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第56話◇蘭華失踪と謎の転校生◇


 この世界に転生して早半月ばかり。

 ゲームの中という奇異な場所で、まさか憧れのヒロインとねんごろな関係になれるなんて誰が想像できただろうか。


「あ~、先輩、今度は誰をハーレムに入れたがってるんですか?」


 今日はかねてよりやろうと思っていた各ヒロインとのお部屋エッチ。


 優奈ゆうなの自宅にお呼ばれして夕食をご馳走になった。


 優奈ゆうなが彼氏を連れて夕飯をご馳走したいと聞いた母親は、これ幸いにと腕を振るってくれている。


 常識改変のスキルが効いているおかげで、強面のチャラ男がいきなりやってきても疑うことなく受け入れた。


 スキルは本人の意識にしか影響しない前提だったので色々と対策を準備していたのだが、攻略済みのヒロインの家族は対象だったらしい。


 問題なく常識改変が適応されて、俺と優奈ゆうなが付き合っている事に違和感を感じる事はなく受け入れてくれた。


 そうしてお泊まりを許され、一発中出しを決めたところで今に至るのだ。


 ベッドの上で抱き合い、ピロートークも落ち着いてきたところで残りのヒロインをどうするかを考えていたのだが、優奈ゆうなはそんな俺の考えを直ぐさま見抜いたらしい。


 小首をかしげながら悪戯小僧をたしなめるような微笑みが可愛い。


「よく俺の考えてることが分かったな」

「えへへ、だって先輩ったら、凄く悪い事考えてる顔してましたよ」

「そんな顔してたか?」

「分かりますよー。先輩の考えてることなんて皆知ってます。誰か取り込みたい女の子がいるんですよね?」

「ああ。実はあと四人ばかりな」


 俺が狙っている女の子は残り四人。


 サブヒロインが三人、隠しヒロインが一人だ。


 目下の狙い目は隠しヒロイン。この子との出会いはゲーム通りなら間もなく始まるはずだ。


優奈ゆうな~、彼氏さーん、お茶が入ったわよー』

「あ、お母さんが呼んでる。先輩、いきましょ♪」

「ああ、ご馳走になろう」


 母親は俺と優奈ゆうながセックスしていても当たり前の光景として受け入れるように常識を改変してある。


 ゲーム内ではヒロインの親が姿を見せることはない。

 というより、どんな家族構成なのか誰も明確にはなっていないのだ。


 一応舞佳に父親がいることは確認している程度だ。


 時間は既に夜の9時を回っている。父親が帰ってくる様子もないが、もしかして片親ではあるまいな。


 まあいいか。今はセックス後の余韻をお茶と共に楽しむとしよう。


『緊急ニュース速報です。大人気アイドルの桜木さくらぎ蘭華らんかさんが、数日前から行方が分からなくなっているということが分かりました。所属事務所の発表によると……』


