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第42話 ルナティック・ラビットハント

「チッ……実力行使って訳?」


 瞳に宿るは純然たる殺意の光。

 「人間狩り」の宣告が重なり、命を絶つ意思が素人の目にすら明白に迫る。


「リズちゃん、委員長ちゃんと美人ちゃん先生を頼む。ウサギ達はこっちで何とかする」


「了解、負けたら許さないわよ?」


「誰に言ってるんだい?」


 まるで熟練夫婦の共鳴力。

 意図を汲み取ったリズは鮮血で二人を引き寄せると同時に後方へと退避を行う。

 立ち塞がるようにシリウス達は狂乱のパルヴァーヌ達へと正面から相まみえた。


「私達はたった一人の女を奪えれば万々歳。手を引くのであればこれ以上の介入はしませんが?」


「偶然だな、そっちが手を引くんなら俺も許してやろうと思ったとこだ」


 決定的となる交渉決裂。

 互いに引く意志がないと理解した両者は透かさずに闘争の瞳へと意識を切り替える。


「面倒、全く持って面倒ですねぇ……どうしましょうか? キュルンさん?」


「まっ取り敢えずそっちで眠り姫を確保しておいてくださいっす。モブでしかないはこちらで狩っておくので」


「はっ? 雑魚……?」


 当然のように放たれたキュルンの蔑み。

 眼中にないような雑魚発言はクルミに眠る心火をメラメラと滾らせる。

 仮にもランキング二桁の強豪プレイヤー、売られた喧嘩を買わないことはなく。


「ふ〜ん、マジムカつくんですけど。あーしに雑魚って言葉は役不足じゃん? よしっ、ブチのめそうかシュガー?」


「えぇっ!? 私もォッ!?」


「イエス、他に誰がいる?」


 その場にいた、いや怯えから逃げることも出来ずにいたシュガーも巻き込んでキュルンへと全面対決の姿勢を見せた。

 板チョコを口に頬張った彼女は挑発の手招きと共に、入り乱れる上空の鉄の足場へと軽やかな跳躍で華麗に飛び乗る。


「い嫌ですよ絶対に抹殺されるじゃないですかァァッ! 私強くなくてぇぇッ!」


「無抵抗だろうが待つのは破滅、なら抗った方がいいってやつっしょ!」


「ギャァァァッ!?」


 首根っこを掴んだクルミは追随するように迷宮にも似た天空の塔へと踏み込む。

 着地と同時に視界を包み込むのは全方位に無造作に存在する無数の鉄骨足場。

 安全とは言えない冷たい鉄の匂いが漂う空間の中、上空から嘲笑が向けられた。


 パキッ__。


 チョコレートを軽快に噛み砕く音。

 平素ならば日常的な何気ないもの。

 だが、今だけは悪魔の襲来を知らせる悍ましい悪音へと変わる。


「ウサギは温厚な性格、甘い物も苦手みたいっすね。けど私はウサギじゃないんで」


 見上げた先に存在する狂気。

 ライトの逆光に照らされる鉄骨へと腰掛ける存在は乾ききった形相で睨む。

 拳に有する長剣の刃先をなぞると二つの双剣へと機械的な分離を果たす。


「暴力することも、甘い物食べることも……大好きなんすよ……ねェェェェッ!」


 暴力の蹂躙、開幕__。

 地を蹴ったキュルンは身体を縦軸に捻り、回転の要領で斬撃を繰り出す。

 鉄さえ紙のように断ち切れるその一撃は常軌を逸した威を帯びていた。

 容赦ない先制攻撃にクルミ達は反射よりも速く身を翻し、地を滑るように回避する。


「危なっ!?」


「ヒィッ!?」


「ハッハァッ! トロいッ!」


 支柱に肘を引っかけ、縦軸に回転、キュルンの動きは迷いなく刃は追撃へと転じる。

 狙うはクルミ、機敏を極めた斬撃が彼女の防御を裂き、肌に赤い軌跡を走らせた。


