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第二十話

誰もいないかと思ったが、生徒会室の扉の前に立つと中から声が聞こえてくる。

扉を開けると普通に先輩達がお茶をしている最中だった。


「あれ?先輩達なんでいるんですか?」

扉を開けたことで視線は全員司の方を向いていた。


「おー、司君じゃん。早速生徒会活動?精が出るねー」

司に気づいた薊は生徒会室を見渡すことが出来る一番偉そうな席に座っていた。


薊先輩って本当に生徒会長なんだなとこういうところをみると実感する。


「私達上級生は来週から授業開始なのよ。それにあやかしが出るかもしれないから待機も兼ねて、ここでお茶してたのよ」

六花は持っているティーカップからお茶を飲む。


六花先輩は何してても絵になるな。

ただお茶を飲んでいるだけなのに、お嬢様みたいだ。

いや、本当にお嬢様なのか。


「ふっふっふー。当ててあげようか司君!ずばり学習合宿に行けないんでしょー!」


「うっ・・・。はい・・・。俺男だから行けないみたいです・・・」

図星だ。


「まぁ、そうだろうねー。でも安心して司君!我々生徒会は君のことを見捨てないよー!」

薊は偉そうな机の上に立ち、仁王立ちでバシッと司を指差す。


「薊ちゃん。机から降りましょうね」

優しい口調だが、非常に強い圧を感じる言い方で六花が注意する。


「あっ、違うのー!六花ちゃん、違うのー!ちょっとした演出で・・・。そう!演出なのー!」

そそくさと机から飛び降りて六花のそばに駆け寄り


「はいはい、司君が来てくれて嬉しいのよね。わかってますよ」

六花はニコニコと薊に微笑みかける。


「そうそう!ちょっと楽しくなっちゃって!ごめんねー!」


「ははは、薊。六花に怒られてやんの」

男勝りな金髪の燃えるような赤い瞳が特徴的な女生徒。

水無月 桔梗みなづき ききょう先輩が薊を揶揄うように笑う。


「桔梗ちゃんも揶揄わないの」

六花が桔梗に視線を向けると桔梗は怯む。


「あぁ・・・。そうよな、揶揄うのは良くないよな」

桔梗は姿勢を正して借りてきた猫のようにおとなしくソファの端っこにちょこんと座る。


この時誰が生徒会の実権を握っているのか司にもはっきりと理解できた。

きっと六花先輩に逆らったらダメなんだろう。


「それで、生徒会は見捨てないってどう言う意味ですか?」

司が話を戻す。


「よくぞ聞いてくれたー!来週生徒会のメンバーが公欠を取って、司君強化週間をします!」

六花に怒られたので、薊は机の上に立つことはしなかったが、片腕を上にあげて伸ばし、人差し指を立てる。

そして指先を司に向け、光線が出てきそうな勢いで司を指差す。

薊先輩がやると本当に光線が出そうで洒落にならない。


「強化週間?」

そんなよくわからん理由で学園側は公欠の許可を出してくれるのか疑問だが、何かしてくれようとしているのは伝わってくる。


「司っち超能力者リミットレスとしての練度はかなり高いみたいだけど、その他が微妙らしいよね」

奔放な褐色の女生徒。

葉月 ダリアはづき だりあが大人しくなった水無月先輩が座っているソファに飛び込んでくる。


「ダリアちゃん」

六花が笑顔でダリアの名前を呼ぶとブルリと体を震わせて、水無月先輩の隣に姿勢を正して座る。


「ま、まぁそういうことで、ちょっと訓練しようかってことになった訳!んで、アタシが教官!」

ダリアは誇らしげに胸に手を当てる。


「な、なるほど。なら、三日間やること無いんでよろしくお願いいします!」


「本当はねー、実地に連れて行って実戦でバシバシ強くなってもらおうと思ったんだけどねー。梅ちゃんが反対したから、訓練になったんだよねー」


如月先輩ありがとう!

