目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第81話◇親友との再会◇

 飯倉家への招待の日。俺は舞佳と涼花を伴って迎えの車を待っていた。


 あらかじめメイドの春風桃華さんには事前相談を持ちかけ、涼花をサプライズで連れていく手筈になっている。


 彼女はそのことを大いに喜んでくれており、積極的に協力してくれた。


「大っきいお屋敷なんでしょーねー。舞佳楽しみです」

「涼花は飯倉さんの家には行ったことあるの?」

「実はないのよ……。彼女、習い事で忙しかったから、中学時代はほとんど休み時間と、たまの休みにお出かけするくらい」


 なるほど。親友といえども……いや親友だからこそ難易度が高いと感じてしまうんだろうな。


 しかし、涼花を連れていくことで確実に琴葉の心は掴みやすくなる。


 パスさえ繋いでしまえばあとはなんとでもなる。


「そんな緊張することないさ。友達っていうのはそういうもんだろ……といっても、涼花には難易度が高いんだよな。すまん」

「ううん。ありがとう……。なんだかんだ、嬉しいよ……琴葉とは、もう会えないって思ってたから」


 コミュ障っていうのは本当に難儀なものだ。

 であるからこそ、俺がなんとかしてやればいい。



「お、来たぞ」


 そうして待つこと十分ほど。やがてやってきた春風桃華のお迎えの車に乗り込み、飯倉邸へと向かうことになる。


 中から出てきたのはやはり春風桃華で、うやうやしく綺麗なお辞儀で挨拶をする。


「大変お待たせ致しました。これより飯倉邸へご案内いたします。どうぞお乗りください」


「失礼します」


 ◇◇◇


「春風さん、ご協力感謝します」

「とんでもございません。琴葉お嬢様もとても会いたがっておられましたので」


 春風桃華はハンドルを握りながら表情を崩さずに少しだけ微笑んだ。


「お久しぶりです小日向様。またお目にかかれて嬉しく思います」

「は、はい。お久しぶりです。春風さん」


「琴葉お嬢様はずっとあなたに会いたがっておられました。ご両親の手前、口には出しませんでしたが、今でも修学旅行のツーショット写真は大切にしておられますよ」


「そ、そうですか……。そうなんだ……。よかった」


「ほら、俺の言ったとおりだったろ?」

「う、うん。よかったよ」


 涼花の好感度がググッと上昇したのが分かる。

 パスの強化。感情の動きがさっきまでより非常に鮮明に見えるようになってきた。


 どうやら好感度が上がった事でスキルの効果が強く出るようになってくれたみたいだ。


 これで涼花はますます俺にのめり込んでくれるだろう。

 次のプレイが楽しみだぜ。


◇◇◇


「え、えっ⁉ も、もしかして涼花ちゃんッ⁉」

「ひ、久しぶり、琴葉ちゃん」


 若干の安心感は得たものの、やはり本人を目の前にすればその緊張は再び背筋を昇ってくるものだ。


 全身が強張るような思いを押し殺し、涼花は一年ぶりに会う親友と顔を合わせていた。


 さあ、この先でどうしたら……多分そんな事を考えて次の言葉を紡ごうと顔を強張らせている涼花だが、先に行動を起こしたのは琴葉だった。


「涼花ちゃんッ!」

「はわっ⁉ こ、琴葉ちゃんっ」


 飛び込むようにかけだした琴葉が涼花に抱きついて歓喜の声を上げた。


「うわぁあ、涼花ちゃん会いたかったよぉ」


 琴葉の喜び方はゲーム内のキャラを崩壊させるほどのテンションであった。


 さくさく内における琴葉の立ち位置は【天然系あらあらウフフお姉さん】である。


 ナンパされている時でさえ、『あらあら、困りましたねぇ』なんて言ってたくらいだ。


 その内情というか、心理描写は特になかったものの、ゲーム内で親友の涼花にこれほど感情を解放している姿は見られない。


「はっ……す、すみません。つい夢中になって。本日はお礼にお二人をお招きにしたにも関わらず」

「いえいえ。舞佳は気にしないですよー」

「俺も大丈夫だ。それに、涼花と君が友達だと聞いて連れてくる事にしたんだからな。ちょっとしたサプライズにしようと思って」


(お……これは)


 そこで琴葉のパスが繋がったのを自覚した。

 やはり涼花の存在は琴葉攻略に欠かせないという俺の勘は正しかった。


『ここで素晴らしきラッキーちゃーんす☆のお時間でーーーすっ!』


「⁉」


 そして響き渡る妖精さんの声。

 俺は勝利を確信した。


 降って湧いた妖精さんのラッキーちゃーんす☆。


 さて、今回はどんなシチュエーションがやってくるのか。

 いや待て、ラッキーちゃーんす☆は自分でチャンスを開拓していかないといけないタイプだ。


 初音の時は貧血で倒れていた所を助けた。その後は常識改変でおっぱいを堪能したんだったな。


 今回は時間もたっぷりあるし、あの時の俺より大分パワーアップしている。


 シチュエーション次第では最後までイケてしまうはず。


「改めまして、危ない所をお助けいただき、感謝いたしますぅ。あのままだとちょーっとマズい事になってたと思いますのでぇ」


 間延びする喋り方は彼女の特徴でもある。

 これまでは余裕がなかったのもあってそれがあまり顕著ではなかったが、今になって彼女のキャラ性が強く出てきた感じだ。


「怪我ななくて何よりだったよ。正直、俺達は当然のことをしただけだ。そんなことより涼花と旧交を温める方が良いんじゃないか?」


「ありがとうございます。でも、飯倉家の人間として、助けていただいた方に何もお返ししないのは矜持に反します」


 よし、ここからラッキーちゃーんす☆を活かさない手はないぜ。


 【常識改変】を使ってエロエロで濃厚な密着ができるお持て成しを……。と考えたのだが……。


 先に動いたのは琴葉だった。


「飯倉家の秘伝、お持て成しローション風呂にご案内いたしますぅ♡」

「ろ、ローション風呂?」


 ぜってぇ普通ではない奴が出てきた。

 エロい予感しかしないぜ。さすが妖精さん。ッパネェっす。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?