美砂を自宅マンションまで連れ帰り、目を覚ますまで一緒にいることにした。
琴葉の部下に任せて帰宅することもできたのだが、気になることもあるし、なによりまだ妖精さん空間が解除されていないのだ。
いつもならアイツが満足すると必ず空間の解除を宣言していくはず。
今回はまだそれがないのである。途中で放棄すると何が起こるか分からないため放り出すことはできないのだ。
美砂のそばにいることは正解になっているはずだ。今回の攻略対象は明確に美砂に定められているため、他のヒロイン達が絡むとは考えにくい。
仮に絡むとしても、既に十分その役割は果たしてくれた筈である。
「ん……ぁ……」
「お、目が覚めたか美砂」
「りょーじ。ん……」
目が覚めたばかりの美砂は身を起こし、何かを求めるように両手を差し出す。
当然彼女が何をして欲しいかは理解している。
「おいで美砂」
「んぁ……リョージ、あったかい。これ、好き。好き、りょーじ」
「どうした?」
「美砂、頭のなか、変。何か、知らない記憶、ある……ううん、何か、思い出しそうな、気がする」
「ゆっくりでいい。感覚に逆らわずに呼吸するんだ」
「そう……リョージ、お願い、ある」
「いいぞ、言ってみろ」
「もう一回、ほしい。気持ち良いの、ほしい」
「いいぞ。足を開け。まずは準備してやる」
艶のある微笑みを浮かべる美砂の足に手を掛ける。
その微笑みは普通じゃ決して見られない特別な表情だ。
「はぁ、はぁ……、これ、すごい……リョージに見られてるだけで、体が、熱い……もっと、ほしく、なる」
紡ぐ言葉が徐々にはっきりとしてくる。
そうして自ら秘裂を指で開いて誘ってくるではないか。
いいぞいいぞ。俺は再び美砂に快楽をたっぷりと仕込んでやった。
詳細に語ってしまいたいところだが、この後起こった重要な事件のことを先に取り上げておこう。
まず言っておきたい……
あの野郎は本当に邪魔しかしてこない。
◇◇◇
翌日。結局妖精さんのラッキーちゃ~んす☆空間の解除宣言がないまま朝を迎え、引き続きイベントの消化を行なうことにした。
と思っていたのに、朝になったら……。
「美砂ッ、どこにいったっ⁉ 美砂ッ」
いなくなっていた。朝起きたら美砂が消えていたのだ。
部屋中を探し回ったがどこにもいない。それほど広い部屋じゃない。
ふざけてかくれんぼでもしてるのか思ったが、妖精さんスキルで繋がった心のパスが近くに感じられない。
あれは不思議なもんで、GPSみたいに直感で誰の位置がどこにいるのかわかるのだ。
近くにいるといっそう顕著だ。
それが感じられない。携帯の電波が圏外になるように、美砂の気配を近くに感知できなくなった。
部屋中を探し回ったが美砂の姿はなかった。
俺はすぐに琴葉に連絡を入れて美砂が行方を暗ませたことを伝える。
『部下に監視させていましたが、美砂さんがマンションから出た形跡はありません。……いえ、ひょっとすると地下の駐車場から……?』
「どういうことだ?」
『今朝方地下の駐車場から一台の車が出て行くのを確認しています。来客用のスペースを使っていたので外部の人間かと思われます』
「そいつを追跡できるか」
『既に。現在動かせる人員を総動員で捜索を開始いたしております。見つかったら直ぐにご報告を』
「分かった、頼む」
一体どういうことだ? 美砂を誰かが拉致した? 芸能関係の奴らか?
いや、だとしたら琴葉が知らない筈がない。
蘭華の所属事務所は飯倉商事の子会社だし、情報が入ってこないわけないし。
その時、不意にスマホの着信音が鳴り始める。
液晶をのぞき込むと元清楚ビッチの山本恵美からだ。
この忙しいのに何の用だ?
後回しにしても良かったが、あいつも既に俺の女だ。無視するのも憚られた。
「もしもし?」
するとスピーカーの向こうから恵美が叫ぶ。その声には何故だか悲壮感があった。
『亮二、私……』
「恵美、どうした? なにかあったのか?」
『ごめん、あの美砂って子……マンションから連れ出したは、私なの?』
「なんだ、お前だったのか。……いや待て。何故お前が美砂のマンションを知っているんだ?」
『たまたまね、以前に町をぶらついてる時に悪い男に連れて行かれそうになってたから、助けたことが縁で知り合ったんだけど』
「なんだって?」
恵美の話をまとめると、どうやら本当に偶然の産物で美砂と恵美は知り合いだった。
それで悪い男をボコして救い出し、マンションまで送っていった縁で知っていたらしい。
それで、問題はここからだ。
『ごめん、連れて行かれたの……。あの子のこと、抑えきれなかった』
「あの子? 誰のことだ?」
『あのね、なんか違うのよあの子』
「違う? 何がだ? もう少し分かりやすく言ってくれ。あの子って誰の……。待て、まさか好摩のことか?」
よく分からない言い回しだ。違うとはなんなのか。あの子って誰なのか。
俺達の関係の中で、「あの子」なんて表現を使っていた奴の心当たりは非常に少ない。
まだハーレムのメンバーとも会わせていないし、その他に共通する人物といえば……。
「やっぱり好摩楽人なんだな?」
『うん。いつもと違って、なんかワイルドっていうか……、以前とはまるで別人みたいで。なんでだろう。逆らえなかった……。自分が自分じゃなくなっちゃったみたいに……』
別人みたい? 精神ぶっ壊れて性格が変わったのだろうか?
自分が自分でなくなったなんて……。それじゃまるで……。
『それで、ごめん。もうアンタ以外には抱かれないつもりだったけど……』
「ヤラれちまったのか」
『えっと、最後まではいかなかった。でも気を付けて。あの子、今までとなんか違う。本当に別人みたいになってた』
まさか……な。いや、楽観視は危険だ。常に最悪を想定しておかないと。
「分かった。こっちで調べてみる。とりあえず明日俺の家まで来い。慰めてやる」
『いいよいいよ。年頃でもあるまいし。今更襲われたくらいでなんとも思わないって。キンタマ蹴ってやったら逃げていったもの』
「無理すんな。もう前のお前じゃないだろ」
『あはは……やっぱ分かっちゃう? なんか情けない話だけど、人を好きになるっていい事ばっかじゃないね』
恵美の力なら主人公ごとき普通の男なんて襲われる前にぶっ飛ばすことくらい造作も無い筈だが、想像以上に乙女になっちまったみたいだ。
だがそれよりも気になる事がある。
いくらなんでも野郎ごときに恫喝されたくらいで恵美がああまで憔悴するとは思えない。
「一つ教えてくれ。美砂は今、好摩と一緒にいるんだな?」
『うん。どこにいったかまでは分からないけど、なんだっけ……多分繁華街に行こうとしてるみたいなこと言ってた』
……なんだって? ってことは、またシステムが働いたのかッ。
くそっ。とにかく追いかけないと。
俺は琴葉に命令を出し、即座に大型ビジョンの周りに人員を集めるように命令した。