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第二十一話

翌日。

4月4日は学園が休み。

珍しいかもしれないが、聖ジャンヌ白百合学園では土曜日と日曜日がしっかりと休みなのである。

他の学校がどうなっているかは知らないので、聖ジャンヌ白百合学園特有の物なのかもしれない。


さて、せっかくの休み。

本来なら1日・2日・3日で友達を作って、初の休みで遊びに行こうぜってのが一番綺麗な流れなのかもしれないが、俺にはそんな友達はいない。

4月に入ったし、そろそろ銀行に国からの給付金が振り込まれてるかもしれない。

とりあえず見に行ってみるか。


「司様!おはようございます!今日はワタクシの家に来てくださる日ですわね!」

寝室からリビングに出た瞬間、桜がググッと近づいてくる。


「ここ、俺の部屋なんだよね。それになんで桜ん家いかなきゃならん。今日は銀行行ったり忙しいんだよ!」

するりと桜の横をすり抜けて、外に出る準備を始める。


「えっ、何故って、先日お渡ししたお父様からのお手紙読んでいただいてないんですか?」


手紙・・・。

そういえば入学式の日に渡されたような気がする。

なんやかんやで忙しくて気にも留めてなかった。


学ランのポケットから手紙を取り出し、封を切り中身を確認する。

便箋1枚だけが入っていたので、サッと抜いて読み始める。


光月 司殿


先日は部下が迷惑をかけてしまったと桜から聞いた。

お詫びとして、4月4日に食事会をしたいと思うので我が家に顔を出して欲しい。

出来の悪い部下二人はクビにしたので、安心してくれたら来てくれた良い。

また、学生という身分だと色々と物入りだろう。

ささやかなお土産も用意している。


それでは4月4日のお昼頃に用意して待っている。


卯月家当主 卯月 勇



な、なんだこの高圧的な手紙は・・・。

俺のスケジュールなんてお構いなしで、勝手に決めているだと。

既に行きたく無いんだが、けどここまで読まずに行けないとも桜に言えてなかったから迷惑かかるし、行くしか無いか。


「読んでなかった俺が悪いし、今回は行くわ」

司はため息を吐き、手紙をゴミ箱に投げる。


「まぁ!嬉しいですわ!人を家に招くのいつ振りでしょうか!しかも未来の旦那様が来てくださるなんて桜は幸せ者ですわ!」

上機嫌な桜は司が着替える為にルンルンと一旦部屋から出ていく。


人様の家に行くので、最低限は身だしなみを整えなければならない。

そもそも桜がかなりのお嬢様だと言うことは窺い知れるので、髪型を整えて服装も制服を着ていくことにする。

扉を開くとまだ上機嫌な桜が待っていた。


「あら?制服ですか?」

司の服装を見て、人差し指を顎に当ててあざとく首を傾げる。


「おう、桜の家ってかなりの金持ちなんだろ?持ってる服の中で一番まともなのがこれしかなくてな」


「そんな気にしなくて良いですのに。ささ、下に人力車を用意していますの!」


「あいよ」

桜に言われるままに着いていき、桜の家へと向かう。

学園からそう遠くない場所。

おそらく歩いても30分掛からない程度の場所で桜が話していた話題を切り上げて、嬉しそうに指差す。


「あれがワタクシのお家ですのよ!」


とんでも無くでかい。

それになんて言ったら良いだろう。

立派でゴージャスな洋館という表現しか出てこない。

人力車は大きな門の前で停止する。


「着きましたわ!」

桜が先に人力車から降りて、先導する。

司は人力車の運転手にお礼を告げてから桜に追従する。


門から少し歩いたところに家に入るための扉がある。

ここまでの道、一つとしてゴミが落ちていなかった。

おそらく専属の庭師か何かが綺麗にしているのだが、この時点で金持ちすぎて少しビビり始めている。

村では考えられなかった光景。

住む世界が違うのは薄々感じていたが、ここまではっきりと認識することは無かった。

聖ジャンヌ白百合学園に通っている学生はきっと誰もがこのレベルの金持ちで、このレベルの豪邸に住んでいる。

超能力者リミットレスと言うだけで場違いな学校に入学してしまったのだと認識した。


桜が玄関のドアノッカーを叩くと扉が開き、高そうなスーツを着こなした髭がダンディな初老の男性が現れる。


「桜様、おかえりなさいませ。そちらが光月司様ですか?」

値踏みするような嫌な視線で司を見る。


「はい、光月司様。もといワタクシの未来の旦那様ですわ!」


「光月司です。今日はお招きいただきありがとうございます」

とりあえず悪い印象を与えないようにしっかりとお辞儀をする。


「どんな方がいらっしゃるのかと思っていましたが。話に聞いていたよりまともそうですね。ワタクシは卯月家の執事をしています。松陰寺です。お礼は私ではなく当主様へ」

松陰寺は司にサッと背を向け、客間へ案内される。


「こちらでお時間になるまでお過ごしください。お食事の用意が出来ましたらお呼びします。何かあればあちらのメイドまで」

それだけ言い残して松陰寺はどこかに行ってしまう。


えっ?

なんか感じ悪く無い?

俺が村出身だから?

それとも、みんなにこんな感じなの?

めちゃくちゃやりにくいんだけど?



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