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第101話◇こいつ、まさか◇


 現場に到着すると、なんと美砂を連れた主人公は、琴葉と修羅場の真っ最中だった。


「見つけたぞこの野郎ッ」



「あ?」


 車から降りた俺は琴葉に突っかかる主人公に近づいた。


 冷たい目で主人公を見る琴葉を抱き寄せ、その怒りが伝わってくる。


 美砂の手を掴んだままでいる主人公は、琴葉の胸ぐらを掴んで凄んでいたのだ。


 あまりにも乱暴で、粗野で、下品だ。


 直感。それが正しい表現か分からないが、俺の勘はちゃんと当たっていた。


 この世界のキャラクターだった主人公は、俺と同じように異物となっていた。


(こいつは、間違いなく転生者になっている)



 主人公は転生者になった。


 一体いつからだったのかは分からない。


 少なくとも優奈攻略の時点では、まだ本来のアイツだった筈だ。


 何があったかまでは分からないし、興味もない。


 だが、野郎は確実に美砂を狙って行動していた。



「霧島亮二か。そうか。メインヒロインが俺を無視するのはやっぱりテメェの仕業だったんだな」


「メインヒロイン。それは誰の事だ?」


 ほーらやっぱり確定だ。優奈をメインヒロインなんて呼び方するのは転生者以外ありえない。


「テメェの知った事じゃねぇよ。っていうか、しらばっくれなくてもいいぜ霧島ぁ。テメェも俺と同類だろうからな」


「やっぱりお前、転生者か」


 俺の予想は大当たり。奴は、俺と同じように主人公の肉体に転生した別の世界の人間だ。


「つーかよぉ。このデカ乳ブスの様子からして、もう他のヒロイン全部攻略し終わってるんだよな?」


「……」


 ナニイッテルノ、コイツ……?


「それは誰の事だ?」


 デカ乳ブスなんて俺の知り合いにいない。マジで何を言っているんだこのバカは?


「驚いたぜぇ。佐藤優奈も、宮坂舞佳も、白峰小雪も、桃園初音も全員攻略済みなんてよぉ。ゲームにはないハーレムルートでも作ってんのかぁ? ああ?」


「何のことか分からんな」


「しかもなんだよっ、桜結美に涼花に琴葉。サブヒロインまで攻略しちまったのか? ファンディスクにもなかった裏ルート開拓なんて羨ましいねぇ」


 こいつ……。やはりこの世界をゲームだと認識している。しかもこっちの動きも掴んでるっぽいぞ。


「面倒なフラグ立てを代わりにやってくれて感謝してるぜ。ずっとこのバカ主人公の中で待ってた甲斐があった」


「なんだと?」



「まずはあなた、美砂さんの手をお離しになってはいかがですか? いつまで汚い手でつかんでますの?」


「は? 何言ってんだお前。ブスは黙ってろよ」


 この野郎。俺の可愛い琴葉に向かってブスとはなんだ。殺すぞ。


「美砂さん」


「……」



 琴葉が美砂に話しかける。だが、その目は何かが変だった。

 まるで焦点が合っていない。そこにいるようで、何もみていないような虚ろな目をしている。


 俺はこの目を見たことがある。女を催眠にかけたときの目だ。


 やはりこいつも俺と同じようなチート能力を獲得してやがる。


「美砂をどうする気だ」


「ぎゃはははっ! 男と女がデートの最後に行くところなんて一つしかねぇだろうが」


 琴葉の質問にとんでもないことを言い出した。


 この野郎、やはり美砂を催眠で操ってホテルで何をしようとしてやがる。



 俺は最初に誓ったことがある。主人公とヒロインの誰かが幸せになったなら、それを邪魔することはしない。


 それが俺の転生した時に自分に課したルールであり、この2人が仲睦まじいカップルになろうとしているのなら、阻むことはできない。


(でもこれは違うだろ)


 こんなゲス野郎に成り果てたクソに美砂の大事な体をいつまでも触らせておくのはガマンできねぇ。


「それよりお前、いつまで美砂に触ってるんだ。そろそろ手を離せ」


「ケケケッ。ザケたこと言ってんじゃねぇよ。人の体で好き放題してる分際で」


「……なんだと?」


 今、なんて言ったんだコイツ……?


「人の体とはどういうことだ。……いや、待て……テメェまさかっ」


 俺に向かって人の体がどうのこうの言いやがる。

 そんなセリフを吐けるのは、恐らく一人しかいないだろ。


「ぎゃはははっ! そうだよっ。その体の本来の持ち主ッ! 霧島亮二だ」


 邪悪に笑うクソ野郎の口元から覗く剥き出しの歯茎が、俺の予想を真実であると嘲笑いながら語っているようだった。

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