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26 隣国の姫君の容態_02

   *          *


 ハルコンは、寝間着姿から軽装服にさっそく着替えた。

 朝食の時間までの一時間、作業台の席に着くと、昨晩の実験の続きに励んだ。


 今、ハルコンの目の前のビーカーには、薄青く半透明の液体がなみなみと入っている。


「とりあえず、徹夜で仙薬エリクサー『プロトタイプA』を作ってみたけど、……さて、どうだろうなぁ。イケそうな気がするんだけどなぁ、……」


 そう呟くと、ハルコンは別のビーカーからミミズを一匹取り出し、舟形トレーの上に置いて、しばらくの間、じっと観察する。


 その個体は、他のそれよりも弱っているのか動きが鈍く、このままではそう長くは持たないだろう。


 ハルコンはクライミング(スポイトに似た実験道具のこと)で「プロトタイプA」を適量吸い出すと、ざっと中身をチェックする。


「とりあえず、5ccかな?」


 精密機器のような両眼で確認すると、その薄青い液体を弱っているミミズに少しずつ垂らしてみる。

 すると、……しばらくしてミミズの動きが活性化し始めたのだ。


 その様子を、科学者の冷徹な目で観察し続けるハルコン。


「なら、……お次は」


 そう言って解剖用ナイフを手に取ると、何の躊躇いもなくピンセットで無理やり押さえ込んだミミズの真ん中に、スゥーッとメスを入れた。


 サクッとふたつに割れたミミズは、突然のことに大暴れだ。それぞれが身を強くくねらせながら藻掻いている。


 ハルコンは、再び切開面に『プロトタイプA』を垂らす。

 それからしばらくの間、じっと見つめていると……。


 ふたつの切開面が互いに吸着し、元の一匹のミミズに復活したのだ。


「ここまでは、……想定どおりかな」


 ハルコンは前世の晴子の時代、この不思議な現象を研究室の者全員で確認していた。


 あの当時は、20人のスタッフと共に作業をしていたのだが、……。

 今はたったの一人で、……その実験を継続中だ。


「ふぅ~っ!」


 ここでひと息吐くと、突然部屋のドアをノックする者がいる。

 えっ!? こんな朝早くに、一体誰だろう?


「はぁ~いっ。どなたですかぁ?」


 ハルコンは大きな声で呼びかけると、そのままドアの近くまで歩いていく。


「ハルコン・セイントーク。私だ、寮長だ。朝早くにすまない!」


 その言葉を聞いてドアを開けると、寮長の直ぐ後ろに、学生服姿のシルファー先輩が難しい顔をして、こちらをじっと見つめていた。

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