煌びやかなライトと大音響で覆われた大きな舞台。
歌と踊りと演奏と。
レーザーとストロボに光るステージに鳴り響く大音響をかき消すほどの大歓声に包まれて、その少女は華麗に歌い、舞い踊った。
「みんなぁああああっ! ありがとぉおおおおおっ!」
オオオオオオオオオオオォオオオッ!!!
『らんかああああああああっ』
『すきだぁあああああ!!
長く艶のある髪。流れるようなロングヘアは春を思わせる桜色。
可憐な唇。長い睫毛。華奢な肩と腰のくびれのラインは見る者を魅了し、カモシカのように細くしっかりした足はステージの床を踏みしめて力強いステップを生み出し、それもまた見る者を魅了した。
男性5割。女性5割。
そのアイドル「
少女のように無邪気で、天真爛漫で、大人の色気と無垢なあどけなさを併せ持つ美少女が織りなす可憐な歌声が人々を魅了する。
「本当にぃいい、ありがとぉおおおっ! アンコールありがとぉおおおおっ♪」
3回にも及ぶアンコールが終わってもなお、その大歓声とアンコールは鳴り止むことがない。
ステージを提供している会場の取り決め時間は既に刻限が迫っており、それ以上の継続は困難。
故に会場内では全てのプログラムを終了したことを告げるアナウンスが繰り返し流れるが、それでも半分以上の観客が諦めずにコールを続けていた。
まるで夢の時間から覚めるのを全力で拒むかのように。
◇◇◇
「お疲れさまですっ
「
「ありがとうございます! 皆様のおかげでーすっ! ありがとうございまーすっ!」
元気な声で挨拶を交わす1人の少女。
桜色の髪を汗に濡らし、振り乱しながら飛び散る飛沫がプリズムのように虹を幻視させた。
通り過ぎていく少女に誰もが見とれ、癒やされ、元気をもらい、魅了された。
控え室の扉が閉まりきってもなお、輝く少女と同じ時間を過ごしたことの余韻に浸るスタッフ達の溜め息でその場が染まっていた。
◇◇◇
「ふぅ……」
「お疲れさま
控え室の扉を閉め、その場が外側の喧騒から解放されて静寂が訪れる。
微かに聞こえる後片付け作業、いわゆるバラシに勤しむスタッフ達の声が遠くに聞こえる中、少女は倒れ込むようにソファに身を預ける。
「お疲れ様でーすマネージャーさん」
1人の女性がステージを終えた
「お疲れのところ悪いけど、この後は雑誌の取材が三件入ってるのよ」
「うえー。寝るヒマないよー。マネージャーさん絶対私のこと殺す気だぁ」
「文句言わないの。あなたにはまだまだ稼いでもらわないといけないんだから。私が仕事とってくるのにどれだけ苦労してると思ってるのよ」
「わかってまーす。ちょっとくらい休憩したって」
「スイッチが切れないうちに動いた方がいいわよ」
「はいはーい。それじゃいってきまーす」
本来なら直ぐにでもお風呂に入ってベッドに飛び込みたいところなのに、売れっ子アイドルという仕事はそれを許してくれない。
「人気アイドルは辛いよねー」
ブツクサ文句を言いながらも、すぐに切り替えて「アイドル」になる
その後も順調に仕事をこなし、ようやく
疲れが残ってしまうのでしっかりとお風呂に入り、動き回ってギシギシになった筋肉をほぐしておかないといけない。
「んああああ……疲れたぁ」
アイドル「
売れっ子としての自分。アイドルやグラビア、歌の仕事は楽しい。
めまぐるしく変化していく毎日が新鮮で、自分は生きているんだって感じがして苦しみはまるで感じない。
しかし、それと同時に普通の女の子として生きていくことができないもどかしさも感じていた。
プライベートはほとんどなく、何処へ行くにも衆人環視がついて回る。
「疲れたなぁ……はぁ」
湯船に浸かる
あるいはそれまで覆われていた何かが抜け落ちていくように桜色の髪が瑞々しい青へと変化していった。
「ふはぁ……疲れた……ダルい……眠い……じゅう、でん……したい」
ブクブクブク……
「よーし、アイドル、やーめよっと」
全ての気力が抜け落ちたように、
彼女の記憶と共に……。
『大人気アイドル
そんな見出しの記事が新聞を賑わせたのは、五月のゴールデンウィークが終わった後のことであった。