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「カイルズよ。私のところにはな、毎日のようにハルコン・セイントークの活躍の様子が届いているのだ。むろん、オマエが年齢を理由に息子を庇うのは、私も子を持つ親として当然ワカることだ。だが、……いささか目立ち過ぎたようだな?」
「そうでしたか、……」
王ラスキンの言葉に、父カイルズは悄然と言葉を途切らせた。
すると、シルファー先輩も思うところがあったようで、こうハルコンに訴えた。
「ハルコン、その件は『内緒』だって、……先日仰ってたではありませんか?」
「えぇ。ですから、そろそろ陛下と宰相様に、お伝えした方がよろしいかと思いまして」
「まぁ、……そうでしょうけど」
シルファー先輩の態度から察するに、まだこのタイミングで情報開示をしなくてもいいと思っていらっしゃったようだ。
「シルファーよ、一体、ハルコンは何のことを言っているのだ? 土いじりが趣味だとはオマエから聞いておるが、それがどうしたというのだ?」
「父上には申しませんでしたが、どうやら、土の中には大いなる『謎』があるようなのです」
「『謎』だと? それはどういうことだ?」
ここで陛下と宰相が「どういうこと?」といった表情でこちらをじっと見つめてきた。
ハルコンは覚悟を決めて、真相を語ることにした。
「実は、土の中には放線菌と呼ばれる微生物がいます。中には人間にとって『益』となる成分を生み出すものもいます」
「いいのハルコン? これ以上話すと、事は『公』になりますわよ?」
「えぇ構いません。私は放線菌の生み出す成分を使って、この世界で仙薬エリクサーを開発することを目的に生きております。もしよろしければ、ご助力頂けたらと思い、こうしてお伝えしております」
「仙薬、……エリクサーか、……。なるほど、……だから『聖地』に足を運んだのか!」
王ラスキンのお言葉に、ペコリと頭を下げるハルコン。
「陛下、こちらをご覧になって頂けますか?」
ハルコンは、簡易型の顕微鏡を皮鞄から取り出して、陛下のお手元のテーブルに設置し、微調整の後、「ヨシッ!」と呟いた。
「シルファーから、使い方は聞き及んでおる。この『レンズ』とやらを覗けばよいのだな?」
「はい。ここに真相がございます。『聖地』にある『回生の木』の根元の土壌から抽出した、微生物でございます」
王ラスキンは、こちらの顔をじっと見ると、その器材がこの国の科学の数百年先のものと理解した上で、ひとつ頷かれた。
それから、おそるおそるレンズに目をお当てになると、「フォーッ!?」と小声で呟かれ、再びこちらをじっと見た。
「この微生物とやらは何だ!? 半透明な、……まるで糸くずのような生物ではないかっ!?」
「これこそが、仙薬エリクサーを生み出す放線菌です。私は、ついに発見いたしましたっ!」
ハルコンは、感極まったように満面の笑みを浮かべた。その表情には、年相応の少年の素直さが、とてもよく表れていた。