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ムムムッ。「いつ、こちらにいらっしゃいますか?」って訊ねられてもさぁ、……。
さて、……どうするかなぁ? とハルコンは思った。
まぁ、……「マジックハンド」のスキルを使いさえすれば、こっちから瞬時に隣国の宮殿にだって飛ぶことは十分可能だ。
でも、向こうで何らかのトラブルが起こった場合、私の属性から厄介なことになると思うんだよね。
そもそも、私、ハルコン・セイントークは、隣国では「敵国の貴族」という扱いだ。
そんな人間が、易々と宮殿の奥深くまで入っていくっということだからね。
おそらく、現地で私は「神の御使い」として認識されているのかもしれないんだけど。
そうなると、私がスキルを使って向こうにいった途端、ありとあらゆる手を尽くして、ファイルド国に戻ることを阻止してくるんじゃないかなぁと思うんだ。
それこそ、ムリやり「亡命」扱いなんかにしちゃってさ。
『ハルコン様、今後、如何なさいますか?』
女エルフが、率直に訊ねてきた。
ハルコンとしては、できればしばらくの間、女エルフには隣国コリンドの宮殿にとどまって貰いたいところだ。
そうすれば、彼女をパイプ役にして、こちらと隣国を行き来することが可能だからね。
「とりあえず、次の薬剤を補充した後も、もうしばらくの間、女エルフさんは現地にいて頂けませんか?」
『えぇ、構いません。私はハルコン様のご指示に従います!』
なるほど、それは助かるなぁとハルコンは思った。
「ありがとうございます。では、現地の方に伝言をお願いします!」
『はい。何とお伝えいたしましょう?』
「私、ハルコン・セイントークは、隣国ファイルド国所属の貴族です。国王ラスキン陛下の許可なくコリンドに入国することは、国王陛下のご意思に反することになります。ですので、お約束した物資だけは、この後で転送いたしますが、私自らは、このたびはそちらに伺うことを控えさせて頂きます、……そうお伝え頂けますか?」
『了解いたしました。では、さっそく、……』
ハルコンは、さっきからずっと女エルフの視野を借りている状態なので、向こうの現地の様子が丸ワカりだ。
女エルフが許可なく訪問できないことを伝えると、皇帝陛下を始め第三皇女殿下も皆、とても残念そうな表情を浮かべていらっしゃった。
まぁ、こればかりは仕方がない。
現状、両国はまだ「一時休戦」関係にあるのだから。
はいそれと私が隣国に伺えば、それはファイルド国で「謀反」と見做されてしまい、父上、ひいてはセイントーク家に多大な迷惑をかけてしまうことになる。
でもさ。だからといって、私は、このまま隣国コリンドを見捨てるつもりはないよ。
差し当っては、ドワーフの親方が目覚め次第、冷蔵庫をセットで送らせて頂こうかな、とハルコンは思った。
室内から窓の外を見ると、陽光が差し、もうすっかり朝になった。
おそらく、本日もまた季節外れの暑さが続くのだろう。
ここでいったん作業を中断すると、ハルコンは再び手と顔を洗って、食堂に朝食を摂りに向かった。