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「おぉ~い、ハルコン。こんな夜更けに物音がしたけど。何かあったのかい?」
部屋の外からドアをノックして、隣室の寮長が声をかけてきた。
ハルコンは、ノーマンを部屋への無断侵入と窃盗の罪で、寮長に引き渡そうと思った。
「はぁ~いっ、……」
「ハッ、ハルコンッ! ここは貴族の情けでっ!!」
そう言って、ノーマンがしがみ付いてきた。
ハルコンは、武士の情けって言葉を聞いたことがあるが、貴族の情けなんて言葉があったんだと思った。
見ると、しがみ付くノーマンは、その表情がチワワのように目を見開き、プルプルと小刻みに震えている。
何でミラは、こんなどうしようもないガキに、アレ程まで我慢を強いられたのだろうと思ったら、沸々と怒りが込み上げてきた。
次の瞬間、ノーマンの脳天目がけてパンチを入れると、そのまま気絶して大人しくなった。
さて、……と。
「はぁ~いっ、寮長、いま出ま~す!」
そう言ってドアを開けると、心配そうな顔をした寮長と目が合った。
「何か、あったのかい?」
「い、いえっ、……特には何も」
「そうなのかい? キミはシルファー殿下だけでなく、陛下からも信頼を得ている大切な人間だ。もしも、何かあってからではマズいんだ。トラブルでもあったのではないかと、心配になって駆け付けてみたんだが、……」
そう言って、寮長は長身を伸ばして、部屋の奥をざっと見た。
「特に、……問題なさそうだが?」
ノーマンは、ベッドの傍の床の上でノビている。
寮長からは、たまたま目に入らなかったようだ。
「寮長、夜分にお騒がせして申しワケありません。部屋の片づけが済みましたので、もうしばらくしたら消灯して寝ます。ご心配をおかけして、大変申しワケありませんでした」
そう言って、こちらが深々と頭を下げると、寮長はニコリと笑った。
「なら、いいよ! ただし、もし何かあったら大声を上げてくれ! 直ぐに駆け付けるから!」
「ありがとうございます」
そう言って、再び深々と頭を下げるハルコン。
「なら良かった。お休みハルコン。また明日もヨロシクな!」
「はいっ!」
笑顔でドアを閉めると、寮長が隣室に入っていく音をじっと確認した。
ハルコンは両手をパンパンと鳴らしながら、ノビて寝ているノーマンをしばらく見下ろしていたのだが、……。
覚悟を決めて胸ぐらを掴むと、ノーマンの頬を数回平手打ちにした。
すると、ノーマンが頬を赤く腫らせながら目を覚ました。
「ハッ、ハルコン、……」
「ノーマン、オマエ、私に何か頼み事があって、ここにきたんじゃないのか?」
すると、胸ぐらを掴まれたまま、ノーマンは首を何度も縦に振った。