2人のVTuberが子ども達の前で歓声を受けている頃、美砂は新しい音楽をフレーズを思いついた自分に戸惑っていた。
『さあさあこっからが勝負どころですよー。美砂ちゃんの記憶に亮二さんの熱量を叩き込んでやってくださいなっ』
いつになくよく喋るな、今日の妖精さんは。だがこいつが何かそうしてほしい理由があるのを察した俺は、そのまま美砂を抱くことにした。
クレープ屋さんの脇にあるベンチに座り、バニーガール姿の美砂に跨がらせる。
「美砂、心に浮かんだフレーズを心のままに口ずさんでみろ」
「ん、……わか、った……」
「それを全部口に出しておけ。美砂の声を聞きたい」
「ら、ら~ららら~♪ あぁ、はぁうんっ♡ らぁ、ら~」
メロディを口ずさみながら体を擦り付ける美砂。
耳元で息を吹きかけてあげると体がビクンと跳ねてメロディが明るくなる。
「――――♪♡♡♪♡♡♪」
まるで新しいメロディに振り付けをしているかのようだ。
「これぇ、いい、とっても、好きぃ……ぁ、また、メロディ、浮かんできた」
「いいぞ、歌え。琴葉、ちゃんと録音録画してあるな?」
「もちろんですわ。すぐに音楽に精通した部下に送ってメロディラインを楽器に落とし込むように命を下しておきます」
さすが琴葉。俺の意思をくみ取って痴態を録画してある。
ハイな気分になっている美砂は乱れ狂って俺と密着しながら踊っている。
上下運動でプルプルとおっぱいを揺らしながら更にメロディを口ずさんでいる。
え? お前はナニをしながら歌わせているのか、だと?
もちろんラブラブカップルのようにじゃれ合っているだけだ。
間違ってもエッチなことではない。
やっているのはハグだけだ。体と体を密着させて動物の求愛行動のように擦り合わせているにすぎない。
「りょーじ、繋がると、気持ち良い。メロディ、浮かんでくる……どんどん、浮かんで、くる」
主人公とのイベントでは一緒に歩いている途中でメロディを口ずさむ。
俺がそのイベントを再現するとイチャイチャの最中になったわけだ。
そうしてヒロイン達の協力を得ながらイベントを巡回すること丸1日。
その日の夜、いよいよ最後のイベントに臨む時がやってきた。
◇◇◇
「はむはむはむ…。ちょっと疲れた」
琴葉のリムジンに戻って休憩をする俺達。
妖精さん空間はひとまず休止。普通の服に着替えて売店でアイスクレープを購入してペロペロもぐもぐしている姿は小動物のようである。
先ほどまで衆人環視の中、ベンチで抱っこちゃんスタイルイチャイチャを繰り返していた俺達。
美砂は頭に浮かび上がってきたフレーズを俺の上で腰を振りながら口ずさんでいた。
どうやら俺とパスが繋がっていることで、体を重ねることによって一層メロディが鮮明に浮かんできたという。
それらのメロディは琴葉によって録音されており、ただちに音楽として音起こしされている。
後のイベントで大いに役立つことになる大事なメロディだ。
本来の形だと主人公がスマホで録音したものを、琴葉を通じてプロの音楽家に音起こししてもらう流れとなる。
ゲームの流れに準拠した行動をちゃんと混ぜ込んでおかないと、後で齟齬が生じたときに修正が効きやすいという推測のもとに行動している。
「今日はそろそろおしまいかな。美砂、最後に見せたいものがあるんだ。もう少しだけ付き合ってくれるか?」
「うん。リョージが連れて行ってくれるところ、美砂、全部見たい」
この短期間に随分信用してもらったようだ。
それでは最後のイベントに際し、美砂の記憶を取り戻す重要なスポットへ連れて行くとしよう。