 咄嗟のカウンターと反動を活かし、身を仰け反らせた体勢のまま放たれるクルミのドロップキック。

 だが見切ったかのような回避で迷いなくキュルンは付近の足場へと舞い降りた。


「すばしっこい……そこまでして何故ヴェレを狙うっての? そんなに危険な子だと?」


イグザクトリーその通り、同じエルフとして彼女の脅威性は実に理解しているのです。彼女はの末裔っすから」


「バーミッド族? 何それ」


「知る必要はないっすよ。だってここで消しますからッ!」


 双剣に閃光が灯った瞬間、無機質な空を切る斬撃が一直線に放たれる。

 しかしなんの変哲もないただの攻撃でしかなく見切れば容易に避けられる戦法。

 だが次の瞬間、白銀の斬撃は幾度も直角に曲がると同時に背後から奇襲を仕掛けた。


「軌道が変わった……!?」


 身を捻らせたことで躱すも明らかに普通ではない軌道の攻撃はクルミ達を驚かす。


「ヴァレン・シュメルツは自在に軌道を操る。まぁつまり〜逃げ場なんてそ甘い戦法は〜取れないってやつっすよォッ!」


 驚異的と称すべき身体能力に不規則な軌道が絡みつく。

 双璧の脅威が周囲を蹂躙し、支柱も鉄の足場も容赦なく崩れた。

 変幻自在の斬撃が猛威を振るい、クルミは前後から挟撃を受ける。


「消え失せろ」


「って……思った?」


 電光石火の閃き。

 クルミは即座に足元を渾身の踵で叩き砕き、自らを落下させる。

 重力を利用して下層の足場へ滑り込むと前後から交差した斬撃は空振りのまま激突し、凄まじい衝撃波と共に互いを相殺した。


「チッ、重力め……邪魔をする」


 優勢ではありつつも既で見せた機転。

 自身の能力にも対応する目障りへと不愉快な視線を最後にキュルンは対象を切り替える。

 猛威を振るう彼女の瞳は不気味な弧を描きながら、ぎょろりとシュガーへと向けられた。


「ダルっ、貴方からにしようかコミュ障の雑魚、いつもビクビクして背中に隠れて。そういう奴、世話すんの一番嫌いなんすよ私」


「キ、キュルン……な、何で……ううう嘘……だったんですか……? 優しさは、ななな仲良くしてくれたのは……!?」


 尻もちを付いたシュガーを襲う罵倒。

 全ては計画の為の偽りの友情と察するのは関係を深く知らないクルミでも容易だった。

 これまでの世話焼きな仮面を粉砕した彼女は汚物を見る目で肉薄する。


「色んな人の警戒を解く一環とはいえ、反吐の出る人間と仲良しごっこは疲れたっすね〜ショックすか? でも残念」


「こ、来ないで……ここ来ないでくだ……」


「えぇ何て? 聞こえないっすけどォッ!」


 完全に萎縮しているシュガーへと矛先を変更したキュルン。

 凄まじい疾駆と共に排除しようと軽快な刺突を仕掛けた。


 プツン__。

 だが、呼吸を荒くして動転していた彼女にはある決意が宿る。

 吹っ切れたような、スイッチが入ったような、雰囲気が変化した陰気の美少女は向けられた凶刃を豪快に弾き飛ばした。


「ッ! 何……?」


 いや弾いたというよりも無力化した。

 衝撃を纏うほどの威力を誇っていたはずの刃には瞬時にパワーを失い、堪らずキュルンは即座に距離を取る。

 顕現したのは独創を極めるブレード、刃先は鍵のような形状をして、凹凸は生物のように自在に変形を遂げていく。


……なんですか?」


「あっ?」


「嘘……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘、裏切ったってことですよね? そうですよね? 信用していたのに仲良しごっこって……


