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「おや。どうしましたか?」
ハルコンは見上げながら、定食のトレーを置くノーマンに訊ねた。
「いや。別に大した用じゃねぇよ。ここだけ席が空いているから、オレが座っただけさ!」
ハルコンはノーマンにそう言われた後、ちらりと周囲を見た。
すると、周りの学生達は遠巻きにこちらの様子を窺っているため、目と目が合った学生にはニコリと笑顔で返した。
「……、ふぅ~ん。まぁ、そういうことにしておきますか」
「うっせぇ、……」
「……」
ここでハルコンは、敵対者に接する時によく使う、独特の営業スマイルを浮かべた。
これは、前世の晴子の時代からよくやっている表情だ。
ごくたまに、晴子に対してルッキズムで馴れ馴れしく接してくる男子の先輩がいた。
そんな時、晴子は独特の営業スマイルで無難に対応していた。
すると、女子網で構成された絶対領域が作動する。
彼女達がひとたび行動を起こせば、軟派な男子生徒など、即座に居場所を失うことになっていたようだ。
まぁ、……今は異世界で男子生徒をやっているワケだし。
晴子の頃と同じ手を、今さら使うつもりもないんだけどねぇとハルコンは思った。
目の前のノーマンを見ると、最近王都でも流行り出している白パンをちぎって、スープに浸してかっ喰らっている。
さて、……と。とりあえず、ノーマンから何か話をするつもりはないらしいな。
まぁ、いっか。私も食事の途中だしね。
目の前のガキが犬食いしているのは頂けないが、こちらに非があるワケではない。
そのまま、やり過ごすことにしますか、……とハルコンは思った。
ハルコンはノーマンに対して急速に関心がなくなり、そのまま朝定食に手を出し始めた。
このスープ、最近王都でもバターが出回り始めたからかな。ちょっとだけ使っているね。
玉ねぎの刻んだものと、ホンとよく合っているなぁ。
「おぃ!」
新しい調理素材をどんどん取り入れてくれるし、ここの食堂のおばさん達、結構優秀だなぁと思った。
「おぃっ、ハルコン! さっきから黙ってないで、返事をしろっ!」
「うるさいなぁ! こちらは学食を楽しんでいるんだよ。野暮な真似はよしてくれない?」
思わず本音が出てしまった。周囲を気にしてちらりと見ると、皆一様に驚いた表情を浮かべている。
これは、考えなしだった。まぁ短気は損気だなぁと後悔していると、言われたノーマンが一番驚いた表情を浮かべていた。
「聖人君子みたいなオマエでも、カッとなったりするのな!」
ニカリと笑うノーマン。
「えっ!? 私は聖人君子ではありませんよ!」
そうハルコンは反論してみたものの、ノーマンがこちらをそんな目で見ていたのかと知り、思わず「なるほど」と心の中で呟いた。