* *
ハルコンは、手際よく紅茶の用意をすると、茶葉がふわりと浮くタイミングでカップに注ぎ始めた。
シルファー先輩と寮長は、流れるようなハルコンの作法に、思わずほぅーっとため息を吐く。
「相変わらず、手際がいいですわね、ハルコン」
「ありがとうございます」
シルファー先輩のお褒めの言葉に、素直に喜ぶハルコン。冷蔵庫からミルクの瓶と麦芽糖も取ってきて、シルファー先輩と寮長の前にさりげなく置いた。
「気を遣わせて、すまないなハルコン」
「いぃえぇ」
寮長にもニッコリ微笑むハルコン。
それから、シルファー先輩と寮長は、サッと半分程飲み干した。
さて、この2人は王宮からどんな話を持ってきたのだろうか?
とりあえず、心してかからないと。
そう考えて、ハルコンは緊張の糸を途切れさせないよう、グッと気を引き締める。
「ハルコン、結論から先に申し上げます。あなたには、我がファイルド国王陛下より、差し当って男爵位を授ける予定であるということをお伝えします。今後、我が国の薬学を司る者として、大いに活躍することを陛下はご要望です。よろしいですか?」
「えっ!? 私が、……男爵ですか?」
シルファー先輩の言葉に、さすがのハルコンもかなり動揺した。
マジですか!? 私、まだ7歳の子供ですよ!?
正直、そんな顔をしていたのだろう。寮長が真面目な顔をして、うんうんと頷いた。
「ハルコン、この話は、先ず前段階の扱いだ。キミが、ほぼ独断で隣国コリンドの姫君に仙薬エリクサーを送ったことを、王宮は既に把握しているんだ!」
「そう、……でしたか」
「我が国は隣国との関係を、もう二度と戦争の起こらない関係にしたいと強く願っている。仮にエリクサーで姫君の体調が回復した暁には、隣国はこれまでとは打って変わって態度を軟化させてくるだろう」
「……」
この件は、国王陛下と、宰相、それに父カイルズが何度も話し合って出した結論だ。これまで、その会合を私はずっと窺ってきたんだとハルコンは思った。
「そこで我々は、今後コリンドを含め、近隣諸国とは『善隣外交』を展開するつもりでいる。そのために、キミにはぜひとも力を貸して欲しいのだ!」
「つまり、医学、薬学、衛生学の力で、他国の人々の生活をサポートするということですね?」
「そのとおりよ、ハルコン!」
シルファー先輩も、心がこもった面持ちで強く相槌を打つ。