「ッ!?」


 何かが切れたような悍ましさ。

 味方であるクルミも鳥肌立つほどに弱気だった存在には殺意が芽生え始めていく。

 情緒が不安定なシュガーは常に隠されていた赤き閃光走らす左目を露わにする。


「私……虐められて自信なくて……卑屈でゴミカスで人とまともに話せなくて……そんな自分変えたくてここに来ても変わらなくて……その中で貴方は優しくしてくれたのに、なのになのになのになのに……」


 瞬間、理不尽への怒りは爆発を遂げた。

 狂気を上回る狂気は覚醒する。


「嘘は嫌い、許さない……だから、死ねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!」


 爆発は狂乱を生んだ__。

 縮こまっていた彼女は裏切られた反動から考えられない機敏な動きを披露。

 怯んだキュルンは幾度もの斬撃を放つものの乱雑に振り回される刃先によって次々無力化される。


「正面から!? 正気っすかッ!?」


「抹殺抹殺抹殺ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」


 しかし全弾は防げず、刻まれる傷跡。

 正気ならば距離を取る場面だが構わずシュガーは敵へと我武者羅に近い勢いで突撃。


(ワォ、クレイジー……あんな一面あるのあの子? いや寧ろアレが本性と本能?)


 思わずたじろいでしまうクルミ。

 数多の狂気を取材してきた身でさえもビビる完全にイった目は弱気に潜む狂人の本質を示していた。


(キーメイカー……触れたものの概念を解錠する能力、厄介な能力とは思ってたっすけど)


 容赦のない攻撃は僅かながらにキュルンを押すと状況の覆しを始めていく。


(本体がクソの価値もない非好戦的故に脅威性はなかった。しかしまさか……ここまでの凶暴を隠していたとはッ!)


「オォォバァァコォォォォドォォォッ!」


 放たれた詠唱はまさに獣の咆哮。

 刹那、彼女を守護するように現れたのは胸元に鍵が突き刺さった四つ足の化身。

 両肩には棺桶を備え鍵型のブレードを持つ様子はまさに鍵を具現化した悪魔。


『フィァァァァァ……!』


「リファインバースト、ロック・ネックッ!」


 吐息のような呻きを漏らしたキーメイカーはシュガーの合図に応じて双剣を閃かせ、上空の足場を一撃で粉砕する。

 宙を舞った鋼鉄の残骸はしかし地へ堕ちることなく、空間に凍結したかのように静止。

 ロック・ネック、現実の理をねじ伏せる力は重力の概念を解除すると瓦礫をまるで砲弾のように正面へと撃ち放った。


「チッ……! オーバーコード」


 対抗すべくヴァレン・シュメルツの化身、十本の指を持つ筋肉無骨な濃褐色の右腕は液体を撒き散らしながら顕現。


「リファインバースト、アンクロス・アブソル」 


 右腕が展開されると空間ごと瓦礫の軌道を捻じ曲げ反転、シュガー目掛けて高速で射出される。


 「ッ!」


 思わず硬直する彼女を寸前でクルミが抱き上げ、入り組んだ瓦礫の足場を駆け抜けると一気に距離を取った。


「あっぶねぇ、大丈夫、シュ」


「はぁ、はぁ……許さな……はぁ……!」


(息が荒い……? あの力、代償は持久力か。もう万全ではなさそうだけど……あーしの能力と組み合わせれば使える)


