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27 隣国の姫君の回復_06

   *          *


「フゥィィーッ!」


 とりあえず、……今回の件は上手くいった。ハルコンは少しだけ長いため息を吐いた後、ドワーフの親方に思念を同調させてみた。


 おや? どうやら、親方は久しぶりの就寝中のようだ。いびきや歯ぎしりの音が、こちらにまで伝わってくる。


「ふふっ。ちゃんと寝てくれたようだね!」


 思わず、クスリと笑うハルコン。


 今回、仙薬エリクサー「タイプB」の備蓄の半分を、隣国の宮殿に送った。


 先日、王都の森の「聖地」にて回収したばかりの酵素、アイウィルビン。

 現在も室内の暗所にて培養を続けており、身の回りで自分だけが使う分には不足はない。


 だけど、……。この薬剤の評判は、直ぐにあちこちで立つことになるだろう。

 今後はそれぞれの求めに応じて、各地に提供開始することになるはずだ。


 ハルコンはちらりと培養槽に目をやった後、冷蔵庫の方まで歩いていく。


「ひぃー、ふぅー、みぃー、……」


 冷蔵庫の蓋を開けた後、残りの備蓄分のボトルの数を改めて確認する。


「今回、隣国の皇室に多めにご提供しちゃったからなぁ、……。こちらの王室にも、ちゃんと届けないとマズいよね?」


 そう呟いた後、ハルコンは隣国の宮殿に待機中の女エルフに、再び思念を同調させる。


 すると、その視野に映る光景は、とても和やかな雰囲気に包まれていた。

 過不足なく皇室の方々に薬剤が配布され、侍従や侍女達にも薬剤が提供されたようだ。


 室内にいる人々は皆一様にリラックスした表情を浮かべ、しばらくぶりの安心感を満喫しているように見受けられた。


「女エルフさん、皆様には大体配り終えましたか?」


『はいっ。宮殿に仕える者で体調の悪い者を中心に、大体配布し終えました。結果は良好です。目に見えて顔色も良くなり、動きが活発になっている様子です!』


 確かに、ハルコンの目にもそのように見える。

 どうやら、取り合いや独り占めをする者もおらず、症状の悪い者から優先して、薬剤が提供できたのかなぁと思った。


「それは、良かったです。薬剤の追加は、数日後に待ってくれるようお伝え頂けますか?」


『了解です。ハルコン様、今回の件で、陛下が直接会って礼を述べたいと仰っておりまして、……。如何されますか?』


「そうですねぇ、……」


 ハルコンはそう呟きながら、先程より女エルフの傍に元気そうにお立ちになる、少女を見つめていた。


 その少女は、先程までベッドに臥せっておられた第三皇女殿下だ。

 それが、いまではもう見た目健康そうな明るい瞳をして、興味深そうにこちらの様子を窺っていらっしゃるのだ。


 ハルコンよりも見た目少し年上の彼女は、バラのような麗しき笑顔を浮かべて、こう仰った。


『ハルコン様は、いつ、こちらにいらっしゃいますか?』と。

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