美砂との睦み合いが終わり、攻略ヒロイン完全コンプリート……と言いたいところだが、そのためにはもう一手ファクターが足りない。
言わずもがな、それは桜木蘭華としての記憶を取り戻していないからである。
今日からデートを重ねて彼女の記憶を取り戻して、ようやくコンプリートだ。
おい妖精さんや。どうせならもっと派手にやろうじゃないか。
ハーレムも拡大してきて力が増してるんだろ?
ドスケベシチュエーションも大規模にできるだろ。
『おっまかせくださーいっ! せっかくのコンプリートまでリーチ掛かってますからねぇ。ド派手にいきましょうっ!【アイドルの記憶を取り戻せッ! 真っ裸でゲームの記憶を辿りましょう大作戦!】』
これまた訳の分からんシチュエーションが始まった。
真っ裸は分かるが記憶を取り戻すってどういうことやねん。
いや待てよ。そうだ、美砂は蘭華の記憶を取り戻す為にデートの中で様々なきっかけがある。
それを辿りながらエロい事しろって意味だな。
美砂は記憶を取り戻せて嬉しい。
俺はエロいヒロインが見られて嬉しい。
まさしくウィンウィンだ。
「好摩君との約束、どうしよう……」
「うーむ。無視してやればいいと思うが、まあ普通にお断りのメール入れればいいんじゃないか」
「そう……。少し、申し訳、ない」
「しかし美砂、恐らく好摩は君とセックスしたがってるぞ」
「美砂と?」
「そう。ネオンが綺麗なお城みたいなところはラブホテルって言ってな。恋人同士がセックスをするための場所だ。彼はそんなところに恋人じゃない美砂を連れて行こうとしていた。どう思う?」
「それは、嫌」
「今日は都合が悪くなったからとでもいえばいいだろ。しつこかったら俺から言ってやる」
「うん。じゃあ断る」
淡々とお断りメールを入れる美砂。すると速攻で電話が掛かってきた。
無視していいぞと言おうとしたが、一瞬早く美砂が電話に出てしまった。
「……いけなくなった。……無理。……無理。……無理」
なんだか機械のように返事を繰り返す美砂。かなり粘れているようだ。
「今日は、都合悪い……次はいつか分からない。無理。……無理」
またループが始まった。どういう会話をしているか分からないが、しつこい男は嫌われるってことを全く学んでいないらしいな主人公め。
「うん、ごめん……さよなら」
10分ほどの問答が続いた後、ようやく電話を切った彼女の顔は無表情ながら少し疲労しているように見える。
「疲れた……あの人、疲れる」
「まあ今後は近づかない方がいいな。学園内でも一人にならない方がいい。二人きりになるとナニをされるか分からないからな」
「ん、分かった」
「よし、それじゃあみんなで出かけよう」
「準備できたよーっ」
彩葉の声かけで出かけることにした俺達。その格好を見て、俺は妖精さんの本気度を思い知ることになる。
(相変わらずクレイジーな空間作るもんだ。最高です)
◇◇◇
『桜色の恋をして~♪ あなたの瞳に――――――』
「はわわ……こんな格好で歩くってやっぱり緊張するね。いくら
「でも亮二様の興奮が伝わってきますわぁ。桜木蘭華ちゃんの歌を聴きながら恥ずかしい格好で町を練り歩くのも趣があるプレイですわぁ」
「ふぇ~、女の子の視線がツキツキと突き刺さりますねぇ~」
彩葉、琴葉、舞佳の三人が俺達の前をマイクロビキニにミュールを履いただけの姿で歩いている。
俺の両隣は優奈と美砂。同じくマイクロビキニにミュール姿。
しかも布地の面積は極めて小さく、乳首の輪郭や割れ目のハミ肉が見えてしまっている。
前を歩く三人のお尻がぷりんぷりんと揺れて、TフロントTバックの水着が非常に扇情的だ。
両脇には優奈と美砂のおっぱいが腕に絡みついてぽにゅんぽにゅんとパラダイスな感触を当てている。
これはたまらん。
ラッキーちゃ~んす☆のタイトルは真っ裸だったが、単なる裸よりもエロいものがある。
それが俺のチョイスしたマイクロビキニ姿だ。これで妖精さんも満足してくれるだろう。
繁華街の大型ビジョンで流れているのは、国民的アイドルの桜木蘭華のミュージック動画。
まず一つ目のイベントは、美砂とのデート時に蘭華の歌が流れる大型ビジョンを見て、記憶の断片が浮かんでくるというもの。
ちなみに俺は服を着ている。どうやら俺まで真っ裸になる必要はなかったらしい。
「よし美砂、そろそろ始めるぞ」
「うん……気持ち良い、美砂に教えて。もっと、気持ち良い、知りたい」
美砂の一人称が自分の名前に変わっている。これはゲーム本編において主人公への好感度が最高ランクに上がった時に見られる現象だ。
「美砂、この歌、知ってる……」
「あれなに?」
「わわ、なんか上手~」
マイクロビキニの美少女が大型ビジョンの下で踊り始める光景を、道行く人々が眺めていた。
それは映し出された美少女アイドルと全く同じ動きをする無表情の美少女に、その完璧にトレースされた動きに注目が集まった。
アクアブルーの髪が太陽の光を反射して踊る美砂と一緒に舞っている。
マイクロビキニにミュールという目立つ格好だからか、その見事な踊りにドンドン人が集まってきた。
見やると妖精さん空間だからだろう。ギャラリーはご多分に漏れず女性ばかりだった。
男は一人もいない。さっきから町行く人達を観察しても、男という生き物がこの世から消えてしまったかのように、一人も見かけなくなった。
動画を撮ろうとスマホを構えるのは女性ばかり。しかも美意識の高い良い女ばかりとなっていた。
妖精さんって結構女好きで美意識が高いんだろうか。
まあ俺も見栄えのいい女に見られた方が気分がいいし、男に見られて喜ぶ趣味はない。
「はっ、ふっ……この、踊り、美砂、知ってる、みんなの、視線、心地良い、の」
蘭華の記憶を体が覚えているんだ。踊る体は汗を弾き、飛沫となってキラキラと光る。
「たの、しいっ! これ楽しいッ! 私、知ってる、この感覚、知ってるぅ♪」
段々と美砂の声が弾んでくる。楽しい、嬉しいという感情がドンドン表に出て、笑顔が眩しい。
凄いな。本当はこの大型ビジョンの下で起こるイベントは、蘭華の映像を見た美砂が魅入られて動かなくなるというものだった。
だが今の美砂はどうだろう。かつての自分の姿を見ながら踊り楽しんでいる。
「美砂ちゃん凄い。蘭華ちゃんの踊り完璧に覚えてる」
「そういえば、優奈も踊るの好きじゃなかったか?」
「え、そ、そうですけど」
設定資料の片隅に蘭華の大ファンというものがある。踊りをトレースして動画に撮るのが趣味って書いてあった。
「命令だ。お前も美砂と一緒に踊れ」
「はうっ⁉ わ、私もですか?」
「嫌か? 嫌なら別にいいけどよ」
「嫌じゃないですっ! 良いんですか? 私も一緒に踊っても」
「いいぞ。動画を撮ってやるから美砂と一緒に踊れ。上手くできたらご褒美をくれてやる」
「はい♪ 頑張りますッ!」
これが、後の大イベントの布石となるのだが、この時の俺はまだ知る由もなかった。