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27 隣国の姫君の回復_05

   *          *


「では、そろそろ。そちらに仙薬エリクサー『タイプB』を転送させて頂きますかね?」


『はいっ。現地では、次の到着を大変心待ちにされております!』


 ハルコンは、隣国の宮殿で待機中の女エルフに、再び念話を送った。

 どうやら、現地ではもう受け入れ準備は完了しているようだ。


「では、これから指定薬剤を、『冷蔵庫』と呼ぶ冷却する箱に入れて転送しますので、……。女エルフさんは、空いた場所の手配をお願いします!」


『了解です、いつでも構いませんっ!』


 女エルフは、こちらの指示どおりに、室内の空いたスペースに両手を突いた。


 向こうの皇室の方々がどこか不安そうな顔をして、女エルフの様子をじっと見つめている。その緊張感が、ハルコンの許にまでじわりと届いてくる。


「それでは、いきますっ!」


 ハルコンは、現地の安全を女エルフの視野を借りて確認すると、黒い木製の筐体をさっそく転送させた。


『『『『『ウワッ!? これは、どうしたことだっ!?』』』』』


 突然、空間に現れた黒い木製の筐体に、現地は大騒ぎだ。

 この場にいらっしゃる皇室の方々、侍従や侍女までが、驚愕の目でその筐体を見て騒ぎ出している。


 隣国の彼らにしてみれば、まさに神の為せる技。


『噂どおり、ファイルド国には「神の御使い」様がいらっしゃった!』


『このお力で、宮殿の上空から何か巨大な物体を落とすことも、できるのではないか!?』


 そう嘆きながら、体を震わせる者もいる。


 ホンと、……「マジックハンド」は、こちらの能力を端的に示す点で万能だねっ!

 ハルコンは、思わずほくそ笑む。


「無事、届きましたかね?」


『はいっ、ハルコン様。届きましたが、現地では皆様が大変驚きのご様子です!』


「まぁ、……そのようですね」


 皇帝陛下を始め、その筐体を囲んで皆ワイワイと騒ぎ出している。


 そりゃぁ、そうだろうなぁ。私がかつていた地球でも、こんな転送技術なんてなかったしなぁと、ハルコンはうんうんと頷きながら思った。


『ハルコン様、とりあえず、この筐体の使い方をご説明頂けますか?』


「そうですね。先日お渡しした氷結魔石入りの『弁当』箱と、基本同じですよ」


『なるほど』


「この『冷蔵庫』は、その名のとおり低温槽と冷温槽の二槽構造になっています。低温槽の取っ手を引くと、中に仙薬エリクサー『タイプB』が入っています。備え付けのレシピを見ながら、用量用法どおりにご家族様もお飲みになって下さいね!」


『了解しました。直ぐにご指示どおりに、ご家族様にもお飲みになって頂きます!』


「はい。手配、よろしくお願いします!」


 女エルフは、喧々諤々の議論を始めていた皇室の方々を、やんわりと制止する。その後で、彼らの目の前で筐体から追加の薬剤を丁重に取り出した。

 薬剤がボトルになみなみ入っているのを見て、彼らの議論は止んだ。


 女エルフは、こちらが伝えたとおりに、淡々と薬剤の提供を開始した。

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