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「フゥィィーッ!」
とりあえず、……今回の件は上手くいった。ハルコンは少しだけ長いため息を吐いた後、ドワーフの親方に思念を同調させてみた。
おや? どうやら、親方は久しぶりの就寝中のようだ。いびきや歯ぎしりの音が、こちらにまで伝わってくる。
「ふふっ。ちゃんと寝てくれたようだね!」
思わず、クスリと笑うハルコン。
今回、仙薬エリクサー「タイプB」の備蓄の半分を、隣国の宮殿に送った。
先日、王都の森の「聖地」にて回収したばかりの酵素、アイウィルビン。
現在も室内の暗所にて培養を続けており、身の回りで自分だけが使う分には不足はない。
だけど、……。この薬剤の評判は、直ぐにあちこちで立つことになるだろう。
今後はそれぞれの求めに応じて、各地に提供開始することになるはずだ。
ハルコンはちらりと培養槽に目をやった後、冷蔵庫の方まで歩いていく。
「ひぃー、ふぅー、みぃー、……」
冷蔵庫の蓋を開けた後、残りの備蓄分のボトルの数を改めて確認する。
「今回、隣国の皇室に多めにご提供しちゃったからなぁ、……。こちらの王室にも、ちゃんと届けないとマズいよね?」
そう呟いた後、ハルコンは隣国の宮殿に待機中の女エルフに、再び思念を同調させる。
すると、その視野に映る光景は、とても和やかな雰囲気に包まれていた。
過不足なく皇室の方々に薬剤が配布され、侍従や侍女達にも薬剤が提供されたようだ。
室内にいる人々は皆一様にリラックスした表情を浮かべ、しばらくぶりの安心感を満喫しているように見受けられた。
「女エルフさん、皆様には大体配り終えましたか?」
『はいっ。宮殿に仕える者で体調の悪い者を中心に、大体配布し終えました。結果は良好です。目に見えて顔色も良くなり、動きが活発になっている様子です!』
確かに、ハルコンの目にもそのように見える。
どうやら、取り合いや独り占めをする者もおらず、症状の悪い者から優先して、薬剤が提供できたのかなぁと思った。
「それは、良かったです。薬剤の追加は、数日後に待ってくれるようお伝え頂けますか?」
『了解です。ハルコン様、今回の件で、陛下が直接会って礼を述べたいと仰っておりまして、……。如何されますか?』
「そうですねぇ、……」
ハルコンはそう呟きながら、先程より女エルフの傍に元気そうにお立ちになる、少女を見つめていた。
その少女は、先程までベッドに臥せっておられた第三皇女殿下だ。
それが、いまではもう見た目健康そうな明るい瞳をして、興味深そうにこちらの様子を窺っていらっしゃるのだ。
ハルコンよりも見た目少し年上の彼女は、バラのような麗しき笑顔を浮かべて、こう仰った。
『ハルコン様は、いつ、こちらにいらっしゃいますか?』と。