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26 隣国の姫君の容態_05

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 今回の、シルファー先輩と寮長との早朝からの突発の面会。

 いつの間にか、ハルコンの役割や将来についての話だけでなく、近隣諸国との外交問題にまで話が膨らんでいた。


 ハルコンとしては、こんな朝早くからするべき話じゃないだろうに、と思うのだが、……。


 おそらく、シルファー先輩と寮長は、王宮で宰相や外交官、技官、医官達と徹夜で会議をしてきたのだろう。

 何というか、2人からは、固い決意のようなものがチラチラと垣間見られるのだ。


 昨晩ファイルド国各地のNPCの様子を探った際、シルファー先輩は侍女のセロンと仲睦まじく、寝間着姿でブラッシングをしていたよなぁとハルコンは思い出す。


 それが一夜明けてみたら、シルファー先輩は目の下にクマをこさえ、目はギラギラと、とても迫力がこもっている。

 推察するに、夜中、王宮で急遽会議が始まったのだろう。


 シルファー先輩も就寝中に起こされて、そのまま強制的に参加させられたのかもね、とハルコンは少しだけ同情した。


「それでね、ハルコン。今回、隣国コリンドに送った仙薬エリクサーは、ちゃんと完成品なのかしら?」


 シルファー先輩が、率直に訊ねてきた。


「ちゃんと完成品、……と仰いますが、先輩はどの程度の効能だと完成品とお考えになりますか?」


「ふむ。まぁ、そうですねぇ、……その薬剤で第三皇女殿下の病状が回復したら、もうそれだけで私には完成品に思えますね」


「なるほど」


 ハルコンは、シルファー先輩の言葉から察するに、体質改善までいけば、もうそれで万能薬、仙薬エリクサーと見做しているのかもなぁと、大体理解した。


 その場合、「試薬A」を含まないアイウィルビンのみの水溶液、いわゆる「プロトタイプB」で十分満足なものという認識なワケだ。


「ちなみにだが、ハルコン。その仙薬は、人間にもちゃんと試してはいるんだな?」


 寮長も率直に訊ねてきた。


「いわゆる『治験』は、私が直接行っていますので、安全は確認済みです。本来なら、より多くの人で試したいところなのですが、それは今後、王宮からの支援を待って始めたいところですね」


「そうでしたか。では、その仙薬エリクサーの実物を拝見させて頂いてもよろしいですか?」


「えぇ。もちろんです、シルファー先輩」


 ハルコンはひとつ頷くと、「プロトタイプB」を冷蔵庫に取りにいく。

 ちらりと振り返ると、シルファー先輩と寮長は、ひそひそと何やら話し込んでいた。


 もしかすると、まだ他にも話すべきテーマがあって、こちらの手のウチを見てから話そうとしているのかもしれない、とハルコンは思った。

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