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ハルコンは、前世と同じ轍を踏まない。
気が付くと、その少年に斜め前方から飛びかかって床に組み伏せると、数秒の後には完全に制圧してしまっていた。
「はっ、放せっ! オレのことをよく見ろっ!」
ハルコンのその姿は、あたかも藻掻く獲物を、長い爪でしっかりと床に押さえつける獰猛な獣のそれだ。
そのハルコンの目つきは、氷の刃のように鋭く、全てのものを音もなく切り分けるメスのように光っていた。
「や、止めろぉ~っ、もうこれ以上抵抗しないからっ! 放してくれっ!」
ハルコンは、そんなの嘘だとワカっている。
前世の私は、まるで虫けらのように研究室で焼き殺された。
だから、私の研究に仇なす「敵」に対しては、決して容赦しないぞ、とハルコンは思った。
「オッ、オレだよっ! ノーマン、……ノーマン・ロスシルドだっ!」
「ノーマンだと!?」
ハルコンの組み伏せる指先が、……更に力を増した。
「アデデデデデッッ! 痛ぇ~よっ、ハルコン! ちゃんと話すからっ! 話だけでも聞いてくれっ!」
「このままの姿勢で、いいだろ?」
「それじゃ、ちゃんと話せねぇーって! だから椅子、せめて床でも構わないから座らせてくれっ!」
ハルコンは、どうやってノーマンがこんな夜中に研究室に侵入できたのか疑問に思った。
そもそもドアには鍵がしてあるし、ちらりと見ても窓ガラスが割られた様子もない。
「いつから、ここにいた?」
「昼食が終わった後だ。オマエに話があってきたのだが、あいにく留守でな。すると、掃除のおばさんが部屋に入るのを見て、隙を突いて中に入って待たせて貰った」
「正式に、手順を踏んで訪ねてくれば良かっただろ?」
「それだと、オマエがオレに会わないと思い、部屋で待ち伏せしかないと思った」
ハルコンは、一瞬クラッと眩暈がしてきた。
こういうヤツを、前世ではドキュン? って呼ぶんだったか。
自分の意見を徹すためなら、手段を選ばない。仮に選ぶとしても、本人にとって一番気持ちのいいことを優先する。
現に、前世の私は、そんなドキュンな権力者達によってむざむざ殺されてしまったんだからな。
だから、私はコイツらを決して許さない。たとえこちらが殺されて地獄に落とされても、鬼の獄卒となって、私の「敵」を駆逐してやる。
そんなことを考えるハルコンの目は、爛爛と高熱を上げて光っていた。
「だぁーっ、痛ぇ~よっ! 止めてくれ、ハルコンッ! オレの話を聞けぇーっ!」
そう言えば、コイツには、ミラの件でも散々恨みがあるんだっけか。
まぁ、この際だ。もう少し痛めつけたら、話くらい聞いてやるかとハルコンは思った。