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「それでは、こちらをご覧になって頂けますか?」
ハルコンは、持参した革鞄から様々なグッズを取り出して、テーブルの上に並べていく。
「ほぅ、……これは素晴らしいな!」
「そうですな、陛下!」
王ラスキンと宰相が、感心した顔で仰った。
マッチの追加分や調理道具、王妃様のための化粧品など、他にも様々なサンプルグッズをお渡ししてレシピと共に使い方をご説明すると、大変喜ばれた。
この面会で主に何を話したかと言えば、セイントーク領産のグッズの素晴らしさ、料理やお菓子が美味いとかが大半だった。
まぁそんな具合に、話し合いは至って和やかに進んでいくのだが、……。
でも、終盤に差しかかり、軽いつばぜり合いがひとつ起こった。
「……、一級鍛冶士のドワーフの親方が、セイントーク領に居を構えたことで、領の技術革新が急速に進みました。我々は、大いなるチャンスを得たと自負しております」
父カイルズがそう伝えると、陛下は次にこう仰られた。
「ドワーフの親方は、この数十年間ずっと王都で過ごしてきたが、……彼の作ったものは武具と鍋とフライパン、後はガラスのコップくらいだったと聞いているぞ!」
「……、そうでしたか」
「なぁカイルズよ、……セイントーク領には、何者か『知恵者』がいるのではないかな?」
陛下のお言葉に、父カイルズの表情が硬くなる。
「他にも、いくつか気になることがある。例えば、女盗賊の起こした人材派遣業及び獣人ネットワークのフル活用だな。最近では、隣りのシルウィット領で公共土木事業にまで積極的に関わっているとか。どうやら、遅れていた開発が次々と進んでいるようだな? 風来坊と揶揄された一級剣士の、東方3領における長期滞在。最近は、シルウィット領からロスシルド領に移動して貰っているが、こうもすんなり上手くいくとはな。私には大変驚きだよ!」
宰相まで、父カイルズに疑問をぶつけてこられた。
父カイルズがただ一言、「全てはハルコンのおかげです」と言えば済む話なのだが、……。
もちろん、こちらには全く落ち度がない。ただ全てが上手くいき過ぎているから、こういった軽い軋轢を生むことになってしまったのだ。
さぁて、……。この場をどう切り抜けようかなぁと、ハルコンは思った。
ふと見ると、シルファー先輩がニコニコと笑顔でこちらを見つめていらっしゃる。
おそらく、この場をどう言い逃れるのかと思って、ワクワクされているのだろう。
なら、……。そろそろ、もう頃合いなのかもしれない。
「実はここだけの話なのですが、……。私、土をいじることが大の趣味でございまして、……」
こちらがこう切り出すと、陛下と宰相は強く関心を持ったように、じっと見つめてきた。
「ハルコン、オマエ、……いいのか?」
「えぇ、……もう隠し通せません。この際、全てお話いたしましょう!」
こちらがニコリとそう告げると、父カイルズは「そうか」とだけ言って、諦めたようにため息を吐いた。