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第48話◇メインヒロインはエスコートがお好き◇

 優奈ゆうなとのデートは彼女の好きな所に連れて行き、好感度を爆上げする作戦だ。


 俺は彼女のことをなんでも知っている。

 ゲーム内でのデートスポットで彼女が好きな所は全てこの頭に入っているからな。


 まずは映画館。彼女の好きな恋愛ドラマの劇場版の公開日に合わせてチケットを手配してある。


「ほら、優奈ゆうなの分だ」

「え、もう席確保してあるんですか?」

「ん? ネット予約で簡単に取れるぞ」

「そ、そうですよね」


 まずは一手。これは初期のデートイベントで主人公が映画に誘ったはいいけどチケット売り場が混んでて優奈ゆうなが機嫌を損ねるというものがある。


 実際には内部的好感度は若干上昇するイベントらしいのだが、それは相手が主人公だからだろう。


 これまでの行動で優奈ゆうなは年上にグイグイ引っ張られるのに弱い傾向があると予想している。


 経験豊富な俺に手際よくデートをエスコートされれば、通常のイベントより好感度は高いはずだ。


 現に優奈ゆうなの感情は俺への信頼度が上がっており、好感度は高まっている。


 ◇◇◇


「あ~、面白かったぁ」

「あの演出は神懸かってたなぁ」

「分かります♪ ヒロインの心情を上手く表してますよね」

「ああ。なんだか優奈ゆうなによく似てる感じがしたな」

「そ、そうですか?」


「ああ。あのヒロインやってるアイドル、声も似てるし、でも顔は優奈ゆうなの方が可愛いな」


「も、もうっ、冗談ばっかり。お世辞なんて言っても何もでませんよ」

「お世辞を言っているようにみえるか?」

「見えますっ、先輩って女の子口説くの上手いですよね」

「つまり嬉しいってことじゃないか」

「そ、そんなこといってませんもん」


 そんなやり取りが続き、優奈ゆうなの感情はドンドン俺に傾いている。


 次なるデートスポットはショッピングだ。

 彼女の好きなコーディネートやブランドは設定資料集に書いてあるので熟知している。


 リーズナブルだがお洒落なデザインが多く、女の子に人気の高いブランドショップであり、誕生日プレゼントにこのブランドのアクセサリーを買うと好感度が高くなる。


「これなんか優奈ゆうなに似合うんじゃないか?」


 優奈ゆうなの誕生日はまだ先だが、そのネックレスは既にこの時期から売りに出されているので問題なくゲットできた。


「ほら優奈ゆうな、着けてご覧」

「え、でも」

「受け取れよ。これはきっと優奈ゆうなに良く似合うと思うぞ」


 大層遠慮する優奈ゆうなへ強引にネックレスをかける。

 戸惑っているように見えるが、内心は喜んでるのが丸わかりだな。


「ぁ、ありがとうございます……。先輩、もしかして私の好きなもの、ご存じなんですか?」

「まあ、ある程度幼馴染み達からリサーチして聞いてるよ。でも半分は俺の好みだ。お前は俺に染まればいいんだよ」


「そっかぁ、えへへ、そうなんだ」


 今日のデートでは全て金は俺持ちにしている。

 幼馴染みが奢るイベントがゲーム内にあるが、それだと好感度は下がってしまう。


 実はゲーム初期だと割り勘でも問題ないが、奢るを選択すると「ありがとう」とは言われるが、内部的なデータでは好感度が下降しているのだ。


 つまりこの時点では主人公が相手だと奢られることによって対等な関係ではない扱いに対して不満を抱く。


 逆を言うなら、年上でグイグイ引っ張っていこうとする俺が相手だと、奢ってもらうことで好感度が上がる。


 そう、ゲームと同じ選択では駄目なのだ。なぜなら俺と主人公では前提条件が違う。


 優奈ゆうなは俺に強引に引っ張ってほしいと感じている。

 女に金は出させない、くらいの強引さは、ゲーム初期である今においても、俺という条件の下では有効になるのだ。


