王宮の奥深くにある個室。そこは、本来王族のためだけのプライベートルームだ。
20畳程の室内に、必要最小限の家具とソファーセットがあるだけの簡素な部屋。
そこには王ラスキンと宰相、シルファー先輩と侍女のセロン、父カイルズとハルコンの6人がいるだけだ。
現在、王ラスキンがこのファイルド国の建国にまつわる話を続けていて、ハルコンを始め誰もが固唾を飲んで話を伺っていた。
「……、まぁ、とにかくだな。今の王家は『回生の木』の花と葉を煎じて飲んだりはしていない。長らく隣国コリンドとの戦争が続いていたが、今の我が国は平和を国是としている。なるべくなら、話し合いで解決したいと願っているのだよ!」
王ラスキンはそう仰って、ニコリとお笑いになった。
ハルコンは陛下の仰るとおりだと思い、笑顔でひとつ頷いた。
ここで、難しい話は一度お開きとなり、軽い世間話に関心が移っていった。
「……、それはそうと、ハルコンよ。最近のオマエは、噂の立たない日がないそうだな?」
「噂、……でございますか? 一体、それはどのような噂なのでしょうか?」
王ラスキンの言葉に、ハルコンは控えめに訊ね返す。
「主に女子(おなご)達からだな。王立学校の中だけでなく、外部からもな。ハルコンよ、オマエは貴族だけでなく、庶民層からも慕われている。誠に羨ましい限りだぞ!」
「めっ、滅相もない!」
こちらが慌てて否定すると、シルファー先輩は目を細めて、上半身を少し前に出してニマリと笑った。
「あ~らぁ、最近は王族の私がハルコンにべったりで、授業の時も放課後にも傍で楽しそうにしているというのに! まぁ、貴族のミラとも親しくしておりますから、一見すると仲良し3人組と見られているそうなのですよ!」
「シルファーよ、ミラとはローレル・シルウィット子爵の長女だったか?」
「はい、東方3領同士、大変仲がよろしいんでございましょう」
最近、自分はモテているなぁとハルコンは思っていた。
サリナ姉のフラワーアレンジメントのサークルメンバー達が、皆ハルコンびいきだ。
シルファー先輩主催のパーティー会場で、ハルコンは女子達の憧れの的となっていた。
「まぁ、……ウチのは、いささかモテるようですな」
父カイルズによると、ハルコンのファンを自称する熱狂的な若い女子達が貴族、庶民共に増えてきているらしい。
連日面会希望の貴族家や豪商から、様々なアプローチが繰り広げられているとのこと。
「ミラも大変ですわね。そのウチ、ハルコンに複数の婚約者候補が現れてしまって、ヤキモキし始めるのではないかしら? まだ7歳だというのに、モテる男子と仲良くすると、結構羨望の眼で見られて大変そうですわね?」
シルファー先輩はそう仰って、ちらりとこちらを窺うように見てきた。
おそらく今の言葉は、多少当てこすりを含んでのセリフだろう。
なかなかシルファー先輩はしたたかな方だと、ハルコンは内心冷や冷やしながら思った。