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第57話◇新たな展開◇

 隠しヒロイン攻略の為の布石を打たねばならない。

 そのためにはサブヒロイン達に接触をしておく必要がある。


 必要なサブヒロイン達は全部で3人。


 そのうち1人は学園内にいるので、なんとかして関係を持たないと。


「亮二君、今日ですね、舞佳まいかのクラスに転校生がきたんですよ。アクアマリンみたいな綺麗な青い髪の女の子でして」

「へぇ。舞佳まいかのエメラルド色みたいに綺麗なんだろうな」

「えへへ~。舞佳まいかの髪、綺麗ですかぁ? 亮二君ってばお世辞が上手いんだからか」

「お世辞じゃねぇんだがな」


 ゴールデンウィークが明け、学園が始まって数日。

 俺は連日のように舞佳まいかを始めとしたハーレムメンバーで昼休みに集まって弁当を持ち寄っていた。


「きょ、今日は私の当番ですので、亮二さんの好物集めてみました」

「お、初音はつねの手作り弁当か。ありがたいな」

「は、はい♡ お口に合えば良いんですが」


「亮君、明日は私が担当するからね♪」

「おう、楽しみにしてるぞ」

「くぅ、舞佳まいかもお料理できたらいいんですけど」


舞佳まいかちゃんが作ると炭の塊をお弁当箱に詰めることになっちゃうからね」

「むきーっ! そんなハッキリ言わなくてもいいじゃないですか優奈ゆうなちゃんっ!」


 攻略ヒロインが一同に介して俺を取り囲む。

 中庭の木陰スペースにシートを持参して取り囲む空間は、少し前まで主人公がいた場所に俺が座っている。


「ところで転校生ってどんな子なんだ?」

「およよ? 亮二君転校生の美少女が気になっちゃう感じですか?」


 初音はつねにお弁当を食べさせてもらいながら、舞佳まいかの語る転校生の特徴を聞き出していく。


「りょ、亮二さん、はい、あーん」

「あーん」


 本来なら初音はつねとの甘々タイムの実況をしたいところなのだが、それはまたいずれの機会に譲るとしよう。


 膝の上に乗せた初音はつねからお弁当を口に運んでもらいつつ、舞佳まいかのクラスに転校してきたという女の子について聞き出していく。


 俺の予想が当たっていれば……。


「なんだか結構ぼんやりしてる子でして。髪色は綺麗だし、めちゃくちゃ美少女なんですけど、つかみ所がないっていうか、声がめちゃくちゃ小っちゃくて不思議ちゃんなんですよね。舞佳まいか話しかけたんですけど、全然会話が成立しませんでした」


「その子、もしかして桜木さくらぎ美砂みさって名前じゃないか?」

「え? どうして亮二君が知ってるんですか?」

「先輩桜木さくらぎさんと知り合いなんですか?」


 ビンゴだ。その美少女こそ先日芸能界を失踪したトップアイドルの裏の姿。


 特殊な事情によって髪の色がピンクからブルーに変化しているさくさくの隠しヒロインである桜木さくらぎ蘭華らんかこと、本名『桜木さくらぎ美砂みさ』なのある。


 主人公は物語から退場したと妖精さんが言っていた。

 彼女の言うことをどこまで絶対のものと信じるかにもよるが、これ以上主人公が俺達に干渉してくる可能性は大分低くなった。


 同時に、彼が退場した以上はストーリーはほぼ崩壊していると言って良い。


 本来起こるはずのイベントは起こらず、会えるはずの人物にも会えなくなる。


 以前に電車の中で起こったようなゲーム内の強制イベントは、俺が主人公が進むべきストーリーを早めに壊した影響であれ以降起こっていない。


 ただし、主人公は今日も学園にいる。まあ当たり前だが、つまりはストーリーが壊れても、学園内でゲームシステムが働く可能性はまだ消えていないのだ。


 と言うことはだ。もしも主人公が美砂みさと邂逅した場合、ゲームイベントが起こって攻略ルートに入る可能性は十分ある。


(イベントに先回りするか……)


