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24 ハルコンの名声_05

   *          *


「おぉ~い、ハルコン。こんな夜更けに物音がしたけど。何かあったのかい?」


 部屋の外からドアをノックして、隣室の寮長が声をかけてきた。

 ハルコンは、ノーマンを部屋への無断侵入と窃盗の罪で、寮長に引き渡そうと思った。


「はぁ~いっ、……」


「ハッ、ハルコンッ! ここは貴族の情けでっ!!」


 そう言って、ノーマンがしがみ付いてきた。

 ハルコンは、武士の情けって言葉を聞いたことがあるが、貴族の情けなんて言葉があったんだと思った。


 見ると、しがみ付くノーマンは、その表情がチワワのように目を見開き、プルプルと小刻みに震えている。


 何でミラは、こんなどうしようもないガキに、アレ程まで我慢を強いられたのだろうと思ったら、沸々と怒りが込み上げてきた。


 次の瞬間、ノーマンの脳天目がけてパンチを入れると、そのまま気絶して大人しくなった。


 さて、……と。


「はぁ~いっ、寮長、いま出ま~す!」


 そう言ってドアを開けると、心配そうな顔をした寮長と目が合った。


「何か、あったのかい?」


「い、いえっ、……特には何も」


「そうなのかい? キミはシルファー殿下だけでなく、陛下からも信頼を得ている大切な人間だ。もしも、何かあってからではマズいんだ。トラブルでもあったのではないかと、心配になって駆け付けてみたんだが、……」


 そう言って、寮長は長身を伸ばして、部屋の奥をざっと見た。


「特に、……問題なさそうだが?」


 ノーマンは、ベッドの傍の床の上でノビている。

 寮長からは、たまたま目に入らなかったようだ。


「寮長、夜分にお騒がせして申しワケありません。部屋の片づけが済みましたので、もうしばらくしたら消灯して寝ます。ご心配をおかけして、大変申しワケありませんでした」


 そう言って、こちらが深々と頭を下げると、寮長はニコリと笑った。


「なら、いいよ! ただし、もし何かあったら大声を上げてくれ! 直ぐに駆け付けるから!」


「ありがとうございます」


 そう言って、再び深々と頭を下げるハルコン。


「なら良かった。お休みハルコン。また明日もヨロシクな!」


「はいっ!」


 笑顔でドアを閉めると、寮長が隣室に入っていく音をじっと確認した。


 ハルコンは両手をパンパンと鳴らしながら、ノビて寝ているノーマンをしばらく見下ろしていたのだが、……。

 覚悟を決めて胸ぐらを掴むと、ノーマンの頬を数回平手打ちにした。


 すると、ノーマンが頬を赤く腫らせながら目を覚ました。


「ハッ、ハルコン、……」


「ノーマン、オマエ、私に何か頼み事があって、ここにきたんじゃないのか?」


 すると、胸ぐらを掴まれたまま、ノーマンは首を何度も縦に振った。

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