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26 隣国の姫君の容態_01

 ハルコンは、真夜中もず~っと自室兼研究室で「試薬A」を精製する作業に没頭した後、2、3時間だけベッドに横になっていた。


 そして、まだ暗いウチに目を覚ますと、洗面で顔を洗いながら、女エルフに思念を同調させてみた。

 すると、女エルフは川で朝マズメの最中で、その両手には、しっかりとよく太ったニジマスが握られていた。


 ハルコンは、さっそくスキル「マジックハンド」を使って、試しにそのニジマスの血と腸を、こちらまで転送させてみる。


「うわっ、……、凄いね、これ!?」


 両手で作ったお椀に、たっぷりと血と内臓が載っている。

 その場で直ぐに洗い流すと、ニジマスの腸を持って窓を開けた。


 外に向かってポォ~ンと放り投げると、トンビによく似た野鳥がキャッチして、そのまま飛び去っていく。


 ハルコンが再び女エルフに思念を向けると、彼女は不思議そうに血と腸の抜かれたニジマスを焚火で炙っていた。


 夜明けから、少しずつ日が差し始めた頃には食事を終え、女エルフは野営地を出発する。

 その際に、昨日の夕方に渡した食器やトレーをハルコンが「マジックハンド」で回収すると、女エルフもそれで漸く気付いたようだ。


『ハルコン様、……あなたでしたか!』


「はいっ。本日の任務、よろしくお願いしますねっ!」


『了解です!』


 女エルフは馬に跨ると、森の中の一本道を駆け抜けてゆく。

 ハルコンの見立てでは、馬速は時速40キロを優に超えていた。


 道の先に、帝都の巨大な外壁が、だんだんと立ちはだかるように迫ってくる。

 漸く森を抜けると、荒れ野には、外壁の内側に入り切らない住民達のバラックが延々と続く。


 見ると、簡易的で粗末な造りの建物が連なり、垢まみれで粗末な身なりの人々が、帝都へと馬を走らせる女エルフに鋭い視線を送ってくるのだ。


 そのバラックにある無数の建物から、道にまで溢れる程の生活汚水が垂れ流され、刺すような臭いが鼻をつく。


 ハルコンは女エルフと共に、思わず顔を顰めた。

 これでは、女盗賊から聞いた以上に、隣国コリンドの事態は深刻なのではないか。


 先ずは仙薬エリクサーの「試薬A」抜き、いわゆるプロトタイプBを、隣国コリンドの宮殿に届けなければならない。


 とにかく、それを飲みさえすれば、完治とまではいかなくとも、かなりの体調回復が見込まれるはず。


 おそらく向こうは私のことを、仙薬エリクサーを生み出した「大賢者」の再来、もしくは「神の御使い」だと騒ぎ出すかもしれないね。


 でもさぁ、……病に苦しむ隣国の第3皇女殿下が少しでも楽になるのなら、まぁそれくらい構わないとハルコンは思った。

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