俺は彼女のことをなんでも知っている。
ゲーム内でのデートスポットで彼女が好きな所は全てこの頭に入っているからな。
まずは映画館。彼女の好きな恋愛ドラマの劇場版の公開日に合わせてチケットを手配してある。
「ほら、
「え、もう席確保してあるんですか?」
「ん? ネット予約で簡単に取れるぞ」
「そ、そうですよね」
まずは一手。これは初期のデートイベントで主人公が映画に誘ったはいいけどチケット売り場が混んでて
実際には内部的好感度は若干上昇するイベントらしいのだが、それは相手が主人公だからだろう。
これまでの行動で
経験豊富な俺に手際よくデートをエスコートされれば、通常のイベントより好感度は高いはずだ。
現に
◇◇◇
「あ~、面白かったぁ」
「あの演出は神懸かってたなぁ」
「分かります♪ ヒロインの心情を上手く表してますよね」
「ああ。なんだか
「そ、そうですか?」
「ああ。あのヒロインやってるアイドル、声も似てるし、でも顔は
「も、もうっ、冗談ばっかり。お世辞なんて言っても何もでませんよ」
「お世辞を言っているようにみえるか?」
「見えますっ、先輩って女の子口説くの上手いですよね」
「つまり嬉しいってことじゃないか」
「そ、そんなこといってませんもん」
そんなやり取りが続き、
次なるデートスポットはショッピングだ。
彼女の好きなコーディネートやブランドは設定資料集に書いてあるので熟知している。
リーズナブルだがお洒落なデザインが多く、女の子に人気の高いブランドショップであり、誕生日プレゼントにこのブランドのアクセサリーを買うと好感度が高くなる。
「これなんか
「ほら
「え、でも」
「受け取れよ。これはきっと
大層遠慮する
戸惑っているように見えるが、内心は喜んでるのが丸わかりだな。
「ぁ、ありがとうございます……。先輩、もしかして私の好きなもの、ご存じなんですか?」
「まあ、ある程度幼馴染み達からリサーチして聞いてるよ。でも半分は俺の好みだ。お前は俺に染まればいいんだよ」
「そっかぁ、えへへ、そうなんだ」
今日のデートでは全て金は俺持ちにしている。
幼馴染みが奢るイベントがゲーム内にあるが、それだと好感度は下がってしまう。
実はゲーム初期だと割り勘でも問題ないが、奢るを選択すると「ありがとう」とは言われるが、内部的なデータでは好感度が下降しているのだ。
つまりこの時点では主人公が相手だと奢られることによって対等な関係ではない扱いに対して不満を抱く。
逆を言うなら、年上でグイグイ引っ張っていこうとする俺が相手だと、奢ってもらうことで好感度が上がる。
そう、ゲームと同じ選択では駄目なのだ。なぜなら俺と主人公では前提条件が違う。
女に金は出させない、くらいの強引さは、ゲーム初期である今においても、俺という条件の下では有効になるのだ。
◇◇◇
「先輩、凄く楽しいです。男の人と出かけて、こんなに楽しいのは初めてです。といってもアイツくらいしか経験ありませんけどね」
「それは男冥利に尽きるね。そろそろ俺という男の価値を理解してもらえたかな?」
「えへへ、もう、分かってるくせに」
そろそろスキル発動の出番だな。今回は実験はしない。
全部使って今夜のうちに全ての勝負を決めてしまおう。
「さて
「え、それって……?」
【催淫】のスキルを発動し、
自分で選択させたという認識の上で
理性が働いているようで働いていない状態と同じだが、それでこそ強く実感できるってもんだ。
何? せっかくここまで素の状態で攻略したのに中途半端なことをするな?
分かっていないな。俺の目的はヒロインに最高の幸せを与えることだ。
スキルを使うことで俺という男との時間が最高だと感じられるなら、使わない方が
つまり最初から計画通りだってことだ。
最後のデートの場所に選択したのはラブホテル街がほど近い繁華街の片隅だ。
ここは恋人達のメッカとしてそこかしこのカップルがひしめいている。
「ぁ、せ、先輩……」
戸惑い、
だが逃がすことはしない。選択しろとは言ったが、俺は逃がすつもりは毛頭なかった。
「
「ぁ……♡」
「気が付いてるんだろ。あのネックレスは首かせ……俺の女の証、首輪だってことに」
「は、はうぅ……」
俺は
強引な行動に一瞬の戸惑いを感じたようだが、直ぐに力を抜いて俺に身を委ねた。
肩を後ろから抱き寄せて逃げられないように固定する。
髪を撫で、顔を近づけて今にもキスしてしまう距離まで顔を迫った。
ギリギリのところで踏みとどまり、
「このまま強引に唇を奪われると思ったか?」
「そ、そんなことは」
「
「わ、私に選択肢がないですよそれ」
「そうだ。俺はお前がほしいと決めた。だからお前には始めから選択肢はない。でもせめて自分で選ぶチャンスはくれてやろうと思ってな」
我ながら酷い言い方だ。だが始めからヒロインに他の選択肢を与えるつもりは毛頭ないので、どんな道筋を立てたところで最終的な結論は同じになる。
そして
「先輩って、酷い人です……強引で、乱暴で、女の子をモノみたいに扱う酷い人……でも、優しくて、紳士的で、グイグイ引っ張ってくれる、男らしい人……私、強引な人に弱いって、生まれて初めて知りました」
「宣言しろ
「私は……先輩の……」
「
「「ッ⁉」」
今少しというところで怒号が鳴り響き、俺達の意識は現実に引き戻される。
振り向けば、親でも殺されたかのような凄まじい形相をした主人公が立っていたのだった。