記憶の中で、誰かが歌っていた。
私は、誰? あなたは、誰?
私の中で歌い続けるあなたは、誰なの?
それは遠い昔に聞いた桜の歌。
私は桜木
そして、誰かを求めている。記憶の中の誰かを探している。
それが誰なのか、まだ分からない。分からないけど、近くにいるのは分かる。
だから私は、まだ見ぬあなたを求めている。
桜の木が答えてくれるその日まで、丘の上から問い続ける……。
◇◇◇
桜木
この『花咲く季節と桜色の乙女』という作品は、桜色の髪をしたヒロインであったり、何かしら桜に関連する項目が随所に散りばめられている。
とは言っても、それはエッセンスという程度である。
実はエンディング以外に桜関連の要素はほとんど垣間見えない。
さくさくというゲームは、不可思議な要素は存在しない現代劇の恋愛シミュレーションだ。
俺の妖精さんのようにハチャメチャなことをするキャラは存在しないし、人外の力を持ったヒロインもサブキャラもいない。
もちろん主人公だって特別な力を持たない普通の青年だ。
だが、そこに一人だけ例外が存在する。
それが隠しヒロイン、桜木
いよいよ最後のヒロイン、隠し要素である桜木
琴葉までに連なるサブヒロインを手に入れておかないといけなかったのは、もしも
だがもうその心配もない。三人は完全に俺の虜にすることができている。
さて、問題となるのは
このために琴葉との縁を繋いできたのだ。
彼女がいなければ
琴葉が
このイレギュラーの世界で彼女と上手く接触する為には、必ずしも琴葉は必要ではない。
だけどゲームシステムに支配されている以上、それを邪魔する要素は排除しておかないといけなかった。
考え得る限りの対策は施した。
後は実際に
◇◇◇
さて、問題は実際に
実はあれから定期的に彼女に接触しようと試みているのだが、学園内以外では居場所が不明だし、その学園内ではゲームシステムの強制力が働いて近づくことができていない。
まさかマンションに突入する訳にもいかないしな。場所分からんし。
これをなんとか掻い潜って接触することができないか模索していたんだが、やはり難しいようだ。
そのためにはまず主人公の現状を理解する必要があるだろう。
俺は久しぶりに、といっても1ヶ月程度ぶりだが、清楚ビッチこと山本恵美に連絡を取ることにした。
「おひさー。といっても1ヶ月ぶりくらいね亮二。今日はどんなご用件かしら? 一応今は彼氏持ちだから、男と二人きりっていうのはマズいのよねぇ。彼が嫉妬しちゃうから」
「良い感じに調教できてるみたいで安心したよ」
「分かんないわねぇ。あんたなら彼程度の男に邪魔されたくらいで女をとられるかどうかなんて気にしないと思ってたのに」
「こっちにも色々と事情があるんだよ。ところで、お前ちゃんとアイツを飼い慣らしてるのか? 学園じゃ転校生の美少女に粉をかけてるぞ」
「ふーん。つまりアンタはその美少女が欲しいけど、彼が邪魔だからしっかり鎖を引っ張っておけと?」
「察しが早くて助かるよ。俺は事情があってアイツに直接ちょっかいをかける事はできないんだ」
いっその事学園にも来たくなくなるくらいドロドロにしてくれると助かるんだがな。
「あなたやっぱり霧島亮二じゃないわね。まあ別に興味ないんだけど、亮二じゃないなら言いなりになる理由もないし」
「そうかい。じゃあ自分でなんとかするわ」
「あら。頼み込まないの?」
「俺の中の霧島亮二の記憶がお前に弱みを見せたらダメだって言ってるんでね」
「あはは。じゃあやっぱり亮二じゃない事は認めるのね」
「隠す意味もなくなってきたしな。お前がアイツを押さえられないんじゃ、俺もお前に用はないし」
「ふふ……そう。あなたって亮二より面白いわね。どうかしら? 私と一晩」
「やめておくよ。俺は浮気は嫌いなんだ。お前と寝たらあの男に刺されかねないからな」
「ふふ。それがね、彼、最近ちょっと新しい扉を開きつつあるのよね」
「はあ? まさかお前が他の男とヤッてる所に興奮し出したとかじゃないだろうな?」
「ご名答。まだ実行はしてないけど、素質あるわよあの子」
「そういうのに巻き込まないでくれ」
マジかよアイツ。本当に寝取られ性癖に覚醒しちゃったのか。
勘弁してくれ。これじゃ普通の幸せを掴むのは無理になっちゃうじゃないか。
「じゃあな。多分もう連絡をすることはない。世話になったことは礼を言うよ」
「ねえ亮二みたいな人」
「なんだよ」
「1回でいいからさ、抱いてくんない?」
「え、やだ」
「うっわ。本当に露骨に嫌そう。私みたいなのは好みじゃないって?」
「霧島の記憶でお前の本性を知らなかったら騙されてたかもな。ドSサイコパスな調教好きなんて勘弁してくれ」
「あら、調教するのは素質のある子だけよ。あなた素質ないもの」
「どういう視点で判断してるんだ」
「女の勘よ」
恵美との無意味な問答は続いていく。
彼女はどういうわけか俺に食いついてきた。無視して立ち去る事もできるが、後腐れを残すと厄介な人種だけにキッチリと話を付けておく必要がある。
『ここでエクストラステージ発生デースッ!』
げっ⁉ 嘘だろおいっ。
俺はどうにかして恵美と縁を切ろうと話を続けていたのだが、ここでとんでもない、予想外中の予想外のトラブルが発生した。
『裏ボス攻略特別ミッション。清楚ビッチだけど本当はドM願望マシマシな恵美ちゃんを〇〇〇奴隷に仕立て上げろッ』
まさかの清楚ビッチ攻略を言い渡されるとは思わなかった。ヒロインでもないし、関係者ですらないのに……。
しかもドM願望だって? イメージとギャップがありすぎて困る。
「分かった分かった。じゃあ一晩だけな」
嫌だなぁ。だが考えようによっては丁度良いかもしれない。
こいつを飼い慣らしておけば主人公を確実に押さえておけるだろう。
「ホントに? それじゃあ早速お願いしようかしら」
思いがけず始まった清楚ビッチ攻略であるが、気が進まない俺は憂鬱な気分にしかならなかった。
「さーて、それじゃ早速」
「まあ待てよ。慌てるな。いきなりベッドの上じゃムードってもんがないだろ」
「あら。何々ちょっと。私相手にデートしてくれるの?」
なんと清楚ビッチとパスが繋がった。
あまりにも予想外過ぎる展開に辟易しつつ、なんとかしてエクストラステージの攻略を完了させようと頭をフル回転させるのだった。