「えーーー、蘭華らんかちゃんが失踪ッ⁉」


 お茶をご馳走になりつつ、ソファでくつろいでテレビをみていると、優奈ゆうなが画面に映る一人の美少女を指さした。


 よほどのことがない限りニュース速報なんてやらない昨今。


 そのよほどの事として1人のアイドルの失踪を伝えていた。こんな現象もゲームならではかもな。


 普通は政治とか事件とかそういうのだろうし。


蘭華らんかちゃん好きなんですよねぇ。可愛いし歌も上手いし、何よりあのピンク色の髪がスゴク綺麗。私も同じような色だから、憧れるんです」

優奈ゆうなだって負けてないさ」


 そう、負けていない。なぜなら彼女は優奈ゆうなと同格に扱われるヒロインの一人。


 国民的人気アイドルの桜木さくらぎ蘭華らんか


 多くの歌手やアイドルがいる中で、そのどちらをやらせても他の追随を許さない圧倒的人気者だ。


 リリースする曲は一つ残らずヒットを飛ばし、グラビア写真集はベストセラー。


 CMキャラクターを務める商品は必ず売れると言われるほどのヒットメーカーである。


 その経済効果は数百億とも数千億とも言われるほどの大人気だ。


 ゲームの世界ならではの自重しない派手すぎるバックグラウンド。


 日本で知らないものはいないほどの有名人であり、『花咲く季節と桜色の乙女』における隠しヒロインだ。


 登場自体は普通にプレイしていても起こっており、いくつかのサブイベントも用意されている。


 具体的に言うと、今のようにテレビで見かけるというもの。


 どのヒロインを攻略する時もサブイベントで姿を確認することができ、彼女のライブもデートコースに入っている。


 そしてひょんな事から本人と知り合いになり、友達になって連絡先を交換するイベントも用意されている。


 しかしそこから何かが発展することはなく、特に触れられることもなくエンディングを迎える。


 こっちから連絡するコマンドが選択肢に上ることはなく、向こうから時折話し相手になってほしいと一方的に電話が掛かってくるのみだ。


 メールを送るというのもゲーム内ではコマンドがないのでできない。


 通常周回では特殊なイベントの時だけ連絡する事になるだけだ。


 そんな事情もあって桜木さくらぎ蘭華らんかというヒロインは隠しルートに入るまでは少し目立つモブ、という立ち位置である。


 俺は心の中でほくそ笑んだ。


 桜木さくらぎ蘭華らんか失踪の緊急ニュース。これは彼女の攻略ルートフラグが成立している時に起こるイベントだ。


 通常の周回ではこのイベントは起こらず、攻略ヒロイン全員のエンディングを見たデータにのみ起こるのだ。


 それらの理由が彼女を攻略するキーパーソンになってくるのだが、そのためにはまだ接触していない3人のサブヒロインとイベントをこなさないといけない。


 ゲーム内と同じく蘭華らんかの失踪イベントは起こった。


 俺はこの世界に転生した時から彼女の存在を頭の片隅に置いて行動してきた。


 もちろんゲームとどこまで同じか図れない状態からのスタートなので、あわよくばという感じだった。


 だがもしも彼女を攻略するにあたって、条件を整える前提であるならば、5月のゴールデンウィークのこの時期までにヒロインを攻略しておく必要があるかもしれない。


 そういう可能性を頭に入れて攻略を進めてきた。


 妖精さんのさじ加減次第なところがあるので、必ずしも必要な事とは限らない。


 でもフラグを逃すと攻略不可になる可能性も含めて動いてきたので、一番俺にとって最高にラッキーな選択肢を引き当てられた事に内心興奮していた。


 あとは……。


「なあ優奈ゆうな、四月の初めに桜木さくらぎ蘭華らんかのライブがあったろ? 皆の中で誰か行ってないか?」

「あ、私行きました」

「あれか? 幼馴染みと?」

「そうですね……」


「その時さ、アイツ途中でいなくならなかったか?」

「え、どうして知ってるんですか? そうなんですよ。誘った人間ほったらかしにしてどっかに消えちゃってッ。そしたらアイツ、お腹壊してトイレに籠もってたっていうんですよっ。お腹壊すのは仕方ないにしても、連絡の一つくらいよこすのが筋でしょうに」


 ゲーム内と同じだな。

 優奈ゆうなは思い出しムカムカが始まったのかぷんすか怒っている。


 連絡をしなかったのはアイドル蘭華らんかとの思いがけない一刻ひとときに夢中になって忘れていたからだ。


 まあ仕方ないとも言えるが、その後に大したフォローもしないから、やはり俺は主人公が好きになれなかった。


 優奈ゆうなを抱きしめて撫で撫でしつつなだめながら、彼女を攻略するための情報を整理した。


 主人公のトイレ云々は嘘であり、実際はその時に蘭華らんかとの偶発遭遇イベントが発生している。


 何故かといったら、彼女本人に口止めされていたからだ。


 重要なのは、主人公が既に蘭華らんかと邂逅していたという事実だ。


 攻略フラグが立っているデータだと、その後に蘭華らんかが姿を変えて学園に転入してくる。


 そして厄介な点が一つある。


 隠しヒロインである蘭華らんかこと、本名『桜木さくらぎ美砂みさ』には、バッドエンドが存在しないのだ。


 つまり、もしも主人公が隠しヒロインの攻略ルートに入ってしまうと、仮にゲームシステムが働くと俺は2人の邪魔をすることができなくなってしまう可能性がある。


 更に厄介なのは蘭華らんかの攻略ルートが確定するのは、他のヒロインよりも遙かに早い夏休み前。


 それまでにサブヒロイン達と縁を繋ぎ、なんとかして美砂みさまで辿り着かなければいけない。


 校内にいるのだから直接会っても良さそうなもんだが学年が違うし、万が一ゲームシステムが働いた場合は俺が干渉できなくなってしまう。


 ん? 主人公とくっ付こうがお構いなしに奪ってしまえいい?


 確かにスキルを使えばそれは可能かもしれない。

 それは本当に最終手段であるが、懸念点が一つある。


 今まではかなり上手く行っていたが、この世界はやはりゲームの世界なのだ。


 システムの支配下にある出来事に俺が干渉できないことからも、主人公が確定ルートに入った場合は攻略不能となると考えた方が良い。


 今の所、清楚ビッチに主人公を抑えてもらっているが、それもいつまで持つか分からない。


 アイツは男を玩具としか思ってないガチのサイコパスだ。


 以前の俺とは互いを利用し合う関係として相性が良かったようだが、今は近づきたくない。


 アイツが主人公に飽きたら開放されてしまう。それまでに攻略を完了させたい。他の女を紹介しといてくれとは頼んであるが、覚えてない可能性も高いので微妙だ。


 あいつはゲームに登場する人間じゃないので、どこまでも仮説でしかない。


 だが、登場キャラ以外もシステムに支配される可能性を考慮すると、主人公が邪魔してくる前提で動くべきだ。


 だから俺の知らないところでサブヒロイン達と接触して、水面下で攻略が進んでいる可能性もある。


 早めにサブヒロイン達と接触する必要があるだろう。


 なんでかっていうと、隠しヒロインの攻略はサブヒロイン達とのイベント消化がフラグになっているため、先に彼女達を攻略しておかないと主人公が攻略ルートに入るのを止められなくなってしまう。


 逆にいうなら、既に優奈ゆうなたちがそうであるように、サブヒロイン達を先に俺のものにしてしまえば、隠しヒロインを主人公が攻略できる可能性は低くなるという仮説が成り立つ。


 主人公がサブヒロイン達に接触して隠しヒロイン攻略のフラグが建つのを阻止しなければ。


 今更優奈ゆうな達を主人公のスパイにはしたくない。それは俺のポリシーに反する。


 ヒロイン達を利用するのは他のヒロインを攻略する場合のみだ。


 男に近づける事には大きなリスクを伴うし、俺自身がやりたくない。


 なので、俺の仮説と現実がどれだけ整合性があるのかを確認するべきだろう。


 まずはサブヒロイン達との接触を計りつつ、隠しヒロインに直接攻略干渉できるか実験してみるとするか。



 恐らく美砂みさは間もなく転入してくる筈だ。


 サブヒロインの接触と、隠しヒロインの直接攻略。

 両方のアプローチを同時にしていくとしよう。



 そして数日後、セントヴィーナス学園の2年生に、謎の転入生が現われることになる。


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