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「女エルフさん、お疲れ様です。今、『念話』しても構いませんか?」
『ハッ、ハルコン様っ!? もっ、もちろん大丈夫ですっ!!』
突然の「念話」に驚いたのだろう。女エルフの心が大いに揺れて緊張するのを、思念を同調させているハルコンもダイレクトに感じた。
「驚かせてすみません。今、女エルフさんはどの辺りにいらっしゃいますか?」
『先程国境を越えたところです。継馬を手配して頂いたおかげで、迅速に動くことができました!』
ハルコンは、まだあれから16時間しか経過していないのに、もう国境を越えたことに正直驚いた。
通常なら、馬車で一週間以上かかる距離を、ごく短時間で女エルフは移動してしまったのだから。
「それは良かったです。女エルフさん、あなたが身体を壊したら身も蓋もありませんから、……。これからは隣国コリンドで継馬もできませんので、ムリをせずお願いしますね!」
『了解です、ハルコン様!』
心なしか、ハルコンの視覚野に映る風景の移動速度が、若干収まったように見える。
「女エルフさんの見立てでは、後どれくらいかかりそうですか?」
『そうですねぇ、……今からムリに帝都に向かっても、夕刻には門が閉められてしまいます。私の身体能力を駆使すれば宮殿に侵入も可能ですが、……如何いたしましょう?』
ハルコンは、隣国の第三皇女殿下の容態を、とにかく一度診てみないと何とも言えないなぁと思った。
とにかく、隣国の情報はあまりにも少な過ぎる現状のため、迷いどころなのだが、……。
ハルコンは、ここでちらりと紅茶を飲んでいる女神様を見た。
「明朝、宮殿に訪ねても問題ありませんよ。向こうの姫君の容態は、今持ち直しているようですから、……」
「ありがとうございます!」
ハルコンは女神様に頭を下げると、再び女エルフに「念話」を送った。
「今、隣国の姫様の容態は落ち着いているようです。もう直ぐ夕方ですから、本日は移動を終えて、野営をして頂けますか?」
『了解です。私はまだまだイケますが、馬がそろそろ限界のようです。近くの河原で、これから準備に入ろうと思います』
「そうなさって下さい。とりあえず、落ち着いたら軽食と飲物を差し入れますので、受け取って頂けますか?」
『えっ!? ハルコン様、差し入れって!? 一体、何を仰られているのですか?』
「はい。キンキンに冷えた飲み物と、王都で流行のサンドイッチを用意しますので、それまで野営の準備をなさって下さい!」
『了解です。よくワカりませんが、とりあえず野営の準備をして、次の連絡をお待ち申し上げます!』
ハルコンは、ここで「念話」を切ると、女神様にペコリと頭を下げた。
「さて、……と。ハルコン君は、これからいろいろと忙しそうですから、私はここで帰らせて頂きますね。『マジックハンド』のスキルをちゃんとお渡ししましたから、……どう使っても構いませんよ!」
「ありがとうございます! 何から何まで、大変感謝申し上げます!」
「いぃえぇ。では、またの機会に!」
その言葉と共に、笑顔の女神様はスッと姿をお隠しになられた。