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「では、そろそろ。そちらに仙薬エリクサー『タイプB』を転送させて頂きますかね?」
『はいっ。現地では、次の到着を大変心待ちにされております!』
ハルコンは、隣国の宮殿で待機中の女エルフに、再び念話を送った。
どうやら、現地ではもう受け入れ準備は完了しているようだ。
「では、これから指定薬剤を、『冷蔵庫』と呼ぶ冷却する箱に入れて転送しますので、……。女エルフさんは、空いた場所の手配をお願いします!」
『了解です、いつでも構いませんっ!』
女エルフは、こちらの指示どおりに、室内の空いたスペースに両手を突いた。
向こうの皇室の方々がどこか不安そうな顔をして、女エルフの様子をじっと見つめている。その緊張感が、ハルコンの許にまでじわりと届いてくる。
「それでは、いきますっ!」
ハルコンは、現地の安全を女エルフの視野を借りて確認すると、黒い木製の筐体をさっそく転送させた。
『『『『『ウワッ!? これは、どうしたことだっ!?』』』』』
突然、空間に現れた黒い木製の筐体に、現地は大騒ぎだ。
この場にいらっしゃる皇室の方々、侍従や侍女までが、驚愕の目でその筐体を見て騒ぎ出している。
隣国の彼らにしてみれば、まさに神の為せる技。
『噂どおり、ファイルド国には「神の御使い」様がいらっしゃった!』
『このお力で、宮殿の上空から何か巨大な物体を落とすことも、できるのではないか!?』
そう嘆きながら、体を震わせる者もいる。
ホンと、……「マジックハンド」は、こちらの能力を端的に示す点で万能だねっ!
ハルコンは、思わずほくそ笑む。
「無事、届きましたかね?」
『はいっ、ハルコン様。届きましたが、現地では皆様が大変驚きのご様子です!』
「まぁ、……そのようですね」
皇帝陛下を始め、その筐体を囲んで皆ワイワイと騒ぎ出している。
そりゃぁ、そうだろうなぁ。私がかつていた地球でも、こんな転送技術なんてなかったしなぁと、ハルコンはうんうんと頷きながら思った。
『ハルコン様、とりあえず、この筐体の使い方をご説明頂けますか?』
「そうですね。先日お渡しした氷結魔石入りの『弁当』箱と、基本同じですよ」
『なるほど』
「この『冷蔵庫』は、その名のとおり低温槽と冷温槽の二槽構造になっています。低温槽の取っ手を引くと、中に仙薬エリクサー『タイプB』が入っています。備え付けのレシピを見ながら、用量用法どおりにご家族様もお飲みになって下さいね!」
『了解しました。直ぐにご指示どおりに、ご家族様にもお飲みになって頂きます!』
「はい。手配、よろしくお願いします!」
女エルフは、喧々諤々の議論を始めていた皇室の方々を、やんわりと制止する。その後で、彼らの目の前で筐体から追加の薬剤を丁重に取り出した。
薬剤がボトルになみなみ入っているのを見て、彼らの議論は止んだ。
女エルフは、こちらが伝えたとおりに、淡々と薬剤の提供を開始した。