 冷静に状況を分析しながら、クルミは額の汗を払って髪をかき上げる。

 同時に半狂乱に満たされているシュガーの肩に手を置くと微笑む。


「ちょい落ち着きな狂人さん、このままじゃ持久戦で敗北する。協力して倒すよ」


「協力……ハハッ、どうせ貴方も期待させといて裏切るに決まって「裏切らない」」


「裏切り裏切られる怒りと辛さは痛感してる。だからこそあーしは君を裏切らない」


 悲観の狂気に満たされるシュガーに映り込んだのは真っ直ぐ過ぎるクルミの瞳。

 裏切りの被害に遭い、また被害を生んだ彼女だからこそ向ける視線には深みを持つ。

 完全に錯乱状態だったシュガーだったがようやく心は最低限の理性を取り戻す。


「思いついたから聞いてよ、名案ってやつを」


 囁かれた一言にシュガーは黙って頷く。  

 クルミもまた己の化身を召喚、瞬時に空気感が切り替わると決戦の構図が組み上がる。


「とくとご覧あれ、このゲームの逆転劇を」


「何を宣うかと思えば馬鹿なことを……早急にくたばってはくれませんかねェッ!」


 キュルンの苛立ちは頂点に達していた。

 今だけは好物のチョコの味すら思い出せない。


「リファインバースト、オーバー・ゼノ」


 巨大な右腕が彼女の背に纏わりつき、指が羽のように変形、禍々しい斬撃の羽根が展開されると空間には無数の斬撃が出現。

 直角に曲がる変態軌道のリファインコードはトドメを刺そうと加速を開始、本人も同様の軌道で高速飛行による肉薄を行う。


「せめて楽に終わらせてあげるっすよ。貴方達の人生ゲームをッ!」


 迫りくる蹂躙の刃。

 対抗と即座に写真と投擲したクルミはチェンジオブデスペラードの能力を発動。

 具現化された武器はシリウスの相棒であるカリバーリベレイター、逆手で掴む彼女は不規則な軌道を見定めると姿を消す。


(消えた……? 違う、加速ッ! カリバーの能力をコピーしたのか……!)


 横払いで斬撃を振り払ったクルミは剣が持つ神速の力でキュルンを翻弄。

 入り組む足場を絶え間なく不規則に跳躍を繰り返す彼女は揺さぶるように近づいては離れての奇行を繰り返していく。

 直角という独特の軌道を有する彼女の能力では神速に追いつくことは出来ない。


(何のつもりっすか鬱陶しく……チッ、この速度には追い付かない……!)


 意図の見えないクルミの暴走はキュルンを瞬く間に混乱の渦へと巻き込む。


(速っ……これが王子様が見えてる世界、神の領域の世界……けど食らいつく、命掛けるッ!)


 意識が飛びそうな速さ、脳処理が臨界点を達しているのか鼻血は盛大に噴き出す。

 挙動、いや狂動、一分も耐えられないこの領域を彼は難なく力を利用している。

 まさに最強の力、その片鱗を借りるクルミは衝撃の狭間で決意を漲らせた。


「こんの程度で屈服してたら……あの男に、追いつけられるわけないだろォッ!」


 超速で襲いかかる軌道を回避するクルミ。

 終わりの見えない拮抗状態に痺れを切らしたキュルンは徐々に顔を歪ます。


「小癪なことを……だが」


 宙を舞うキュルンは集中を磨ませると彼女が辿る軌道を鋭く凝視していく。

 確かに圧倒的な速度だがこの閉鎖的な空間、曲がる瞬間に生まれている僅かな減速を狙えば問題はない。


「そいつは私には通じないッ!」


 神速を封じる笑みと共に放たれる挑発。

 一途に自身が狙いを定めた瞬間だけを見据えてキュルンはその時を静かに待つ。

 そして、彼女を翻弄する神速は遂に布石を敷いた罠へと到達した。


「貰ったァァァッ!」


 刹那、一斉に放たれる斬撃群。

 曲がることで生じる減速した瞬間を見計らってキュルンは攻撃を仕掛ける。

 方向転換を行ったクルミの軌道には大量の刃が絶え間なく配置され、強襲を開始。


(軌道予測が行えるのなら問題はない、誤ったすねクルミ・アクセルロード!)


 起死回生に出たようだが結局は愚策、自身の体力を大いに消費して墓穴を掘るのみ。

 キュルンは舌舐めずりを行うと自身もまた肉薄で襲撃を仕掛けた。


「くたばれぇッ!」


 だが、戦況は又もや変化を遂げる__。


「えっ?」


 僅かに真っ白へと染まる思考。

 配置された斬撃群は当たらず、彼女の肉体は突如として急ブレーキが掛かった。

 超速で移動していたはずクルミ、だが次にキュルンの視界に移ったのは何時の間にかカリバーを投げ捨てた彼女の姿。


「リファインバースト」


(まさか……!?)