 どこまでできるか分からない。まずは美砂みさ攻略のルートに入るための条件。


 桜木さくらぎ美砂みさ本人と接触しなければ。


◇◇◇


「なあ舞佳まいか優奈ゆうな。ちょっとその転校生見に行きたいから案内してくれ」

「いいですよー♪」

「先輩、桜木さくらぎさんが欲しいんですか?」

 ハーレムの女の子達には『男は多くの女を囲ってこそ』という価値観が植え付けられている。


 優奈ゆうなは積極的に俺が気に入った女は引き入れようとするし、その手伝いの為に手駒となることにまったく躊躇ちゅうちょがないようだ。


「ん、まあちょっと気になってな」


 放課後、優奈ゆうなたちに頼んで美砂みさを見に行くことにした。


 ワンチャン接触できれば主人公に先手を取れるかもしれない。


 妖精さんの言葉からもあいつは今ストーリーからは外れていると思われるが油断はできない。


 あの妖精さんの存在そのものが謎過ぎるからな。


 どうも主人公とヒロイン達のストーリーを壊すのが目的のような気がするので、今は彼女の都合の良いように利用され続けるのが得策だろう。


「あ、いました。あの子ですよ」


 反対側の教室棟の窓に青い髪の美少女が見える。

 間違いない。桜木さくらぎ美砂みさだ。


 実際見るとやっぱり美少女だな。

 絹糸のように揺れる長い髪。アクアマリンのような透き通ったブルーが眩しい。


 同じ色の瞳は宝石を彷彿とさせ、睫毛が長くクルンとカールしている。


 遠目でも分かるほどに大きなバストが張りだし、ムチッとした太ももがミニスカートから覗いていた。


 隠しヒロインの仮の姿とはいえ、こっちの姿だけでも十分にヒロイン力抜群だ。


 彼女には特殊な体質がある。そのためにテレビで見たような桜色ではなく、ブルーの髪色をしているのだ。


 そして、本人は自分が桜木さくらぎ蘭華らんかである事を忘れている筈だ。


「とりあえず先輩を紹介する、くらいの軽いノリで紹介してくれ。ついでに校内案内とかも申し出よう」

「あ、それナイスなアイデアですね。舞佳まいか優奈ゆうなちゃんにお任せください」

「先輩の役に立ってみせます」


「よし、早速話しかけ……あっ」

「あっ……、あいつ……何してるの?」


 早速美砂みさと接触しようと試みたが、一緒にいる男の姿を見て足を止める。


「遅かったか」


 美砂みさと一緒にいる主人公の姿を見て、一足遅かった事を悔やんだ。


 しまったな。やはり主人公がシナリオに絡むのはまだ止まっていない。


 まあいい。もともとシナリオなんてあって無きがごとしだ。


 このまま接触してしまおう。もしかしたらスキルで主人公からシナリオの主導権を奪い取れるかもしれない。


「ちょっと今から彼女と話してみたい。優奈ゆうな舞佳まいかで中継ぎを頼んでいいか。予定通り知り合いを紹介くらいのノリでいい」

「はーい♪ 舞佳まいか達にお任せですよー」

「第一印象が大事ですもんね」


 そういうわけで主人公と話している美砂みさの所に近づいていこうとしたその時だった。


「あ、すみません。私用事があったんでした」

舞佳まいかもです。先生に頼まれ事してました」


「あ、おい2人とも」


 美砂みさに近づこうとしたその瞬間、優奈ゆうな舞佳まいかも何かに取り憑かれたように反対側に歩いていってしまった。


 俺の声が届いていないかのように振り返ることなく立ち去ってしまい、俺は呆然と立ち尽くす。


「やはり主人公が絡むゲーム内イベントには干渉できないらしいな」


 俺が近づこうとしても同じだった。

 何かが阻むように足が止まり、声を出す事も敵わない。


 なんてこった。これは本格的に作戦を練り直さないとマズいな。


 話している内容は聞こえないが、転校初日ということもあり、校内案内に主人公が抜擢されるイベントだろう。


 迂闊だったな。先回りするなら優奈ゆうなたちに情報を共有して、校内案内を申し出るように命令しておくべきだった。


 試しに2人の側に近づこうと試みるも、何かに阻まれるように辿り着くことができず、気が付いたら反対側の階段下に降りてしまった。


「くそっ。イベント進行中の干渉はやはり無理か」


 清楚ビッチに絡め取られたと思っていた主人公だったが、ゲーム内イベントに干渉することはいまだにできるらしいな。


 一度清楚ビッチにどういう状況か聞いてみないとな。


 仕方ない。サブヒロイン達の攻略を急ぐとしよう。

 彼女達も五月以降にならないと接触することができない為、今までそのことは頭にありつつも実行できなかった。


 なんだかんだで優奈ゆうなたちとの関係を深めるのに忙しかったしな。


 のんびりするべきじゃないが、まだ焦るような時期でもない。


 大丈夫だ。まだ勝てる。

 今日のところはとりあえず桜木さくらぎ美砂みさとの接触は諦めるしかない。


 急がないと。近日中にサブヒロイン達を俺の女に仕上げなければ。


 俺はサブヒロインの一人目、初音はつねの後輩である新一年生の堅物図書委員ちゃんに会いに行くことにした。


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