感謝してもしきれません。

俺いきなり実戦なんて死んじまうよ。

清水寺で我先にとあやかしに向かっていた男の言葉である。

重みが違う。


「ダリア先輩!よろしくお願いします!」

司は綺麗なお辞儀をする。


「アタシの訓練は厳しいぞ!ついて来れるか!」

ダリアも司のお辞儀に調子にノリ始める。


「着いていきます!」


「違う!"はい"だ!アタシの言葉には全て"はい"と答えろわかったか!ウジ虫野郎!」


「はい」


「声が小さーい!おじいちゃんの方が気合い入ってるぞ!」


「はぁぁぁぁぁぁい!」

司はさっきよりも力強い返事を返す。


「よし!なら来週からよろしく!」


「はぁぁぁぁぁい!」

司の返事を聞いて満足げにダリアは席を立ち部屋の隅に移動し、ダンスを始める。


「んじゃー!今日はこれからお茶会しよー!司君は紅茶か緑茶どっち飲むー?」

薊が湯呑みとティーカップを持って、ソファに腰掛ける。


「んじゃ、緑茶で」


「はーい」

薊がそそくさと急須でお茶を入れてテーブルの上に置く。

司はそれを受け取って何処に座る訳でも無く、立ちながらボケーと先輩達が話を聞く。

休み期間あやかし退治で忙しかったのに4月に入って急に出なくなったとか、生徒会予算でもっとお菓子を買いたいとか、そんな他愛のない話だ。


「司君もどこかに座ったら?ずっと立ってると疲れてくるでしょ」

六花がずっと立っている司に気を使う。


「司君、ここ空いてるよー!」

薊がトントンと自分の隣に座るように促す。


「あぁ・・・」

空いている席を見渡す。


「ならこっちで」

薊の隣では無く、六花に一番近い場所に座る。


「あー!なんで私じゃなくて六花ちゃんの隣なのさー!」

薊は頬を膨らませる。


「薊先輩は今日の朝一緒ご飯食べたじゃないですか!」


「ふん!司君は私みたいな儚げな少女より六花ちゃんみたいな麗しのお姉さんが好きなんだねー。ふん、もう優しくしてあげないからねー!」

確かに子供っぽい容姿の薊先輩より六花先輩みたいなお姉さん系の方が好みではあるが、一番近いのが六花先輩の近くなだけである。


「そういえば、お前桜の婚約者なのか?桜がみんなに言いふらしてたけど」

水無月先輩も男勝りな性格だが、こういう話題嫌いじゃないみたいだ。


「あぁ、桜が勝手に言ってるだけですよ。俺は百合を眺めるので忙しいんで」


「でも、司君だって女の子が嫌いって訳じゃないでしょ?いつかは女の子と付き合って結婚したいわよね?」

六花も穏やかな口調だが言葉の端にウキウキがこもっている。

女子って本当にこういう話が好きらしい。


「まぁ、そりゃ将来的には妻を娶って家庭を作りたいとは思いますけどね」


「桜ちゃん、かわいいと思うけどそこはどうなのー?」

薊もグイグイと攻めてくる。


「んー、今の感じだと無しかなぁ。桜って俺のこと見てるようで見てないんですよ。なんて言ったらいいかわからないんですけど。俺に付き纏ってるけど、仕方なく付き纏ってるみたいな?そんな感じがしてるんで」


「ふーん、そかそかー。司君嫌がってるように見えてたけど、ちゃんと桜ちゃんのこと見てるんだねー」

薊は一瞬口元が緩む。


「まぁ、桜にもいろいろ事情あるし、そこは仕方ないよな」

水無月先輩も何か知っているのか含みのある言い方をする。

薊も六花も何か事情を知っているのか俯く。


「ならさ、生徒会メンバーだったら誰と付き合いたい?」

ダリアがソファの方に来て暗くなった雰囲気を一蹴するように底なしの明るさで司に話を振る。


「それ聞きたいー!」

薊は顔を上げて、ウキウキとした顔を浮かべる。


「えっ?まだ、会ったばかりでそういう風に考えたことないですけど・・・」


「またまた!司っちは男子なんだから容姿とかでちょっと考えたりするんでしょ!」

ダリアはウリウリと肘で司を小突く。


「大体、今言ったら公開告白みたいになるじゃないですか!」


「そこから始まる恋も有るかもよ!」

ニヤニヤとダリアは司を小突く。


「こーら、ダリアちゃん。司君困ってるでしょ。そこら辺にしときなさい」

六花も気にはなるようだが、そこらへん分別はついているのかダリアを窘める。


「えー、でも気になるじゃーん」

タコのように口を尖らせてダリアは抗議するが、六花の笑顔をそれすらも寄せ付けない。


「何が気になるんですの?」

部屋割りが決まったのだろうか。

授業が終わり生徒会室に入ってきた桜が話に入ってくる。


「司君は生徒会の人と付き合うなら誰が良いかって話だよー」


「まぁ!それは気になりますわ!ワタクシ、司様と婚約はしていますが、旦那の理想の女性になるための努力は惜しみませんのよ!」


「だから、結婚するって一言も言ってないだろ!」


「今!今言いました!今結婚するって言いましたわ!ね?お姉様方も聞きましたわよね?」


「えぇい!子どもか!いや、絶対子供だろ。てかそんなの小学生しか言ってるの聞かねぇぞ!」


司と桜のやりとりを見て、先輩方は微笑ましく二人を眺める。

その視線は可愛い妹を見る、本当のお姉さんのように。


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