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24 ハルコンの名声_06

   *          *


「なら、今日のオマエの行動を不問にして、ひとつだけ話を聞いてやる。いいから、言ってみろ?」


 すると、ノーマンにとってこちらの提示した言葉が予想外だったのか、戸惑ったように口をパクパクさせている。

 それでも、何とか意を決したのか、真剣な眼差しでジッと見つめてきた。


「ハルコンッ! 今、隣国コリンドの姫様がピンチなんだ! 重い病を患っていて、いつどうなってもワカらない状態なんだよっ!」


「……」


 なるほど、……そうきたか。その話は、先日女盗賊の部下からも報告が上がっていたね。

 いよいよ以て、事態は深刻みたいだなぁとハルコンは思った。


「オマエが仙薬エリクサーを作っているって、噂に聞いたんだ! だから、どうしても姫様に飲ませて、何とか助けたいんだっ!」


「……」


 ハルコンの目に、ノーマンは真剣そのものだった。


 大体、心底嫌っている相手に、こうしてしがみ付いてお願いしてくるのだ。

 おそらくロスシルド家に対し、隣国コリンドから相当なプレッシャーがかかっているのだろう。


 取引を停止されてしまうと、密貿易で財を成してきたロスシルド家の屋台骨が折れてしまう。


 ラスキン国王陛下と宰相及び父カイルズは、当面の間、ロスシルド家を泳がす方針だ。

 なら、その方針に従い、善処するのが国民の義務となる。


 この場合、隣国の姫殿下の病状を少しでも改善すれば、それはまさしく善隣外交となる。

 その結果、これまで好戦的だった隣国の態度も、多少軟化するかもしれない。


「なぁ、ハルコン! オレのことはどうだっていい。とにかく、姫様を助けてくれっ!」


 そういえば、この姫様って、シルファー先輩と同じ年齢だったよね。

 すると、何だかいた堪れない気持ちになった。


「いいよ! まだ研究の途中段階だけど、それで構わないのなら」


「えっ!?」


 ノーマンは、目を白黒させて絶句した。


 ハルコンは、先日の「聖地」訪問以来、土壌から得た念願の放線菌の培養に挑戦中だ。

 そして、まだ微量ではあるのだが、放線菌の生成する酵素アイウィルビンの採取にも成功していたのだ。


 ハルコンは冷蔵庫まで歩いてゆき、低温槽から試験管をひとつ取り出した。


 それから容量の大きめの木の弁当箱を用意すると、おがくずを中に敷き詰めて、小さめの氷結魔石と共に試験管を中に設置して封を閉じた。


「急ぐんだろ? ノーマン!」


「えっ!?」


 戸惑いがちに、弁当箱とこちらを交互に見つめるノーマン。


「未完成だけど、これを飲めば、症状の悪化をかなり防げると思う。東方の国境まで早馬を乗り継げば、3日かからないだろ? なぁノーマン?」


「あっ、あぁっ! 恩に着るっ、ハルコンッ!!」


 ノーマンは薬剤を受け取ると、直ぐに部屋を飛び出していった。

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