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第71話◇売れっ子VTuber同士、知らずのご対面◇

【side涼花すずか


「か、可愛い……」


 今日は旧友である猫田桜結美さゆみちゃんこと、さゆみんに新しいお友達を紹介したいと食事に誘われたのだけど、こんなに可愛い子だとは予想外だった。



 私は食事の約束をした彼女との待ち合わせ場所に赴き、そこに現われた真っ白な天使に言葉を失うことになった。



「紹介するね。同じ学園に通ってる白峰小雪こゆきちゃん。私と同じ一年生だよ」

「は、初めまして。白峰、小雪こゆきです。よろしくお願いします……」


 なんなのこの子ッ! 可愛いッ! 可愛すぎるッ♡


 143㎝の私と同じくらい小っちゃいのに、同じ生き物とは思えないくらい何もかもが違う。


「こちらこそ初めまして。小日向涼花すずかです」

「猫ちゃんのお友達、小雪こゆきも、会いたかった、です。セントヴィーナス学園、一年生」

「さゆみんと同学年なんだね。私は中退しちゃったけど、通ってたら三年生だから、2個上になるかな。でも私、年齢差の敬語とか気にしないから」

「そうそう。見た目通り小っちゃいから、年上には見えないよね~」

「あ~。言っちゃならんこと言ったなさゆみんめぇ」

小雪こゆき、お友達少ないから、うれしい♪」


 ぐはぁあああっ! 可愛いッ♡ 

 照れくさそうにはにかむ笑顔も天使のように魅力的。


 初雪みたいに白銀色の髪は光沢があってツヤツヤ。


 ツーサイドアップにした結び目には"真新しい"アクセサリー付のヘアゴムで結わえられおり、彼女の魅力を一層引き立てている。


 しかもさゆみんのことを猫ちゃんって呼ぶセンスの良さ。

 それら全部が彼女だからこそ似合う。


 存在次元の全部が可愛らしさに全振りされてるような、神に選ばれた二物も三物も与えられた天使みたいな女の子だ。


 お人形さんみたいに小っちゃくて、声もソプラノボイスで心地良い。


 でもあれ? なんだろう。この声ってどこかで聞いたことあるような……?


