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24 ハルコンの名声_02

   *          *


 陛下との面会は夕餐をご馳走になったこともあり、想定よりも長くかかってしまった。

 ハルコンが馬車に乗って貴族寮に戻ってくると、館内はどこも真っ暗だった。


「フゥーッ! 今日は何だか疲れたなぁ~っ!」


 自室に戻ってきたハルコンは、光魔石で部屋を真昼のように明るくした。

 フォーマルな貴族服を丁寧に脱いでハンガーにかけると、下着姿のまま洗面台で手と顔を洗い始めた。


 貴族寮とはいえ光魔石はとても高価だから、通常ではほとんど使われていない。

 遅くまで起きている者は蝋燭や灯火用の油脂を使うのだが、学生は基本質素倹約を旨とするもの。ハルコンだけ、特別扱いを受けているのだ。


 もう寮生達は皆寝てしまっているのだろう。館内はとても静かだった。


「さて、……まぁ、何とか陛下のご協力を得られることになったから、上手くいったね!」


 そう呟いて一人ガッツポーズを取ると、ハルコンは冷蔵庫に足を向けた。

 その冷蔵庫は、氷結魔石をふんだんに使った特注品だ。ドワーフの親方にアイデアを伝えると、驚きながら作ったまさに一点モノだ。


 もちろん、世間には出回っていない。とりあえず、ハルコンの部屋で試験運用中だ。


 ちなみに、ハルコンは傷み易い研究素材や私物を、この容量400リットルの筐体の中に、ぎっしりと詰め込んでいた。


 ハルコンは果汁入りの甘い乳製飲料を取り出すと、笑顔でこくりこくりと飲んでいく。


「ぷはぁーっ! 生き返るぅ~っ!」


 まさに至福のひととき。この一杯が止められない。

 すると、タイミングよく夜9時を示す鐘が鳴った。


 ハルコンは研究机から書類をいくつか手に取ると、ベッドにころんと横になりながら目を通し始めた。


 どうするかなぁ、……。


 ハルコンがちらりと見た先には、「聖地」の「回生の木」の花と葉から抽出したサンプルが、1800ミリリットルのビーカーにたっぷり入っている。


 青紫色の液体。乳鉢で時間をかけて拵えた、労力の産物だ。

 とりあえず成分が変化するとマズいので、冷蔵庫には入れずに常温保管しているのだが。


 先程の面会で陛下が仰ったように、このサンプルを煎じて飲めば、まさに100人力を得られるらしい。

 だが容量を間違えると、かつての王達と同じく、腸が腫れて死んでしまうという。


「ホンと、……どうしようかなぁ」


 ハルコンが思わず独り言を呟いていると、書棚と収納家具の間の隙間から、ガタンと物の動く音がした。


「誰だっ!?」


 思わずハルコンが叫ぶと、その少年はゆっくりと姿を現した。

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