。

委員を決めて、進行を学生に任せようと言うことだろう。


委員は複数存在する。

学級委員長を頭にして、風紀委員、文化委員、体育委員があるようだ。

俺自身委員会には興味ないので、今回はスルーでいいだろう。

てか、大きな視点で見れば生徒会も学園の委員みたいなものだろう。


学級委員には、桜に負けず劣らずのお嬢様口調の女子が立候補していた。

口調は似ているが、髪色が真っ黒で縦ロールでは無くしっかりストレートなので間違えることはないだろうが。

名前は鳳凰院 静華ほうおういん しずかと言うらしい。

自己紹介の時、他の人の名前を聞くほどの余裕がなかったので、誰が誰なのか全くわからない。

これを機に委員会に入った女子の名前を覚えておこう。


風紀委員には吊り目で気の強そうな女子が立候補していた。

髪色は真っ赤・・・。

真っ赤と言うよりは真紅と言ったほうが近いかも知れない。

そんな髪色で大丈夫か?

風紀委員ちゃんと務まる?大丈夫だよね?

髪型は肩に掛からない程度のセミロング。

名前は紅玉 茜 こうぎょく あかね


体育委員にはクリーム色の髪色をショートにした活発な女子が立候補。

何がとは言わんがすごく大きいです。

でも、確かに活発で既に何人も友達を作っている辺り、俺とは違う世界の人間という感じがする。

名前は金神 陽毬かねがみ ひまり


文化委員。

もはや何をする委員かはわからないが、おそらく文化系のイベントがある時に活躍する委員なのだろう。

立候補したのは青髪の眼鏡っ子。

大きな三つ編みを後ろにまとめた女子である。

名前は琴城 和歌きんじょう わか


よし、委員会の人は全員覚えられそうだ。

嫌われていたとしてもクラスメイトの名前を覚えておいて損はないだろう。


「では学級委員の鳳凰院さん。後はお願いします」


「分かりました!」

鳳凰院が教壇に立つ


「それと、光月司君はもう何もないですから今日は帰っても大丈夫ですよ」


「えっ、帰っていいレベルで俺不要なんですか・・・」


「はい、光月君は週明けの月曜日から3日間、自由にすごしてもらって構いません」


「俺ってなんなんだ・・・」

机の横に掛けている鞄を持って教室を後にする。

流石にこの扱いにはへこたれそうだ・・・。


時間を見るとまだ10時。

こんな時間に学校が終わっても正直やることがない。


「んー。生徒会室行ってみるか。誰かいるかもしれん」

司は生徒会室に向かう。

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