「あの、小雪こゆき、ちょっと失礼なこと、聞くかも、なんですけど」

「どうしました?」

「人気VTuberの、子兎ルルカちゃんに声がそっくり。小雪こゆき、ルルカちゃんのファンだから、凄く嬉しくなる。ごめんなさい」

「あ、いいのいいの。全然気にしないでっ」


 声は似ていて当然だ。何しろ本人なのだから。


 それをいうなら、彼女の声……そうだ、私の大好きな雪峰ちるるちゃんにそっくりなんだ。


 大人しげに喋ってかなり小声だけど、声質は非常によく似ている気がする。


 彼女が元気よく喋ったら、あんな感じの声になるに違いない。


 性格が真逆そうに見えるから、きっと違う人なんだろうけど……、この子がちるるちゃんのキャラを演じているとしたら、相当凄いことだ。


小雪こゆきちゃんの方こそ、雪峰ちるるちゃんに声が似てる」

「ホント? 小雪こゆき、ちるるちゃんに似てる?」

「うん、大っきい声出したらそっくりだと思う。あ、小雪こゆきちゃんって呼んでもいい?」

「うん。小雪こゆきもそれがうれしい」


 やっべぇ。ちるるちゃんに似てるって分かったら余計可愛く見えてくる。


 小っちゃくて妖精さんみたいな女の子。こういう子ほど背丈の小ささが似合うのに。


 私は同じチビでも全然可愛さの欠片もないのが悲しい。


 さゆみんのお友達だからラフな格好で良いだろうと高をくくっていたのが仇となった。


 小雪こゆきちゃんはゴテゴテしない程度の控え目のフリルが可愛い春らしいワンピーススタイル。


 可愛いリボンとヘアアクセを組み合わせ、自分の魅力を十全に引き出したコーディネートをしている。


 それでいてあざとすぎず、どこか大人の色気すら感じる雰囲気のアンバランスさが愛らしさを更に強調していた。


 色気とは無縁そうな幼さを有しているにもかかわらず、内に秘めた大人っぽさが彼女の魅力を更に引き出している。


「今日は私の方でお店予約してあるから、三人でゆっくり親睦を深めようよ」

「さっすが社会人。でもあんまり高い店だと割り勘キツいよ」

「そこは社会人のお姉さんにまっかせなさーい。君たちにお金を出させるようなことはしませんから」


 久しぶりの友達との食事だから、気合いを入れてお洒落な店を予約してある。


 マネージャーさんに教えてもらったお酒の美味しいお店らしいけど、まだお酒が飲める年齢じゃない私にはあまりよく分からなかった。


 でも料理の味が絶品なのは間違いないので、時々打ち上げの会場に使ったりしている。


 ◇◇◇


「あらぁ、いらっしゃいルル……じゃなかった涼花すずかちゃん。待ってたわよ」


「ひぇっ」

「ぴっ⁉」


「あ、この人この店の店長さん。見た目は厳ついけどいい人だよ。この人の作る料理がスッゴく美味しいの」


 出迎えてくれた店長さんの見た目にビビるのも無理はない。


 身長2メートル15㎝。胸板140㎝。体重125キロ。

 ボディビルダーも真っ青の丸太のような腕には青筋がビキビキと浮き上がっており、小雪こゆきちゃんのような華奢な少女が見たら卒倒してしまうような厳つさだ。


 しかもオネエ言葉でしゃべるオカマさん。

 気は優しいし、慣れれば愛嬌のある顔をしているから私は好きだけど、知らない二人からすればお化けレベルだろうな。


 だけど、この人の作る料理は顔に似合わずとても美味しい。


 それこそしょっちゅう雑誌の取材がくるくらいには有名だ。

 半分は彼女?の風貌を見て逃げ出すらしいけど。


「まだお客は来てないからカウンターにどうぞ」

「あ、あの」

「あ~。ミルク店長って顔は怖いけど優しい人だから心配しなくていいよ」


 このお店、シルキィ・ミルクっていうんだけど、知る人ぞ知るって感じで業界じゃかなり有名らしい。


「さあさあ、今日はお友達価格でいっぱい腕を振るっちゃうからね★」



 ミルク店長が定期的に合いの手を入れてくれるおかげで、人見知りらしい小雪こゆきちゃんは緊張が徐々にほぐれていったみたいだ。


 後で知ったが、彼女を見て一瞬にして人見知りだと見抜いたミルク店長が、私達が帰る時間までお店を貸し切りにしてくれていたらしい。


 そうして、三人の会話はお互いの生活について盛り上がり、普段何をしているのかという話題に波及していく。


小雪こゆきちゃん、何か趣味とかある? 私はVTuber見るのが大好きでね」

小雪こゆきも、好き。子兎ルルカちゃん、可愛い」


 ぐっっはっ! ヤバい嬉しいッ! 萌え死ぬッ!


 いっそのこと私がルルカだってカミングアウトしちゃおうかな、なんて思ってしまう。


 だけど事務所との契約もあって、信頼できる人にしか明かすことはできない。


 情報はどっから漏れるか分からないからだ。


 ちなみにさゆみんには私がVTuberだとは知らせていない。

 彼女はあまりネット動画とか見ないらしいので、彼女から小雪こゆきちゃんに洩れてるってことはなさそう。


 話はまだまだ盛り上がっていく。

 小雪こゆきちゃんは体は小さくて大人しそうだけど、最近になってとても嬉しいことがあってか元気が出てきたらしい。


小雪こゆきね、ずっと体弱くて、お友達もできなかった。だけど、大好きなお兄ちゃんのおかげで、他人が段々怖くなくなった」

「へぇ、小雪こゆきちゃんお兄さんいるんだ」

「ううん。お兄ちゃんみたいな人。学園の先輩で、とっても優しい人」

「あ、そういう……。じゃ、そのお兄さんの事、好きなんだ?」


 コク……と頬を赤らめて肯定する小雪こゆきちゃん。その時の嬉しそうな顔といったら、それだけで丼三杯はいけるくらい可愛い。


 恋する乙女とは素晴らしきかな。


 創作意欲が湧いてくるなぁ。私の作品はほとんどがR18だから、彼女にはとても見せられないけど。


 いつも寝取られグチャエロばかり描いてるし、たまにはピュアピュアな純愛ものを描いてみたい。


「ねえねえ、小雪こゆきちゃんのお兄ちゃんってどんな人。見た目は?」

「見た目は、凄く大っきい」

「へえ、身長高いんだ」


 小雪こゆきちゃんは小っちゃいので、彼女基準で大っきいだと色々と幅が大きいかもしれない。


「ミルク店長と並んだらどのくらい?」


 私が話を振ると「ムンッ」ってポージングし始める。

 マッチョなのは分かったから茶々いれないで、お願いだから。


「んっと、たぶん、店長の首元くらい」

「え、じゃあ結構大きいんだ」


 190くらいかな。思った以上にデカくて予想外だった。


「顔付きは?」

「うーんと、イケメン。爽やか風じゃないけど、イケメン」


 ワイルド系なのかな。これもまた予想外。少女漫画に出てくるような王子様系を想像していただけに、イメージしにくい。


「肌の色は、ちょっと日焼け気味。小雪こゆきと真逆」


 色黒? この感じだとガン黒って訳じゃなく、健康的なサーファーみたいな感じ?


