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第67話◇モニター越しのヒロイン◇

『はいはーいっ。子兎ファンのみんなー。こんルルカー。寂しがり屋のチビ兎。ハローレイド所属、子兎こうさぎルルカでーす♪』


 カメラレンズに向かって溌剌はつらつな声を出す一人の少女。


 中央に鎮座する大きなモニターには動画を発信するためのツールが様々なステータスを表示しており、少女は慣れた手つきで画面を操作する。


 その動きにはまるで淀みがなく、その場その場で適切なツールを起動させて視聴者を楽しませる。


 経験に裏打ちされた適応力によって、画面の向こうには視聴者から称賛の声が次々に届くほどにエンタテインメントに富んだ配信を毎日のように行なっている。


「はい次のしつもーん。ルルカちゃんはちるるちゃんとコラボしないんですか? 雪峰ちるるちゃん可愛いよねぇ。コラボしたいなぁ」


 視聴者から寄せられた多くの質問に矢継ぎ早に答えていく少女。


 その中には人気の美少女VTuber、雪峰ちるるとのコラボを望む声がいくつも寄せられた。


「それじゃあ今日はここまで。また次回の配信でお目に掛かりましょう。さよルルカー♪」


 配信を終え、事故防止の為に何度も終了した事を確認する。


 カメラとマイクのスイッチをオフにして、子兎ルルカというVTuberは『小日向こひなた涼花すずか』という少女に戻った。


「はぁ~。今日も大盛況っ! 私って凄いッ! 最高っ! 可愛いっ! 美少女ッ!」


 椅子から立ち上がった少女がググッと体を伸ばして小さな体をストレッチした。


「うん。同接数3万4千人。スパチャは20万円。やっぱり私って凄いっ!」


 自画自賛が彼女のメンタル術の一つであった。

 自信に満ちあふれているその瞳は、徐々に本来の彼女に戻っていった。


「ぷぁああああっ! やったっ! やったぞぉおおっ! 同接3万4000ってやっばぁ♡ あたしってすごーいっ!」


 立ち上がったその体はとても小さく、143センチしかない。


 小柄な少女はベッドに突っ伏し、自らの功績に自分自身へ賛美を送った。


「あ~、ちるるちゃんかぁ……コラボしたいなぁ。でもちるるちゃんってまだ誰ともコラボしてないって話だし……。DM送ったら答えてくれるかなぁ」


 ルルカこと小日向こひなた涼花すずかは、学園休学中に大手VTuber事務所企業からスカウトされたプロのVTuberである。

 彼女はそこに所属するトップクラスに売れっ子の配信者であった。


 ◇◇◇


「エッ⁉ ちるるちゃんからコラボの打診ですか⁉」


 いつものように配信後の反省会ミーティングを行なっていると、担当マネージャーからまさかの提案をされることになった。


『そうなんです。先方から是非にと打診がありまして。本日の配信を見ていらっしゃったそうで、本社のDMに直接問い合わせがありました。間違いなく本人です』


 ルルカは普段から好きなVTuberは誰かと聞かれたら必ずちるると答えるほど彼女に傾倒している。


 登録者や平均視聴者数、投げ銭の平均値はルルカの方が圧倒的に上。


 しかしルルカは一度としてちるるよりも優れていると感じたことはなかった。


「ふわぁああああ、。ああ、あ。あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

『ど、どうしたんですか、そんなに嫌でした?』

「ちるるちゃんとコラボぉおおおおおおおおおおおおおっ! おおおおおおおおっ! おおおっ、おおおおっ! 尊いッ! 尊すぎて死ぬッ! 無理ッ! 尊いッ! ちるるちゃんにお近づきになれるとか、尊すぎて無理ぃいい」


 なぜならルルカはちるるを目標にしてVTuberになった。

 全ての『数字』が上回っても、『本質』は越えられている気がしない。


 そして今でも彼女の事を崇拝している。


『ではお断りのメールを』

「したらアンタを一生呪ってやるからな」

『どっちなんですか』


「そんなのコラボしたいに決まってるでしょぉおおおっ! んはぁああああっ! 尊いッ! はぁああ、今から服買いに行かなくっちゃっ!」

『そんなに慌てなくてもコラボは1週間後ですよ』

「1週間しかないじゃないっ! 今からエステ予約して新しいコスメ買って、アロマも準備しなくっちゃっ! はっ⁉ インテリアの配置考えなくちゃっ! ちるるちゃんのスクショの引き延ばし等身大抱き枕は隠した方がいいよねっ⁉」


