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第78話◇琴葉を探しながら舞佳とデート◇

 飯倉琴葉と接点を持つためのイベント。

 それは舞佳とデート中にナンパされている彼女を助けるというものだ。


 飯倉琴葉は毎日の習い事三昧に嫌気が差してその日は家を飛び出し、町をうろつくことになる。


 そこでナンパ男に目を付けられ、絡まれている所を主人公とデート中の舞佳が助けるというものだ。


 一番手っ取り早いのは涼花に紹介してもらう事だが、俺が彼女の存在知っている理由が説明できないのでこの手は使えない。


 今まで散々使ってきた手口だが、涼花は思った以上に俺に堕ちるのに手間取っているので、まだ洗脳前の理性が残っている。


 体はもうメロメロにできているが、ちょっとリスキーなので使わない事にしたのだ。


 彼女との会話の中で琴葉の事を引き出し、その存在を認知させる事も忘れないように進めないとな。


「さあさあ亮二君。今日はどこに出かけましょうか」

「今日は繁華街でショッピング&食べ歩きツアーを敢行しようと思う」

「うおおっ、最高じゃないですかっ。舞佳、屋台の串カツと唐揚げボックスが食べたいですっ!」


 俺はヒロイン達の性格や好みなどは完璧に把握している。


 だからイベントの内容的にも商店街デートに連れて行くのは舞佳が一番理に適っているのだ。


 これまで何度か試してきたが、未だに会えていない。

 何度も同じ場所を繰り返すのも女の子に不義理なので上手いことデートスポットをばらけさせていた。


 この世界で舞佳がフラグになっていない可能性も考慮して、別の女の子、時には二人同時に連れて歩いたりもした。


 だけど五月中に琴葉と繋がりをもたないと隠しヒロインのイベントに間に合わないので、あまり悠長にもしていられない。


 相変わらず桜木美砂には近づくことができないでいるので、ゲームシステムの支配からは逃れられていないのだ。


 一度知り合う事さえできれば、話をするだけで好感度は上昇していき、パスを繋いでセックスに持ち込むことができる。


 なのでまずはどういう形であれ知り合う事ができないと始まらない。


「うんんめぇええ♡ 商店街の屋台はどれも最高ですねっ」

「次はクレープの店に行ってみるか。でも服を先に見ておかないとお腹パンパンになっちまうぞ」

「うー、でも早くしないといっぱい並んじゃいますし」

「それなら食い気を優先するか」


 やってきた商店街。ここは食べ物の屋台やファッション、電子機器、雑貨、家具、なんでもござれの古き良きショッピングモールのような場所だ。


 歩行者専用のバリケードが設けられ、毎日のように人でごった返している。


 今日は平日の午後だ。この時間帯だと学園生でごった返している。


 ショップの中に入ると琴葉の存在を見逃す可能性がある。

 舞佳は色気より食い気な女の子なので、色々な屋台グルメが立ち並ぶ商店街デートは非常に相性が良い。


 ゲームでは遭遇は日曜日だったのだが、その辺もゲーム通りになる保証はないので定期的に行なう事にしていた。


「亮二君亮二君。さっきから何か探してるんですか? キョロキョロしちゃって」

「ん、ああ、ちょっとな」

「ははーん。また例のアレですね?」

「アレとは?」

「新しい女の子を物色してるんでしょう? ハーレムの拡充には反対しませんけど、今の恋人である舞佳達のことほったらかしは困りますなぁ」


「悪い悪い。誰でも彼でもって訳じゃないんだ。俺にとっちゃ絶対に見逃せない人がいるんだよ」

「なるほど。その人を探している訳ですか」

「デートはちゃんとするからさ、時々キョロキョロするのは許してくれよ」

「ちょっと気になっただけだから舞佳は平気ですよ。あ、お饅頭のお店っ。あそこ並ぶとめちゃくちゃ長いんですよ。ちょうど空いてるから今のうちに買いましょう」


「分かった分かった、引っ張るなってっ。饅頭は逃げないから」

「呑気なこと言ってるとあっという間に混み合っちゃいますっ。早く早く」


 舞佳とのデートも楽しい。目的はあくまで琴葉との遭遇だが、だからといって舞佳をおざなりにしていいことにはならないな。


 ハーレム男の辛い所だぜ。


 舞佳とのデートを楽しみつつ、周りに目を配って琴葉を捜索する。


 そうすると……いたっ! チャラい男達に絡まれる筈と当たりを付け、それっぽい男達がいる方向を見ていたら、見間違える筈のない美少女が行く手を阻まれている。


「舞佳、あれ」

「ほへ?」


 口いっぱいに饅頭を頬張ってハムスターみたいになってる舞佳に萌えそうになるが、今はそれどころではない。


「ぐほっ、んんごごごっ」

「おい大丈夫か。ほらお茶」


 慌てて肩を叩いたので饅頭を喉に詰まらせていた。持っていたお茶を飲ませて背中をさする。


「ふへぇ、死ぬかと思いました」

「大丈夫か舞佳。それよりアレ見ろ。女の子がナンパされて困ってる。ありゃぜってぇヤリモクのロクデナシ展開だぞ」

「んへ? 本当だっ。助けなきゃっ」


「よし、行くぞっ」

「ガッテンでいっ!」


 こういうノリに一も二もなく乗ってきてくれる舞佳はやっぱり可愛いな。


 壁際に追い詰められている琴葉の元へと急ぎ、肩を抱こうと迫っている男達の後ろに追いついた。


「何をやっているのですか、あなた達はっ!」

「「あ??」」


 俺よりも凄まじい速度でダッシュした舞佳が大声でナンパの仲裁に入る。


 俺も遅れて割って入り、男達の首根っこを掴んだ。