「髪の色は?」

「黒。でも最近まで金髪だったみたい」

「チャラ男じゃんっ!!」


 デカくて浅黒くて最近まで金髪で……。そりゃどう考えても寝取られモノでよくあるヤリチンチャラ男じゃないか。


「あー。確かにあの人は見た目すごくチャラいよね」


 やっぱりか。儚げ美少女の小雪こゆきちゃんとデカチャラ男の組み合わせは犯罪臭しかしないんだけど。


「でも結構紳士的で好感が持てる人だよ。マナーも良いし、気遣いができて優しいから」

「さゆみんも交流があるんだ」

「初音先輩の彼氏だからね。時々図書室に来るんだ」


 初音先輩っていうと、あの反則的におっぱいの大きい人だよね。


 あの巨乳を好き放題にできるチャラ男。ますます怪しい。


小雪こゆきちゃんは、お兄ちゃんのことどう思ってるの?」

「ん? 好きだよ。いつも小雪こゆきのことナデナデしてくれる。優しいし、格好いい」


「恋してるんだ」

「うん。大好き♡」


 はわぁ、可愛いなぁ。しかし、それだけに不毛だ。

 既に彼女持ちな訳だし、憧れのお兄ちゃんとの恋は叶わないとか……かわいそすぎる。


小雪こゆきちゃんは、辛くない?」

「ん? なんで?」

「え、だって。そのお兄ちゃんって初音さんと付き合ってるんでしょ?」

「うん、そーだよ。だから小雪こゆきも交代でデートしてる。今日は初音お姉ちゃんの日だから」


 うん? どういうことだろう? 話がうまく飲み込めないや。


「えっと、どういうことかな? 彼女持ちの男の人とデートしてるの?」

「そーだよ。順番だから、今日は猫ちゃんと遊ぶ事にしたの。小雪こゆきの順番は、次だから」


「え~っと、それはあれかな? 彼女ができてからも遊びにいけるくらいに仲が良いってことだよね?」

「んーん。小雪こゆきもお兄ちゃんの彼女だから、デートいくのは当たり前」


 ん? ん? ん? 聞き間違いかな? 小雪こゆきちゃんもチャラ男の彼女?


 私の耳がおかしくなったのだろうか? 脳が情報の処理を拒んでいる。


小雪こゆきちゃん、その話はあんまり他人には言わない方がいいんじゃ」

「ん? どーして?」


 さゆみんが小雪こゆきちゃんをたしなめ始める。

 そりゃそうだ。もしも二股かけてるんだとしたら、将来の為にも良くない。


「それは、二股かけてるってこと? もしかして小雪こゆきちゃんの方が本命で、初音さんが浮気相手ってこと?」

「違うよ。お兄ちゃん浮気してない」

「え、でも彼女が2人いるんだよね? それって浮気なんじゃ」

「違うよ。小雪こゆきも初音お姉ちゃんも、ちゃんとお兄ちゃんの彼女だよ」


 どうも話が噛み合わない。まさかこの現代日本でリアルにハーレムやってる奴なんているわけないし……。


 いや、中にはいるのかもしれないけど、現実味がない。


涼花すずかちゃん、信じられない?」

「うーん、私はその人はやめておいた方がいいと思うけど……」


 最後まで言いかけて、事情も知らない私が他人の恋愛事情に首を突っ込むべきかどうか迷う。


 普通に考えたら騙されてるとしか思えないし、そんなエロ同人みたいなことをやってる奴がまともな男とは思えない。


「ミルク店長はどう思う?」

「ここで聞いた話だけじゃなんとも言えないわね。実際に会って話してみたらどうかしら」

「いやでもさ、普通に考えて浮気二股だし……」


「世の中には普通では信じられない交際をしている男女はいるものよ。自分の物差しだけで全部を決めない方がいいんじゃないかしら。実際に目で見て判断したら?」


「そ、そうだよね」

涼花すずかちゃん、お兄ちゃんと、会う?」

「うん、会わせてほしい。小雪こゆきちゃんが心配だし、余計なお世話だけど」


小雪こゆき、気にしない。心配してくれて、嬉しい」


 んあぁああ、やっぱりなんつー良い子なんだろう。


 こんな良い子が悪い男に騙されてるなんて絶対阻止しなくちゃ。


 そういうわけで、私は小雪こゆきちゃんの彼氏だというチャラ男に会いに行くことにした。

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