『色々とドン引きですが、とりあえずコラボはウェブ上だけで完結しますから部屋の模様替えは必要ありませんよ』


「それを早く言えよテメェっ! ぬか喜びさせんなっ!」

『話を先走ったのはルルカさんですよ?』


 ガーガーいうのはいつものことなのでマネージャーの対応は極めて冷静である。


 涼花すずかは18歳。マネージャーは25歳で年が離れているが二人の間に忌憚はなかった。


「くそぅっ、せめてリアルの情報の一つでも手に入れば自宅の特定くらい簡単になるのに」

『一応議事録用に録画されてるんですから犯罪めいた発言は控えてください』


 その後もガーガーと文句は続き、打ち合わせは一向に進まなかった。


「ああああああっ! マネージャーが話を長引かせるからちるるちゃんの配信に間に合わなかったじゃないかっ!」

『ルルカさんが余計な話ばかりするからでしょうに』


「うわぁあ、もう始まってるじゃんっ! とりあえず赤スパ投げとくか」

『自分の方が登録者数が上なのにどうして限界オタクのままなんですか?』

「馬鹿野郎ッ! 心の師匠に対して登録者人数は関係ねぇだろっ」

『(本人に会わせたら絶対ドン引きされる奴だコレ)』


 ちるるの限界オタクであるルルカ。果たして二人のVTuberは絡み合うのかどうか。


 ◇◇◇


「はぁ……。うわぁあ、嬉しい……っ、ああっ、無理っ、ホント無理ッ。楽しみ過ぎて死ねる」


 その日の予定が全て終わり、ちるるの配信をたっぷりと堪能し終わった涼花すずか


 調子に乗って数万の投げ銭を連続で投げてしまい、ちるるの配信はお祭り状態になった。


 無論、身バレしないように別アカウントを使っての投げ銭であったが、大いに目立ってしまったのは間違いない。


「あああっ、寝れねぇっ。ちるるちゃんのアーカイブマラソン限界までするか」


 脳が興奮状態になってしまった涼花すずかはベッドから跳ね起きてパソコンの前に張り付いていた。


「はぁあ、可愛いッ。初期の配信のちるるちゃんの初々しい感じがたまらんっ。過去に戻って赤スパしてぇ。記憶消してもう一回見たいっ」


 モニターの前で悶絶する彼女の姿を見て子兎ルルカだと理解するものはいないだろう。


 そんな事を朝方まで続けていた涼花すずかのもとへ、旧知の仲である桜結美さゆみから連絡が入る。


「あれ、さゆみん? 珍しいな。もしもし?」

『あ、涼花すずかちゃん? お久しぶりです』

「久しぶり~。元気だった?」


 涼花すずか桜結美さゆみは同じ剣道場に通っていた旧友である。


『うん、とっても元気ですよ』

「今日はどうしたの? 珍しいね」

『なんか急に声が聞きたくなっちゃいまして』

「あはは~、なんだよー。私は彼女か?」

『いいじゃないですか。いっぱい遊んだ仲ですよ私達』


 旧友からの突然の連絡に喜びを露わにする涼花すずか

 それは久しぶりに声を聞く友人からの食事の誘いだった。


「ご飯かぁ。いいよぉ。来週からちょっと忙しくなるから、今週のどっかで会おうか」

『うん、実はちょっと面白い人と友達になりまして。できれば紹介したいなって思って』

「面白い人?」

『そうです。初音はつね先輩覚えてますか?』

「ああ~、あのおっぱい大っきい人かぁ。めちゃくちゃエロい人だったよねぇ。脇の下から小人になって入りたいよ」

涼花すずかちゃんの視点がちょっと怖いんだけど先輩のエロスには超同意です。でも今回紹介したいお友達はそれと真逆でして』

「真逆?」

『ええ。会ってからのお楽しみというか、多分趣味の同人誌も大変はかどると思いますよ』


「へぇ~」


 涼花すずかはそこでちょっとした違和感を感じとった。

 趣味でやっている同人誌活動は昔から桜結美さゆみには知られていた。


 その内容はもっぱらR18のオンパレード。

 性的な事に免疫のなかった桜結美さゆみが自分の同人誌の内容に言及するのは珍しいのだ。


(なんだかんだで一年近く会ってなかったし、もしかして大人になったとか? ま、まさかね……私を差し置いてあの桜結美さゆみが……)


『どうしました涼花すずかちゃん?』

「え、ああっ、な、なんでもないなんでもない。それじゃあ会おうか」

『はいっ、じゃあ楽しみにしてますね♪ 具体的な場所とかは後で知らせるんで』

「あいよー。それじゃあまた今度」


 そういって通話を切り、一息ついたところでトロトロとまぶたが重たくなってきた。


「ふわ~、眠くなってきたぁ。さゆみんの友達かぁ。どんな子なんだろ? たのしみ~」


 旧友との語らいと新たな友人に思いを馳せながら、涼花すずかは徹夜明けの体を横たえて心地良い眠りに入った。


 涼花すずかが亮二で処女を失い、自身の描いた同人誌と同じ事になる日まで、あと3日。


◇◇◇


「はい、それじゃあまた連絡しますね……こ、これで、良かったですか?」

「ああ、上出来だ桜結美さゆみちゃん」


 涼花すずかとの通話を終了させた桜結美さゆみはモジモジと股を擦りながら頬を赤らめた。


「えっと、私と涼花すずかちゃんが旧友だってどうして知っていたのかとか、色々と疑問はあるんですけど、と、とりあえず」

「ああ、ちゃんと"よくできました"のご褒美はくれてやる、よ!!」


「――――ッ!!♡」


「すっかり俺の虜だな桜結美さゆみちゃん♡」

「そんなこと、ないれしゅぅ。わらひは、屈しなひぃ」


「そのうち涼花すずかちゃんと尻を並べて犯してやるからな」


 なんで涼花すずかの事を知っているのか。疑問が浮かび上がって意識が削がれそうになるも、一瞬のうちにどうでもよくなる。


 良き友人である涼花と共に玩具のように犯される未来を想像しているようだ。


涼花すずかちゃん攻略の為に力を貸してくれよ桜結美さゆみちゃん。そしたらもっと素敵なご褒美をくれてやるからな」

「なんか、罠に填めるみたいで気が引けます」

「じゃあいらないってこと? 褒美は初音はつねと二人きりのデートを予定してたんだが」

「ほしい♡ 初音はつね先輩とデート。その後で、一緒に犯してほしいです。 霧島先輩もほしい」


「すっかり中毒だな。良い傾向だ」


 すっかり精液に依存しきった桜結美さゆみ

 その思考にはすっかり『亮二に抱かれる事が何よりも幸せ』という価値観が植え付けられていた。


 だがその裏で、初音はつねによる徹底した『亮二に女を献上する事が使命』という価値観を植え付ける教育が、亮二も気が付かないうちに施されていた。

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