幸いにして美砂とのデートイベントは本編のヒロインよりも選択肢が少ない。
小雪とパフェを食べた中央公園。
遊園地、ショッピング街、繁華街の大型ビジョンの四択だ。
だがたった四択でも、選択肢を選べば到着するゲームと違い、移動にも時間が掛かるしめちゃくちゃ広い。
ゲーム知識があろうと、フィジカルは人間のそれである俺にとってたった四箇所でも移動は大変だ。
その全てに美砂の記憶の断片が眠っている。
だがそこは飯倉家の力を借りての楽々移動手段がものをいう。
飯倉家が所有しているリムジンがすぐ近くに待機してくれているので、繁華街を後にした。
次なる場所は遊園地だ。
海沿いの埋め立て地に建設されているこのアミューズメントパークは、開放的な気分になった美砂が新しい歌のフレーズを思いつくというイベントが隠れている。
マイクロビキニからバニーガールスーツに着替えた女の子達を伴って、VIP入り口から人の列を無視して入場していく俺達。
妖精さんが飽きないように単なる真っ裸ではなく、マイクロビキニ一辺倒でもなく、バリエーションを設けるために琴葉に命じて準備させたものだ。
さすがは俺の行動や思考を先読みする能力が初音に迫る琴葉は、その財力を余すことなく活かして俺の注文通りのバニースーツを準備してくれた。
「ねえねえ亮君、このバニーさんどうしておっぱいが丸出しなの?」
「その方がエロいからだ」
「ひぃんっ、やっぱりそれだけなんだぁ」
ウルトラシンプルな理由で涙目の彩葉。彼女はノリの良い性格に見えても、ハーレムの女の子の中ではかなりの常識人の部類に入る。
舞佳は既に恥ずかしがりながらもノリノリで着替えており、「ぴょんぴょんウサギちゃんですよー♪」なんてはしゃいでいる。
「小雪も、ぴょんぴょん頑張る。ルルカちゃんとお揃い、嬉しい」
「くぅううっ、こんなエッチな格好で遊園地出歩かないといけないなんてぇえっ。当たり前とはいえ、恥ずかしいよぉおっ」
途中から合流した小雪と涼花がリムジンの中でエロ衣装に着替えて待機していた。
小雪は雪色のように真っ白なワンコ
涼花はポフポフ尻尾の白ウサギ。
そしてそれは美砂にとって良い意味でインスピレーションを与えることができる。
ここでの目的は美砂の蘭華としての感性を取り戻させること。
「よーし、じゃあまずは小雪と涼花で一緒に行こうか、美砂」
「うん。よろしく、こゆき、すずか」
「よろしく、みーたん」
「みー、たん?」
「そう。美砂だから、みーたん」
「それ、好き。みーたん、好き」
「な、なんか美砂ちゃんと小雪ちゃんって喋り方がそっくりね」
確かに二人ともダウナー系の無表情キャラって共通点がある。
案外二人は気が合うのかもしれないな。内側に秘めた情熱って意味でも同じだし。
だが美砂の場合は感情が失われているからこの喋り方なだけであり、本来の性格ではない。
それでも体を重ねた仲だし、この喋り方や無機質でありながら淫らに染まり上がっていく美砂のダウナー系の性格も個性に昇華しつつある。
蘭華としての記憶は取り戻してほしいが、このまま美砂の個性が失われてしまうのは、それはそれで惜しい気がするぞ。
「よーし、それじゃあ遊びに出かけるぞ」
「はーい」
「そ、外でエッチなことしないでよね」
「それは約束できないなぁ。涼花がエッチなのが悪い」
「う、うるさいっ、このケダモノッ」
それでも喜んでいるのを俺は知っている。涼花は完全な逆張りキャラで定着したな。
「さあいくぞっ。二人にはVTuberとしてキャラクターショーに出演してもらうぞ」
「うう、恥ずかしいよぉ……リアルの姿で出演するなんて聞いてない」
「心配するな。ちゃんとモデルキャプチャーは準備してあるからな」
二人はあくまでVTuberなのでリアルの姿は晒さない。
『はいはーいっ、それは妖精さんにお任せくださいねー。二人の姿をVTuberで固定しまーす』
「おおうっ、さすが……」
「はわわ、なんか体が変」
「な、なによこれっ」
二人の姿が人間からケモミミ美少女へと変貌していく。
実際にはイラストの姿を3Dモデルにしたものだから、二人の姿はハイレベルなコスプレイヤーといった感じだ。
だが耳と尻尾は本物であり、いつも通り小雪の感情が尻尾に現われ、涼花の気持ちが耳の動きにピコピコと現われている。
◇◇◇
「みんな~♡ こんにちるる~♪ 今日も元気にゲームゲームッ。雪と桜の異世界からやってきたメイド見習い、雪峰ゆきみねちるるだよー。そしてーっ」
「はいはーいっ。
サプライズで現われた2人のVTuberが子ども達の歓声を浴びている。
妖精さんの力で現実とそうでない部分の矛盾は誰も認識できないようになっている。
2人の視聴者は大人の男が主であるが、実は子ども達にもかなり人気が高いのだ。
子ども達の前でエッチな衣装という背徳的なシチュエーションだが、流石はプロの演者である2人は性的な興奮を裏に隠しながら声援に応えている。
「あ、凄く、いいフレーズ……。……あれ? 美砂、なんで歌の歌詞なんて思いついたんだろ……?」
それを見学していた美砂は踵をトントンとリズムを取り始める。
よし成功だ。これは美砂が蘭華の記憶を取り戻すイベントの一端だ。
順調に記憶を取り戻している。あと少しだ。