「おいこらお兄さん達。怖がる女の子をよってたかってとか、テンプレ過ぎてまったく笑えないぜ?」

「ひっ」

「な、なんだよお前らっ」


 こういう時にデカい体は便利だな。一瞬にして場の空気を支配する事に成功した。


「とりあえずお帰り願おうか」

「てめっ、ふざけんなよコラァっ」

「ちょっとデカいからって調子こいてんじゃねぇぞっ」


「女連れでナンパの仲裁とか正義味方気取ってんじゃねぇぞ」


 あろうことかナンパ君は俺ではなく舞佳の方に襲い掛かる。


「あ、おいっ、ばかよせっ!」


 慌てて止めに入るも、時すでに遅し。


「せいやぁあああああっ!」

「ぐほぉっ!」


 殴りかかる腕を掴んで合気道の技の如く投げ倒し、そのまま受け身もとらせずに激突させる。


 更には地面に倒れた男の土手っ腹をミュールの出っ張った靴底で蹴り潰し、『ドボスッ』という鈍い音を立てた追撃がめり込んだ。


「あ~あ、だから言ったのに」

「す、すごい……」


「心配いりません。動ける程度には手加減しました」

「な、なんなんだよお前ら」


「なんでもいいだろ。とりあえず邪魔だから失せろ。そこのゴミを回収することも忘れるなよ」


「ひぃいいっ、わ、分かりましたぁあっ」


 未だに腹のダメージで呻いている男を引っ張り上げ、スタコラサッサという擬音がピッタリの勢いでナンパ男達は逃げていった。


「あ、あのぉ、危ないところを助けていただき、ありがとうございましたぁ」

「いえいえ~。舞佳達に掛かればお茶の子さいさいですよぅ!」

「怪我はなかったか?」

「は、はい。お陰様で」


 間違いない。三人目のサブヒロイン、飯倉琴葉だ。


 ゲーム画面で見るより、その爆乳は一層たゆんたゆんに見える。


 公式の設定資料集によれば、彼女のバストサイズは111㎝。


 初音よりも更に超爆乳だ。俺はそこに視線を集中させないように意識し、話の続きを振った。


「琴葉お嬢様~~~~っ」

「あ……」


 と思ったのだが、遠くの方から聞こえてくる甲高い女の声に思わず振り向く。


 コスプレではないメイド服姿の女性がこちらに向かって全力疾走してくるではないか。


 間違いなく飯倉家のメイドさんだった。モブではあるがちゃんとキャラ立ち絵も用意されている登場人物だ。


 ゲームのヒロインにはいない金髪のロングヘアに碧眼。


 長い前髪で片目が隠れており、ロングヘアの一部が三つ編みで飾られている。これだけでもヒロイン力が強い。


 女性にしては高い背丈は170くらいはありそうか。

 立ち絵ではかなり分かりにくかったが、スカートの端っこにスリットが入っており、走ると生足がチラチラと覗いてガーターベルトであることが分かる。


 名前はなかったけど、彼女もまたデザインの凝っている美人キャラである。

 ネット掲示板で彼女にかなり熱を入れているスレが立つくらいには密かに人気のある美人さんだ。


 確か普段はクールビューティなキャラ付けだった筈だが、よほど慌てているのか声が大きい。


「ん? あんたの家の人か?」


「は、はい」

「お嬢様、随分探しましたっ。さあ、旦那さまが心配しておいでです。帰りましょう。お車を待たせております」



「まってください。こちらのお二人に危ない所を助けていただきました。お礼も言わずに帰るわけにはいきません」

「それは我々にお任せを。さ、帰りますよっ」


「あっ、引っ張らないでッ。すみません、お礼はいずれ必ずっ」


 そういってメイドさんに引っ張られ、琴葉は連れて行かれてしまった。


 後に残された俺達はその場に呆然と立ち尽くし、しばらくして我に返る。


 連絡先を聞ければ御の字だったのだが、まあいい。これで涼花から繋げてもらう口実が作れる。


「あはは。嵐のような人達でしたね」

「ははは。そうだな。縁があればまた会えるだろ。それよりデートの続きをしようぜ」

「ほえ? 女の子捜しはもういいんですか?」

「ああ。それはもう終わった」


「あ、じゃあ彼女がそうだったんですね」

「そうだな。目的は果たしたから、後の時間は全部舞佳に使うよ」

「えへへ~。じゃあ舞佳のこと、いっぱい愛してほしいです。ナンパさん達をやっつけたご褒美ってことで」

「もちろんいいぞ」


 そうしてデートの続きを行なおうと、二人で手を繋いで歩き出そうとした。


「待ってくださーい」


 そうかと思ってたら、先ほどのメイドさんが走って戻ってくるではないか。


「あ、さっきのメイドさんですよ」


「よかった。まだおいでだったんですね。先ほどはお嬢様の危ない所を救っていただき感謝いたします。わたくし、飯倉家のメイドをしております。春風桃華と申します」


 春風桃華。なんてヒロイン力の強い名前だろうか。確か年齢はそんなに変わらない筈だ。


「どうも、霧島亮二といいます」

「宮坂舞佳ですっ」


「霧島様に、宮坂様ですね。お嬢様が是非お礼をしたいと申しております。よろしければ我が家でお持て成しをさせていただけないかと。ただ本日はお嬢様の予定がいっぱいでして、日を改めてお屋敷にご招待させていただけないかと」


「分かりました。せっかくのご厚意ですのでありがたく」

「助かります。それではこちら、わたくしの連絡先となっております」


 メイドの春風桃華さんと連絡先を交換し、見事に飯倉琴葉との繋ぎを得る事ができた。


 これは予想外のラッキー展開だ。ゲームにはなかった筈だが、良い感じに彼女との距離を近づける事ができそうだぞ。

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