 ◇◇◇


「先輩、凄く楽しいです。男の人と出かけて、こんなに楽しいのは初めてです。といってもアイツくらいしか経験ありませんけどね」

「それは男冥利に尽きるね。そろそろ俺という男の価値を理解してもらえたかな?」

「えへへ、もう、分かってるくせに」


 優奈ゆうなの好感度は既に限界値近くまで上がっている。

 そろそろスキル発動の出番だな。今回は実験はしない。


 全部使って今夜のうちに全ての勝負を決めてしまおう。


「さて優奈ゆうな、そろそろデートも仕上げだ。こっから先は、お前自身で選択してくれていい。帰るならいつでも帰る選択をして良いぞ」

「え、それって……?」


 【催淫】のスキルを発動し、優奈ゆうなを発情させて【危機感緩和】で思考を鈍らせた。


 自分で選択させたという認識の上で優奈ゆうなに俺を受け入れてもらう。


 理性が働いているようで働いていない状態と同じだが、それでこそ強く実感できるってもんだ。



 何? せっかくここまで素の状態で攻略したのに中途半端なことをするな?


 分かっていないな。俺の目的はヒロインに最高の幸せを与えることだ。


 スキルを使うことで俺という男との時間が最高だと感じられるなら、使わない方が優奈ゆうなに失礼だろうが。


 つまり最初から計画通りだってことだ。


 最後のデートの場所に選択したのはラブホテル街がほど近い繁華街の片隅だ。


 ここは恋人達のメッカとしてそこかしこのカップルがひしめいている。


「ぁ、せ、先輩……」


 戸惑い、優奈ゆうなの中に微かな恐怖心が生まれる。

 だが逃がすことはしない。選択しろとは言ったが、俺は逃がすつもりは毛頭なかった。


優奈ゆうな、俺の女になれ」

「ぁ……♡」

「気が付いてるんだろ。あのネックレスは首かせ……俺の女の証、首輪だってことに」

「は、はうぅ……」


 俺は優奈ゆうなの体を持ち上げてベンチにドッカリと腰を下ろし、そのうえに優奈ゆうなを乗せて抱きしめる。


 強引な行動に一瞬の戸惑いを感じたようだが、直ぐに力を抜いて俺に身を委ねた。


 肩を後ろから抱き寄せて逃げられないように固定する。


 髪を撫で、顔を近づけて今にもキスしてしまう距離まで顔を迫った。


 ギリギリのところで踏みとどまり、優奈ゆうなの呼吸に微かな安堵と落胆が見えた。


「このまま強引に唇を奪われると思ったか?」

「そ、そんなことは」

優奈ゆうな、お前には自分の意思で俺の女になってほしい。選べ、俺の女になるって宣言してここでキスをするか、このまま強引に奪われて俺の女になるか」

「わ、私に選択肢がないですよそれ」

「そうだ。俺はお前がほしいと決めた。だからお前には始めから選択肢はない。でもせめて自分で選ぶチャンスはくれてやろうと思ってな」


 我ながら酷い言い方だ。だが始めからヒロインに他の選択肢を与えるつもりは毛頭ないので、どんな道筋を立てたところで最終的な結論は同じになる。


 そして優奈ゆうなは強引で乱暴な物言いで奪ってほしいと思っている。


「先輩って、酷い人です……強引で、乱暴で、女の子をモノみたいに扱う酷い人……でも、優しくて、紳士的で、グイグイ引っ張ってくれる、男らしい人……私、強引な人に弱いって、生まれて初めて知りました」


 優奈ゆうなの両手が俺の頬を覆う。息遣いが感じられるほど顔同士が近づき、周りから歓声が上がった。


「宣言しろ優奈ゆうな。俺の女になるってな」

「私は……先輩の……」


優奈ゆうなッ! お前何やってるんだッ!!」


「「ッ⁉」」


 今少しというところで怒号が鳴り響き、俺達の意識は現実に引き戻される。


 振り向けば、親でも殺されたかのような凄まじい形相をした主人公が立っていたのだった。




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