 ようやく理解を始める意図。

 同時に襲いかかる凄まじい悪寒。  

 罠に嵌められていたのは自分自身だと理解する頃にはもう遅い。


(不意を突くための見せかけかッ!? 今の神速はッ!)


「サプライズ・ディヴェルティメント」 


 銃口には眩い紫電の光が収束。

 化身は後押しするように両手はエネルギーを蓄え始め、聞いたことのない詠唱に無防備なキュルンは忽ち警戒を抱く。 


(ッ……聞いたことのない詠唱、新技かッ!)


 恐らくはチャージ攻撃、喰らえば終わると本能が警鐘を鳴らす渾身の一撃。

 そして最悪なことに彼女の虚を見誤り、自ら間合いに踏み込んでいるこの状況。


「不味い……!」


「ハァァァァァァァァッ!」


 一直線に放たれた光線。

 中々の速度、この距離も相まって油断をすれば確実に着弾するのは必須。

 徐々に近づく敗北の景色、だがさせまいとキュルンはさらなる闘志を瞳に宿す。


「させるっすかよォォォッ!」


 迫りくる驚異的な一撃。

 臨界点まで意識を統一させたキュルンは既の所で軌道を読み、華麗なる動きでクルミの光線を巧みに躱す。


「勝利……勝ったのはウサギだァァァッ!」


 堪らず、口角が吊り上がる。

 掠めるように回避したキュルンは、今度こそ終止符を打つべく双剣を振り下ろす。

 同時に周囲に散らした斬撃群が一斉にクルミへと収束、細断の檻は既に完成していた。


「……あ〜あ、折角のチャンスだったのに」


「はっ?」


「滑稽だよね、は」


 足元を掬われた感覚__。

 外しても尚、いや外したからこそ不適に微笑む彼女の様子に背筋へと悪寒が走る。

 熱狂していた心は鎮火を始めら深い深い絶望への悪夢が思考へと伝達させれていく。

 何事かと振り向いた瞬間、既にそれはキュルンの目の前まで迫っていた。


「はっ……?」


 光線が着弾したのは

 腹部に浴びた一撃は彼女の荒い呼吸を静め、見る間に活力を注ぎ込む。

 いや、それどころか先程を凌駕する筋力と速度に誰もが理解を置き去りにされた。


「リファインバースト……ロックネック」


 再び紡がれる、秩序破りの詠唱。

 重力の概念を再解放したシュガーは化身で周囲を粉砕、舞い上がる瓦礫を武具の刃先へと融合。

 鍛造された鉄塊は槌と化し、本体と共にキーメイカーもまたバニーガールを迫る。


「しまっ……!?」


「抹殺されてくださぁぁぁぁぁいッ!」


 ズガァッ__!


 鈍重な一撃、そして双剣の乱撃が炸裂。

 死角から迫ったシュガーと化身、その連携に軌道の修正は追いつかない。


「がはァッ!?」


 骨が砕ける轟音、肉体は無惨に弾き飛び、足場をなぎ倒して瓦礫の嵐を引き連れるとキュルンは壁へと叩きつけられる。

 脳を揺らす衝撃、完全に思考を切断したその一撃が遂にウサギを沈黙へと追い込んだ。

 戦場に満ちる静寂、揺れる足場を物ともせず、クルミは鮮やかに着地を決める。


。着弾対象のステータスを瞬間強化するインチキ技。攻撃と思った? それが運の尽き」


 鼻血を拭いながら、彼女は破顔する。


「一点集中で意識を縛り、真の脅威から目を逸らす二重の幻影ダブルトラップ。バッドエンドを迎えたのは君だったようだね」


 ゼベラを攻略したシリウスの戦法。

 受け売りの奇襲は効果を発揮する。

 勝利の香りは無骨を包みながら、ウサギ狩りという幕の前篇は静かに下りた。

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