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ハルコン達一行は、王都の門を出て30分程、街道を進んでいく。
ハルコンとミラの荷物は、大人達2人が分担を言い出したので、4つに分割して運ぶことになった。
器材のかなりの分をギルマス、お弁当の大人達用をミルコ女史、残り3人分をミラが運ぶ。
「あら、お弁当5人分ありますけど、私達4人でしょ? もう一人分はどなたのですか?」
「もう一つは、女神様にお供えしようかと思いまして」
ミルコ女史に、ハルコンがニコリと告げる。
「あら、いいわねぇ。お供えですか、なるほど」
「はい」
「なかなか、いい心がけだな、ハルコン!」
ギルマスも嬉しそうに、ハルコンの肩をポンと叩いた。
ハルコン達の国、ファイルド国は、女神様を始めとした多神教の国だ。自然物には神性が宿り、この世界を秩序立てているという考えが主流だ。
だから、子供達は大人から物を粗末にするな! 食事は残さず食べなさい! と教わって大人になり、またそれを自分の子供に繋げていく。
ハルコンの前世、晴子の頃、彼女は無宗教だったけど、アニミズムのような精霊信仰が心のどこかに絶えずあった。
土壌サンプル集めのフィールドワークで、夜の森にたった一人でキャンプする時、真っ暗闇の静寂な世界にいて、見えざる何かに全身を見られているような感覚に陥ることがあった。
晴子は、それこそが原初の日本人が持つ、独特の嗅覚なのではないかと考えていた。
そう言った感覚が顕著になるのが、このファルコニアと呼ばれる異世界なのだ。
往来は地方と王都を結ぶ通りで、馬車がすれ違っても当たらない程度に十分広く、路面もよく整備されていた。
「なら、ここから森に入っていくぞ!」
「「「はいっ!」」」
ギルマスの指示に従い、一行は街道を逸れて森の中に分け入っていく。
下草はなく、樹々の間隔が広いため、森の中はそこそこ明るい。ただ、木の根っこが剝き出しになるところもあるので、足元によく気を付けて、後に続いていく。
ハルコンとミラは、東方3領の地元の森でフィールドワークを続けていたため、これ位の森は慣れっこだ。
だが、油断は禁物。ギルマスの指示に従い、沼地の脇を抜けたりしながら、30分程進んでいくと、樹々の合間に、突如開けた土地が現れた。
「着いたぞ! ここが『聖地』だ!」
ギルマスの言葉に、ハルコンとミラは思わず息を飲む。