「
「はい先輩。行ってきます」
俺が近づくと警戒されてしまう。ここでゲームシステムが働くかどうか。
5月の終わり頃、ヒロインの誰かとここにデートに来ると、桜木
そこでヒロインから誘ってお弁当を一緒に食べるというイベントが起こる。
これで
「こんにちは」
桜の木に佇む一人の少女。青い髪をなびかせて振り返ったのは、間違いなく最後の攻略ヒロインである桜木蘭華こと桜木
「佐藤、さん」
静かな声で答える
何者にも興味がないかのように……いや、彼女はそう言った感情の全てを『ある事情』から失っているのだ。
「なにか……用?」
遠くの方から聞こえてくる小さな声。妖精さんパワーで強力になった聴覚によって、その小さなつぶやきもしっかりと聞き取ることができた。
やがて
「こんにちわ」
「あなたは……誰?」
「俺は霧島亮二。君と同じ学園の三年生だ」
「そう……」
どうやら俺に興味は無いらしい。素っ気ない返事と共に
「良かったら、一緒にお弁当を食べないか」
「いいですね。まだ沢山残ってますから、一緒に食べましょうよ桜木さん」
「佐藤、さん……? いい、の?」
辿々しい言葉だが、否定はしなかった。感情の動きが見えないから何を考えているのかは分からない。
「私、感情が……ない。だから、友達、いない……。話しかけてくれるの、佐藤さん、宮坂さん……。それと、好摩君、だけ」
「え、ラクトが?」
「そう…でも、少し、悩んでる」
一体どういうことなのか。ちょっとずつ話し始める
「好摩君……、最近、ちょっと誘われること、多い」
具体的には、お出かけに誘われることが多いらしい。
だが全く無関心というわけではなく、彼女は失われた感情を探しているのだ。
俺は
もちろん、今までヒロイン達と過ごして理解してきたように、ゲームの中だけでは読み切れない複雑な感情を抱いている。
だが
「好摩君、少し強引で、しつこい。正直、困ってる……」
どうやら主人公はこのところずっと、暇を見つけては
休み時間もずっと彼女にかかりきりで他人を近づけさせないようにしていたらしい。
実はそれらはゲームの筋書き通りだ。
良くも悪くも遠慮の無い主人公に引っ張られてあちこちへ連れ回されていくうちに、徐々に心を開いていくようになる。
そしてこの桜の丘のイベント後に本格的にデートに誘えるようになり、攻略が開始される。
「なるほど。それはちょっと迷惑だよね」
話は
俺が
「それなら、私達と遊びに行って予定を埋めちゃわない?」
「佐藤さん、と?」
「そう。私の友達や、ここにいる霧島先輩達でいっぱい遊ぶの。好摩君一人だと色々と窮屈でしょ?」
「好摩君、よくしてくれる……。それは嬉しい……」
「でもあいつ、ちょっとしつこくない? 基本的に自分の話しかしないし」
「そう…でも、私は自分の話が特にないから、気にならないし、彼の話は、聞いてて楽しい」
「それなら、
「そう、なのかな……」
「私、あいつの幼馴染みなんだけどさ。友達少ないから喜ぶと思う」
上手いな
そうして
「っていうか、これから行こうよ。友達も呼ぶから。もちろんいきなり大人数が緊張するなら、私とお出かけしよ♪」
「佐藤さん…いいの?」
「うん。それと、
さすが優等生の
今の
そうして、
それにしても主人公を出し抜くのは本当に骨が折れるな。
だがまずは一手先を行くことができた。俺のハーレムの輪の中に、ズブズブと付け込んでやろう。
関係を築ければこっちのものだ。あとはシステムを出し抜いて
やってやるぜ。