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「私はね、晴子さん。あなたにも神のひと柱として、人々を正しき方向へと導く存在になって欲しいと願っているのですよ」
そう仰ってから、女神様は優しそうな瞳で、こちらをじっと見つめてこられた。
「ですが、……私には、いささか荷が重いです」
「ふふっ、時間はたっぷりあります。じっくりお考えなさいな!」
「……、そうですね」
ハルコンは戸惑いつつひとつ頷くと、カップの紅茶に口を付けた。
ちらりと様子を窺うと、向こうもこちらを見て、それからニコリと微笑まれた。
女神様は、私のことをいささか買い被り過ぎのような気がする、とハルコンは思った。
「晴子さんは、まだ人間でいるウチにやるべきことがたくさんあります。ミラちゃんのこともそう。他にもいろいろ、……。ですから、神への昇格の件は、一旦保留とします。まだあなたは7歳の男の子ですから、今回はスキルの付与だけにしておきますね!」
「ふぅ、……ありがとうございます」
思わず、ホッとため息が漏れた。
つまり、現状、私は「神の御使い」のまま、「神様見習い」にクラスチェンジすべく待機なさい、……ということかな?
それはそれで、大変恐れ多いことなんだけどね。
さて、……と。
チートスキル「マジックハンド」。
なんなら、ちょっと試してみたいかも!
「ふむふむ。晴子さん、このスキルに興味がおありですか?」
「はいっ。大いに興味がありますっ!」
女神様が、こちらの目の色を探るように、じっと見てこられた。
「それは何より。では、晴子さん、……両手を前に差し出して下さいな!」
「はいっ」
スッと両手を前に出すと、女神様は手首をギュッとお掴みになった。
すると、いつものように繋がれた両手から「真・善・美」の力の奔流がなだれ込み、全身隅々まで多幸感に包まれてゆく。
「プフゥ~ッ」
思わず息を漏らすと、女神様が「まぁ、こんなもんかな?」と仰いながら、先程まで掴んでいた手をお放しになられた。
「晴子さん、……それでは試してみましょうか?」
「はいっ」
ハルコンは、現在隣国コリンドの帝都に向かって進んでいる女エルフに、さっそく思念を同調させてみた。
すると、視覚野に現地の映像が流れ込んできた。
まだ森の中のようだが、樹々の合間から、遠方に帝都の外壁が見えてきた。
どうやら、女エルフは既に国境を越え、帝都付近にまで達しているようだ。