俺は好摩を探してショッピング街に向かった。
直ぐに琴葉に連絡を入れて人員をそっちに向かわせるように命令を出す。
「琴葉、美砂を連れ出したのは好摩楽人だ。今すぐ人員を動員して例の二人を探し出してくれ。先ほど伝えた場所のどこかにいるはずだ」
『畏まりました我がご主人様。既に500人態勢で捜索を開始しております。周辺の監視カメラシステムをチェックして通り全体をカバーしております』
「さすがだな。ご苦労。よろしくたのむ」
『王のご命令ならば喜んで。一時間以内に見つけてご覧に入れますわ』
既に知っての通り、美砂のデートはショッピング街の大型ビジョンで流れる蘭華のCMソングを聴いて記憶の一部を取り戻すというイベントがある。
記憶を失っている美砂は、日常に散らばった蘭華の記憶の断片を見聞きすることで自分を取り戻していく。
その第1号がこのショッピングモールのデートだったのだが、何故だか好摩はそこに向かっているという。
おかしい。何かがおかしいのだ。
ここがゲームの世界であるならば、ヒロイン攻略に際してはゲームのイベントに搾って探すしかなかった。
そして主人公もゲームのキャラクターだ。そのシステムに従って動くはず……。
「いや待てよ……」
違うッ。そうだ、前提から間違っていた。
ここはゲームの世界。だからキャラクターである主人公もシステムに支配されているはずだ。
はずだった。
だけど、そもそも奴は美砂とのフラグを立てていない。
ゲームシステムにこの世界が支配されていると仮定するならば、その攻略には丁寧なフラグ回収が必要になる。
現に俺が先回りしてフラグを潰した他のヒロイン誰一人として、その後好摩にはちょっかいを出されていないのだ。
にも関わらず、何か無理やり、強引な……神様でもいて事象を操っているのかと思うほどの変な力が働いて、美砂とのデートは実現してしまっている。
いやいや、そんなのをデートと呼ぶなんておこがましい。
俺は主人公を出し抜くためにシステムの裏をかいて常に行動してきた。
その主人公がシステム外の行動をし始めている。
これはもう……。
「システムから解放されたのか……主人公」
しかもそれだけじゃなくて……。
「恵美の言っていたことを加味すると……やはりそうなのか。となると」
俺は
すると、今度は優奈からの着信があった。このタイミングで優奈からの電話。
間違いなく何か変な運命力が働いているとしか思えない。
『先輩、お忙しいところすみません。ちょっとお話いいですか?』
「優奈、どうした?」
『実はラクトの事なんですけど、一つ思い出したことがあるんです』
「以前とは人が変わったみたい、とかか?」
『え? どうして分かるんですか?』
「ああ。さっき電話してた奴が同じ事を言っていた。まるで人格が入れ替わったみたいだってな」
『そうなんです。前に家の前ですれ違ったんですけど、なんか話しかけて来て。私はキモいので話したくなかったんですけど、向こうが勝手に喋るんで……』
優奈の話を総合すると、やはり人が変わったように乱暴な性格になったらしい。
俺の予想は当たっていると思って間違いなさそうだ。
「分かった優奈。桜木美砂を保護したら琴葉の家に送る予定だ。お前は飯倉家に向かってくれ。それから他の皆も全員を同じ場所に集めろ」
『分かりました』
電話を切り、いよいよ激闘の予感を確信して覚悟を決めた。
その時、捜索を任せていた琴葉から連絡が入る。
『ご主人様、ターゲットは大型ビジョンの前で桜木美砂と共にいるところを発見しました』
「ご苦労。すぐに向かうっ」
琴葉は俺の思考を読んで先んじた対策を打ってくれた。
こいつの先読みスキルは素晴らしいな。初音に匹敵するレベルの忠誠具合だ。
財力がある分だけやれることが派手で頼りになる。
移動の最中に恵美の番号をコールし、具体的に主人公がどういう状態だったかを確認した。
それによると、野郎は恵美のところに突然やってきて、調教されきった今までとは態度を一変させ、乱暴に恵美を犯そうとした。
なんとか撃退した恵美だったが、いわく、信じられないほど人が変わっており、抵抗するのがやっとだったという。
あいつは空手や柔道などの有段者であり、そんじょそこらの男に後れをとる筈がない。
『女』になって弱くなった、なんて見方は危険だ。
確かにそういう側面はあるかもしれないが、そんなことで主人公如きにどうこうできる女じゃない。
見た感じ前世の俺ですらどうとでもなる普通の男だ、あいつは。
だとしたら答えは一つ。
『人が変わった』『中身が入れ替わった』
こういう言い方が該当する。心当たりなんてあるに決まっている。
なぜなら俺自身がその心当たりそのものだからだ。
まだどういう奴なのかは分からないが、今までの奴と同じだと思って当たると危険だろう。
それが示すところはつまり…。
「主人公め…転生者になったのか」